20.5 領民と糸
俺には、帰省のあいだにやるべきことがいくつかあった。そのうちの一つは、領民とのあいだに、魔法の糸を繋いでいくことだ。
昔ながらの貴族であれば、領民に子供が生まれるたびに、問答無用で魔法から霊魂の糸を繋いでいくのだろう。
しかし、ランドール家の領地では、そうしたことはおこなわれていない。貴族としての知識や慣習の蓄積がないからだ。そのため、すでに大人になっている領民とのあいだに、魔法の糸を繋いでいかなければならない。
俺は領地に住む人々のもとを周り、魔法のために魔力を供給して欲しいと頭を下げて回った。
抵抗に遭うと思っていた。魔力を奪われるということは、生きるための活力を奪われることと同じだ。しかし、誰もが気軽に応じてくれた。領主の役に立つのならばと言って、魔法の糸を繋ぐことを認めてくれた。
彼らがこれほどまでに優しいのは、俺のことを認めてくれているからではない。領民たちは、俺の両親のために魔力を提供してくれているのだ。
俺はただの子供だ。そして、俺の両親はよき領主としてこの地方で振る舞ってきた。その両親のこれまでの統治の結果が、俺に魔力を提供するという領民たちの行動に繋がっていた。
俺の父親は魔法を使えなかった。そのことで俺の父も母も貴族としては危うい人生を歩んできた。しかし、領民たちに対して、貴族としての義務は果たしてきた。
俺の両親は、魔法は使えなかったが魔法を使う土壌は育んできたのだ。
俺はそのことに感謝しながら、領地に住む全ての人々のもとを訪れ、頭を下げて回った。
◆◆◆
――七月中旬。
帰省の期間は後半に入った。俺は、実家に戻ったらやっておこうと思っていたことの一つに着手することにした。
祖父の記録を精査することだ。この一年で、知らなかった知識を大量に学んだ。今の視点で祖父のことを調べれば、魔法学校入学前には分からなかったことにも、気づく可能性がある。
俺は父に、屋根裏部屋にある祖父の遺品を調べることを告げて、調査を開始した。
天井の蓋を棒で押し上げたあと、はしごをかけた。屋根裏に上がったあと、雑多な荷物を見て音を上げそうになった。
「年に何回かは掃除をしているはずだが、けっこう埃をかぶっているな」
「まあ、ふだん人が出入りしない場所なら、そんなものだろう」
マルが出てきて声を返す。俺は、どこから手をつけようかと思い、周囲に目を走らせた。
祖父は、もともと王国軍の百人長だったと聞いている。平民だが、そこそこ出世したという叩き上げだ。特に学があったわけではない。俺の知る限り、日記を書くような人でもなかった。
よくよく考えると、俺は生前の祖父から「戦争で活躍して、魔法をもらって貴族になった」という話しか聞いていない。雑な話だよなと思った。
「当時の書類を精査していくか」
魔法学校に入る前から、ランドール家の書類は俺が代筆することも多かった。また、フルール家に出入りして書類作業の手伝いもさせてもらっていた。
魔法学校に入ってからは、公的文書の読み書きだけでなく、裏の意図の読み取り方も習った。昔よりは読みこなせるだろう。
「まずは掃除だな」
溜まった埃を集めては窓の外に捨てる。ある程度ましになったところで、木箱を開けて中の書類を取り出した。
机の上に書類を重ねる。俺は椅子に座り、四十年前の書類を確認し始めた。




