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偽物の魔法使いは大魔法使いと魔法開発史を再現する  作者: 雲居 残月
第20章 帰省と魔獣

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20.4 魔獣退治

 山にはすでに数十人の兵士たちが来ていた。フルール伯爵や、彼の親族の魔法持ちたちもいる。近隣の貴族たちから若い魔法使いも派遣されていた。


 台の上に立ったフルール伯爵が一同を見渡す。


「よくぞ集まってくれた。みなに礼を言う。今日の作戦を話す。

 山を囲んで、輪を徐々に縮めていく。とはいえ、相手は空を飛ぶから、上空も気をつけてくれ。必ず戻る巣のような場所を発見できた場合は、そこに罠を張る。

 カラスが変化した魔獣は、過去の記録にもいくつかある。不可視の攻撃を使うものもいたが、いずれも近距離に限定されている。弓矢で牽制して距離を置け。怪我を負わないことを第一に考えてくれ」


 フルール伯爵家の兵士長が、地図を広げて持ち場を告げる。俺も自分の場所を確認する。グラノーラは『癒やしの手』の魔法が使えるので、指揮所となるフルール伯爵の手元に残ることになった。


「くー、私もカラスの魔獣と殴り合いたかった」


「お嬢は、回復係なんだから、大人しく後方にいろ」


「アステル。こっそりと女装して、私と入れ替わらない?」


「馬鹿なことを言っていないで仕事をしろ」


 俺はグラノーラと別れて、山の麓の持ち場に移動した。


 低い角笛の音が鳴り響き、山狩りの開始が告げられた。


「よし、行くか」


「肉体の目に頼るな。霊魂の目を使え」


「分かった」


 マルの助言に従い、微細な霊体を放って探査を始める。森は枝や葉で頭上が見えない。上にも放つことで、目では追えない範囲もカバーする。


 一年を通しての修行でだいぶ魔力量が増えた。探査範囲を広げられるかと思い、なるべく遠くへと飛ばしてみる。

 中心から周囲に放つために、距離が遠くなれば網の目が粗くなり、探査の精度は格段に落ちる。そう簡単にはいかないかと思い、最初の状態に戻した。


 羽音が聞こえた。そちらに探査を集中して弓矢で射落とす。ただのカラスだ。矢を抜いて回収した。

 あちこちでカラスの悲鳴が聞こえる。魔法持ちが複数集まっている。それぞれの能力で対処しているのだろう。それに、魔法を持っていなくてもフルール伯爵配下の兵士たちは練度が高い。ふつうのカラスを狩るのは児戯にも等しいだろう。


 包囲の輪が徐々に小さくなってきた。カラスと遭遇する頻度も上がってきた。どこかにカラスの集団ねぐらがあるはずだ。そろそろ誰かが発見してもおかしくない。


「少し探索範囲を広げてみるか」


 数が多くいれば、スカスカの探索でも当たりが出る確率は上がる。しばらく探索を続ける。左斜め前方に反応がある。集中的に調べて、集団ねぐらがありそうだと当たりをつける。


 俺は、左の方に見える兵士に声をかけた。


「前方に何かいそうです」


 分かったと声が返ってくる。顔見知りも多いから、魔法学校のように孤立はしない。俺も左斜め前を警戒しながら歩を進める。


 カラスの声が多く聞こえるようになってきた。やはり左斜め前方だ。魔獣と化したカラスがいるはずだ。気配を探りつつ輪を縮める。


 いつの間にか、集団ねぐらを囲むように輪が形を変えていた。前方に気配がないなら速く移動し、気配があるなら慎重に移動する。その結果、輪の縮む速さが場所によって変わっていったのだろう。


 カラスの声が大きくなってきた。霊体の探索をおこない、魔獣を特定した。

 肉体よりもはるかに大きな霊体が重なっている。不可視の攻撃は、この霊体の外縁から繰り出されるのだろう。


 矢に霊撃をまとわせる。狙いを定めて、物体化の補助をつけて矢を放つ。


 俺が放った矢は、ありえない飛び方をする。弧を描くのではなく、一直線に木々のあいだを抜けてカラスの肉体に到達する。

 悲鳴とともに魔獣のカラスは落下する。俺は左横の兵士に声をかけて足早に近づいた。


 魔獣のカラスはまだ死んでいない。大きく膨れ上がった霊体は健在だ。


「下がっていてください」


 魔法が見えない人間では、不意打ちされる可能性がある。


 剣を抜いて虚空で振る。兵士にはそう見えただろう。

 実際は剣に霊体をまとわせて、魔獣の霊体をぶった切った。


 魔獣のカラスが悲鳴を上げてのたうち回る。霊体の表面に物体化が起き、周囲の木々に爪痕を残す。俺はその動きを見極めながら、剣を振って魔獣の霊体をズタボロにする。


 カラスの動きが止まった。俺は近づいて剣を突き立てる。肉体にとどめを刺した。

 続いて魔獣の魔力を吸う。無意味な物体化をして魔力を消費して、再度魔力を吸う。同じことを繰り返して、可能な限り魔力を吸い尽くした。

 これでしばらくは魔獣のカラスは誕生しなくなるだろう。


「魔獣を仕留めました!」


 大声で周囲に報告する。フルール家の魔法使いが何人かやって来て確認する。彼らは原理を知らないだろうが、感覚で魔獣の存在は分かる。


「魔獣です。確認しました。討伐は、ランドール男爵のご子息アステル殿です」


 山に兵士たちの歓声がこだました。被害を出さずに、魔獣討伐は無事に終わった。


 その日の夜は、フルール伯爵の屋敷の庭で宴会があった。俺は称賛の言葉を多くの人にもらい、フルール伯爵から褒美をもらった。


「あー、私も狩りに参加したかったな」


 立食で肉を食べているとグラノーラが近づいてきて愚痴を言った。


「回復係だから仕方がねえだろう。それに伯爵令嬢だし」


「私も魔獣と戦いたかったわ。アステルだけずるい!」


「ずるいと言われてもなあ。お嬢だったら、どうやって狩りをした?」


 愚痴を聞いてやるのも俺の仕事だ。それに、どういう方法を採るのか知りたかった。


「まず、山にいる精霊たちに聞き込みをして、おおよその位置を探る。次に風の精霊たちと取引をして、飛んで逃げられないようにしてもらう。

 その上で乗り込んでいって、あとは格闘よ!」


 グラノーラは拳を握って振り上げる。


「最後の脳筋な部分が理由で、後衛に下げられたんだろう」


「ぐっ」


「でも、俺たちだけで狩りをするなら、前半の精霊とやり取りするのが正解なんだろうな」


 俺はマルを呼び出す。グラノーラの作戦でうまくいったと思うかと尋ねた。


「それなりの贄がいるだろうな。霊餅(れいへい)だけでは報酬が足りないと思う。獣を狩って捧げたり、家畜を絞めて捧げたり、そうしたことをすれば交渉できたと思うぞ」


「霊餅だけでは駄目なのか?」


「簡単な願いを叶えるだけなら通るだろうが、他の精霊と争えというのは精霊にとっては簡単なことではない。人間社会でもそうだろう。戦争に協力してくれと言われて、はいと気軽には答えない」


「確かに」


「今回は、フルール伯爵の作戦と、アステルの戦闘で目的を達成されたのだから、それでよかったと思うぞ」


 マルの話を聞き、グラノーラはさらにいくつかの作戦を提案してきた。俺たちは、熱く語り合いながら、宴会の料理をついばんだ。


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