life2.魔物編-命舞う戦場
気が付くと私は知らない場所にいた。周りは多くの草木で生い茂っている。
どうやら何処かの森に転送されたようだ。
左腰のポーチからレーダーを取り出して画面を見つめる。
青く点滅しているものが画面の中央にある。そして黄色の点滅が画面中をせわしなく動き回っている。
白馬の教えてくれた通りなら、それが私と同じ生徒達だろう。
そして、赤色の点滅が私の背後から迫ってきている。
直ぐに私はレーダーを元に戻し、輝合石さんから貰った銃を構える。
ドクン、ドクンと心臓が鼓動しているのが分かる。何回も深呼吸し、震える体を止めようとする。
次の瞬間、全身が緑の小柄な怪物が茂みの中から飛び出して右手に持っているこん棒を振り下ろす。
私は咄嗟に横に転がり、体制を整えるとゴブリンの頭上をジャンプで飛び越える。
事前に言われてた様に身体能力は飛躍的上昇しているようだ。
私は近くの木の枝に着地しようとした。
「え゛!?」
ボキッという嫌な音が耳に入る。運悪く脆い箇所に着地してしまった。
体は真っ直ぐ落下し、その下にはゴブリンがこん棒を持って待ち構えている。
ああ、いきなり死にそう。
そう思っていると、視界の隅に光が映る。
次の瞬間、私の真下にいたゴブリンは勢いよく吹っ飛ぶ。
地面にお尻から落ち、ドスンと落下すると私は光が飛んで来た方向を向く。
そこには杖を構えた白馬がいた。白馬の持っている杖は持つ部分が銀色なのに先端の白い石を囲む部分だけが木製だ。
白馬は私の側に駆け寄り、私の前に出る。
「赤梨さん。大丈夫?」
「あ、うん。大丈夫」
白馬に答え、私は立ち上がる。すると、ゴブリンも起き上がり、こちらに突っ込んで来る。
それを見て白馬は杖を構ええ、魔法の詠晶を始める。
「緑の輝きよ、今こそ我の前に現せ」
「ウインドカッター!」
白馬の杖から緑色の風が現れ、ゴブリンに向かって真っ直ぐ進み、ゴブリンの体を切り刻む。
ゴブリンはそのまま前に倒れ、動かなくなった。
「これで一安心ね・・・それより赤梨さん。本当に大丈夫?」
「うん。一応・・・」
私は歯切れ悪く答えた。今のがターゲットなのだろうか。だとして、私は生き残れるだろうか。あんな化け物と戦う自信はない。
そうしていると、前方から人が近付いて来た。
「白馬、赤梨さん。探したわよ」
ルーンだった。
彼女はポケットや鞄等に、銃や爆弾を持っていた。彼女は物理攻撃が主らしい。
「ちょうど良かった。ルーン、これから三人で行動しましょう」
白馬がルーンに同意を求める。
ルーンは直ぐに答える。
「ええ、赤梨さんもその方が安心でしょう」
実際、私としてはその方が心強かった。私は此処の事を知らないから慣れている二人には一緒にいて欲しかった。
「ありがとう」
私は二人の後に付いていく。
暫く辺りを歩いたものの、敵の反応は無かった。
私は隣にいるルーンに話し掛ける。
「ねぇ、ルーンはどうやって白馬と知り合ったの?」
「え?」
ルーンは思わず目を点にした。前を歩いていた白馬も私達に振り返る。
「白馬とは・・・二ヶ月前に会ったの」
その頃、白馬はちょうどお姉さんを亡くしていて、凄く沈んでいたの。
どうしても放っておけなくてね・・・
最初はそっけなかったけど少しずつ心を開いてくれてね・・・
「今ではこうして赤梨さんの世話焼く程のおせっかいさんよ」
「もう・・・」
ルーンは私達にウインクする。白馬は抗議したげな顔をしたが、顔を真っ赤にして俯く。
それを見て、私は、いいなぁ、と思った。
私には生前にもこんな信頼してそうな人は見たこと無いし、そんな人は私の側にもいなかった。
ルーンはさっきの事が恥ずかしいのか、そそくさとレーダーを取り出す。
その時、
「グオオオオオオオオオオ!!!!」
地面が一瞬揺れるかと思うくらいの咆哮が聞こえた。
「な、何・・・?」
私は白馬に視線は向ける。
すると、白馬は自分のレーダーを私に見せる。
「ここ、見て」
白馬が指差した所を見ると、虹色の点が点滅している。
「これ・・・何?」
「これは・・・ラスボスよ」
白馬は私から目を背けて、苦々しそうにいう。
白馬のお姉さんはラスボスとやらにやられたのだろうか。
「ラスボスって何?」
「そのミッションの中で一番強い奴よ。こいつさえ倒せばミッションは終了なの。但し、ラスボスを倒さないとそのミッションは失敗と見做され、得点が0になってしまうの」
白馬はそう言って前方に向かって歩き出す。
「あの、そんなに強い奴なら、相手にしない方が・・・」
「駄目よ。皆がそう考えるから、誰かが倒さないとまた0点になるわ」
私は止めたかったが、白馬とルーンはやる気のようだ。
仕方なく私は二人に付いて行った。
暫く進むと、白馬は急に動きを止めた。
「この先にいるわ。慎重に行きましょう」
白馬のいう通り、見つかる前に仕留めたいものだ。
私達は近くの岩影に身を潜め、暫く様子を伺う事にした。
私は自分が岩の端側にいるので、敵から見られているか心配だったが、どうやら敵は私に気付いてないようだ。
「じゃあ、まずはばれないように・・・」
ルーンは声を潜め、相手に聞こえないように作戦を話し出す。そしてそのまま白馬や岩石ごと吹っ飛び、ゴロゴロと転がる。
・・・・・・
待て、
今
ナニガアッタ?
吹き飛ばされた岩が在った向こうを見る。
そこには・・・
深くグロテスクな印象の青い体。私の二倍以上ありそうな図体にベッドほどありそうな巨大なこん棒。
そんな巨大な怪物が強烈な殺意をこめた目で私を睨み落とす。
「・・・」
私、死ぬかもしれない。
そう思ったのは三回目だった。




