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偽物の魔法使いは大魔法使いと魔法開発史を再現する  作者: 雲居 残月
第20章 帰省と魔獣

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20.6 祖父の歴史

 実家に帰省して二週間ほどが経っている。俺は、数日かけて祖父についての資料を読み進めた。

 まだ全て確認しきれていないが、当時のおおよその状況は分かった。


 ここ百年ほどの王国は、最大版図を誇っており周囲にめぼしい強国はない。戦争といっても小競り合いが中心で、国境線を脅かすような本格的な戦闘はほとんどない。


 ただ、例外はいくつかある。その一つは、南の密林地帯の群小王国との争いだ。

 森が深く、ザラエル王国からの進軍は事実上不可能だ。逆に群小王国からは小規模な軍が王国領地に侵入してくる。彼らは野盗のように領地を荒らして、王国の富を奪っていく。


 この南の密林地帯では、数十年に一度の頻度で、有能な王が誕生する。そうした王が誕生すると、周囲の小国を吸収してザラエル王国に波のように押し寄せてくる。


 祖父はもともと平民出身の叩き上げだった。農家の三男として生まれて、口減らしのために王都に出稼ぎに行き、軍隊に入った。

 そこで頭角を現して、各部隊の連絡係のようなことをやっていた。身分は低かったが、頭の回転が速く、目端が利いたのだろう。


 祖父が軍隊で連絡係をやっていた時期、マガスという南方王国が勢力を広げて、討伐軍が組織された。

 討伐軍は、王都から遠く離れた場所で戦闘をおこなう。そのため、柔軟に軍を率いることができる隊長が求められて、祖父は百人長の一人に抜擢された。


 いろいろとあり、祖父はマガスの当時の王を討ち取った。無謀な作戦で特攻させられたが、その難局を切り抜けて、祖父は武功をあげたようだ。

 マガスの王は十以上の魔法を所持していた。それらは討伐軍の総指揮官が接収した。総指揮官は、無謀な作戦を立てて、祖父を特攻させた人物だ。

 総指揮官は、接収した魔法の中から、最も役に立たなさそうな魔法を祖父に与えた。それが『張りぼての物真似』だった。


 この魔法の授与は、王国の戦時恩賞制度と呼ばれるルールに基づくものだった。

 王都から遠く離れた土地での功績には、現地ですぐに恩賞を与える。兵士の士気を高めて、組織を維持するための制度だ。


 おそらく王都近くでの戦いだった場合には、恩賞は金品だったことが想像できる。物資が不足しがちな遠方での戦いだったために、祖父は魔法を得ることができた。


 この魔法の授与は、帰国後に問題になった。王国の上層部では、祖父を貴族にするか議論が続けられた。

 王国はすでに最大版図である。マガス王国軍の討伐も、ザラエル王国への侵入を撃退しただけて、新しく獲得した領地はない。

 マガス王国の領地に侵入するには、密林を切り拓かなければならなかった。


 祖父を貴族として遇するには、領地を与えなくてはならない。そして王国の法では、貴族にしないのならば魔法を取り上げなければならない。


 当時、敵国の王を討ち取った祖父は、民衆のあいだで絶大な人気を誇っていた。魔法を取り上げて、貴族にしないという選択は考えにくいものだった。

 王国軍の正式な恩賞として魔法を与えたことは、このような問題を発生させた。


 解決に手を挙げたのは、当時のフルール伯爵だった。彼は討伐軍で、祖父の直属の上司だった。総指揮官の無謀な作戦を止められなかった負い目もあったのだろう。

 フルール伯爵は、自身の娘と祖父を結婚させ、領地の一部を管理させたいと王国に申し出た。


 フルール家は王都から離れている代わりに、土地を豊富に持っている。その広大な土地を管理するには有能な部下が多数いる。そうした事情もあった。

 フルール伯爵は代々こうした婚姻政策で、強い忠誠心の配下を増やしていた。魔獣狩りのときに来ていた近隣の貴族というのは、俺のランドール家を含めて、そうした家の者たちだ。


 最終的に俺の祖父は、一人の女性と結婚した。フルール伯爵は、自分の屋敷で働く者の中から、器量のよい娘を養子にして、俺の祖父に与えた。それが俺の祖母にあたる女性だ。

 ランドール家は、フルール家とは直接の血縁関係はないが、家系図上ではフルール家の傍流になった。


 こうして俺の祖父は、忠義に厚い有能な部下として、フルール伯爵を主君に仰ぐようになった。


「こうやって改めて確認すると、お嬢の家には足を向けて寝られないな」


「そんなものか?」


「ああ、祖父の代だけでなく、今もよくしてもらっているからな。魔法学校に行けるようになったのも、フルール家のはからいだしな」


「まあいい。今の話で分かったことがある」


「何だ?」


「ザラエル王家は、全ての魔法を管理することには成功しなかったということだ。けっこうな数の魔法が、国外に流出した。

 野良の魔法使いがいるから、ある程度は想像していた。貴族からこぼれ落ちた魔法だけでなく、国境線の外から入ってきた魔法もあるはずだ」


「単眼鬼が存在しているのも、そうした経緯の可能性があるというわけだな」


「ああ。本当のところはどうなのか分からないがな」


 マルの言葉に、俺はうなずいた。


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