99:雛兄と猫。
「インパクト!!」
入り口を塞いでいた岩を、インパクトで砕く。その破片は通路の方へと飛んでいき、傍にいたモンスターを貫いた。
「行きますっ」
「おおぉぉぉぉぉぉ!」
大塚さんが献身スキルを発動。
彼の体から光る鎖が飛び出し、俺たちの体と繋がった。
これで、俺がモンスターに攻撃されても痛みを感じることも、傷を負うこともなくなった。代わりに大塚さんがそれらを全部肩代わりすることになる。
だから、可能な限りモンスターからの攻撃を受けない!
「インパクト! インパクト!」
小部屋から飛び出して、すぐさまモンスターにインパクトを叩きつける。
「悟くんっ。悟くんっ」
「サクラちゃん? どうした!」
サクラちゃんが大塚さんの肩の上だ。その隣にはヒーラーの女性がいて、彼女には魔力ポーションと、普通のポーションも複数渡してある。
大塚さんの傍を歩く生存者にもポーションを渡していて、順番にポーションを彼に掛けてもらうよう打ち合わせをした。
とにかく回復速度が要になるからな。
「悟くん。スキルを使わずに、普通にパンチして、キックするだけでいいと思うの」
「え? スキルを使わなくていい? でもそれだと――」
それだと確殺出来なく……と思ったけど、俺のレベル、120を超えたんだった。
この辺りの適正レベルは70ぐらいか?
スキル使わなくても、いけるかも?
そう思って拳を突き出した。
モンスターが吹っ飛んだ。
インパクトを使った時ほどじゃないけど、うん、これならいいか。
インパクトは拳に力を溜め込んで打つから、ちょっとだけ時間がかかる。
ただ殴るだけでいいなら楽だ。
殴って殴って、時々蹴り上げて。
少しずつ、少しずつ前進し、今も耐えてくれているみんなの下へ向かう。
だがなかなか進めない。
冒険者は六人。それと俺、ブライトが戦闘メンバーだ。
後ろから迫るモンスターはもちろんだけど、前にいるモンスターも倒せば数が減る……わけじゃない。
その奥の通路からもどんどん湧いて出てくるから、前進するのも簡単じゃない。
「献身がある! 多少強引でも進めっ」
「大塚さん……。大塚さんの言う通りよみんな! ここで時間をかけてる方が、大塚さんの負担が増えるだけだから!」
「クソッ。大塚さん、すんません!」
「構うな、行け!」
「後ろは俺が引き受けます。二人は前を」
「三石くん……わかった。行くぞ、アキラ」
一緒に後方から押し寄せる冒険者二人を前に行かせた。この方が俺も戦いやすい。
それに上からはブライトが――あ、あれ?
「ブライトがいない?」
「フ、フクロウでしたら、さっき前の方に飛んでいきましたよ」
と生存者が教えてくれる。
ブ、ブライト!?
フェザーで後方のモンスターを攻撃する手はずになってたはずなのに。
援護がないとなると、ちょっと厳しいぞ。
殴って蹴って殴って。数が減らないのが辛い。
たった百メートル。それだけ進めば十字路にたどり着くのに。
あぁっ。ブライト、どこ行ってんだよ!
「悟うぅぅーっ!」
「ブライト!?」
言ってる傍から戻ってきた!?
「受け取れ、悟っ」
「え? 受け取れって……ツララ!?」
ブライトは足で掴んだツララを離した。
落下してくるツララ。
「しゃとるにぃに~っ。チェンジッ」
え、え、えぇぇーっ!?
チェ、チェンジって、落下の途中で!?
「ウラアァァーッ」
オラオラ系ヴァイスが現れる。一緒に宙から現れたのは、白黒ぶち模様の貫禄ある猫。
「ひ……秀さん!?」
「おうよ。加勢に来てやったぜ」
「か、加勢って、秀さん、攻撃系スキルも持っていたのか!?」
猫だもんな。きっと手数の多い攻撃スキルがあるんだろう。それとも一撃必殺の猫パンチとか?
「あ? 持ってねぇよ」
…………。
「え?」
「俺ぁな、防御と回復、それからスキル封じしかねーんだわ」
「回復!? それなら大塚さんにっ」
「あれはまだ平気だろ。それよかこっちの方がいいんじゃねえか。ほらよっ」
秀さんは前脚をぱんっと合わせ、その手を床に突いた。
「絶対領域――」
秀さんの声を共に、ドーム状の白い光が発生する。秀さんから半径五メートルぐらいか?
通路を完全に塞いでいる。
「ぼぉっとすんじゃねえ。さっさと領域内のモンスターを倒してくれや。俺がここから一歩も動けねぇんだからなっ」
「あ、あぁ。ありがとう秀さん!」
領域の向こうにいるモンスターは、光の壁に阻まれてこちら側に来れないようだ。
完全防御壁か!
領域内のモンスターを全部倒し終える。
「しんがりは俺にまかせな。お前ぇはあっちの加勢に向かえ」
「これ、効果時間は?」
「俺が手を突いてる間ずっとだ。まぁ魔力がなくなりゃ消えるが、そこは心配すんな。最長で三時間は持つぜ」
三時間! 十分過ぎる時間だ。
でも前方の加勢をするにしても、狭くてうまく戦えない。
となったらやることはひとつ。
懐にヴァイスを入れ、落ちないようベストのチャックをしっかり閉める。
そして――壁走りで十字路まで行き、足を止めた。
そのまま床に着地して、殴る、蹴る、殴る! ここでモンスターを足止めして、後ろへ流れるのを阻止。
「三石!」
「青山さん!」
「合流するぞっ」
「はい!」
赤城さん、白川さん、青山さん、それから三人の冒険者が十字路近くまでなんとか後退していた。
十字路に戦力が到着したことで、三方からのモンスターの進行を抑える。
そして……。
「来たわよ、悟くん!」
「サクラちゃん! 大塚さんはっ」
「大丈夫だ。後ろからのモンスターの進行が完全に止まったからな。むしろ過剰な回復になったぐらいだ」
合流した時、大塚さんは無傷だった。




