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はい、こちらダンジョン捜索隊~自分はレッサーパンダだと言い張る相棒の♀タヌキが、うっかり記録用録画を配信してしまった件。  作者: 夢・風魔
5章

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92/197

92:狩る。

「モンスター、排除完了!」

「半径百メートル範囲内にモンスターの気配なし!!」


 兄妹のチェンジでやって来た冒険者は、高レベル帯の人たちが中心になっている。

 十人ほどがこの場を守り、数人は一階へ続くルートのモンスターを排除し続けるために出発した。


 雛兄妹のチェンジはかなり便利だが――。


「ツララ、大丈夫か?」

「眠いのぉ」

「よしよし。寝ていいぞツララ」


 やっぱり消耗している。所謂魔力切れだ。

 地上の方でも、ヴァイスがやっぱり眠そうにしているそうだ。川口さん然り。兄妹より少しマシって程度だった。

 それもあって、自力歩行が出来る人には捜索隊が付き添って歩いて地上まで出てもらう。

 そのために冒険者が安全を確保するために協力してくれた。

 負傷して歩けない人たちだけ、チェンジや握手スキルで地上へ直接送る。


「これよりショッピングモールへと突入する。ショッピングモール内の地図は渡してあるが、ここはダンジョンだ。地図通りの構造だとは思うな」

「「はいっ」」

「よし、じゃあ――」


 後藤さんがくるりと俺たちに背中を向け、ショッピングモールのガラス前に立つ。

 ここは最上階。レストランが入る十階だ。外の景色を眺めるためようの大きなガラスがある。といっても普通のガラスじゃない。かなり硬いはずだ。

 それを後藤さんが――


「うらあぁぁぁぁっ!」


 気合の声と共に拳を光らせ、殴った。

 後藤さんのスキル『強パンチ』だ。

 スキル性能としては、俺のインパクトの下位互換にあたるが、長年鍛えられたスキルはただのパンチの域を凌駕している。


 拳がガラスを捉え、ほんの一瞬だけ静寂に包まれる。

 次の瞬間、パァンッと大きなガラスが粉々に砕け散った。


「よし。待機チームは、悪いがガラス片の片付けを頼む。では入るぞ! 秋田、頼む」

「任された」


 まずは冒険者が中に入る。それから――。


「くんくんくん。あれ? あっちから人間のニオイするワン!」

「するする。わんわんわんわん」


 犬部隊だ。

 戦闘スキル持ちもいるが、今回は全員が参加している。

 姿の見えない要救助者を探すのに、これほどうってつけの存在はいないからな。


「曽我チーム、行ってくれ」

「了解。ワン太、案内してくれ」

「わんわんっ。任せるわん!」

「他の者は奥へ進むぞ」


 やっぱりモール内に生存者が残っているんだ。

 それは俺たち捜索隊にとって希望である、同時に一秒を争う状況にもなる。

 ここはダンジョン内だ。モンスターがモール内に入り込んでいる可能性だってある。

 急いで見つけないと。






 俺の不安は的中した。


「喰らえ――フェザー!」


 ブライトがふわりと宙に舞い、光の羽根を前方に飛ばす。

 いたのは派手な色をしたウミウシのようなナメクジのようなモンスターだ。

 適正レベルは20ぐらいだったかな。


 ブライトのフェザーは物理攻撃じゃなく、魔法攻撃に近いらしい。

 全身に何本も刺さって、ウミウシモンスターは即死した。

 

「へっ。僕にとっては雑魚だね」

「あぁ。お前にとってはな。でも普通の人にとっては、脅威でしかないんだぞブライト」

「お、おぅ。そうだった」

「悟くん。私たちは下の階にいけばいいのね」

「うん。地下には食品フロアがあるから、俺たちはそこを目指すんだ」


 ショッピングモールの地下一階が食品フロアになっている。さらに地下二階と三階は駐車場だ。

 赤城さんたちと冒険者数組は地下三階を目指し、秋山さん、後藤さんたちのチームと冒険者数組が地下二階を目指す。

 もちろん、その道中で発見した生存者の救助も行わなければならない。


「千葉から捜索隊と冒険者が到着したそうだ。もうすぐ神奈川と埼玉からも応援が駆け付けるから、救助スピードも上がるだろう」

「じゃあチェンジが必要ですか?」

「川口くんがモール入口で、護衛の冒険者と握手をして転送を開始している。ツララは起きてるか?」

「ツララ。お仕事だぞ。起きれるか?」


 ここでブライトが「子供を寝かせてやれ!」なんて怒らないから、この親子は本当に偉い。


「おちごと~?」

「後藤さんよ、何回だ?」

「六回ぐらいだろうから、兄妹で三回ずつだな」

「わかっちゃー。にぃにも出来う? にぃにお疲れなら、あたちやる」


 インカム越しに聞こえる地上でのやり取りでは、ヴァイスがまったく同じことをスノゥに話していた。

 それから兄妹がチェンジし、ヴァイスが二回、ツララが一回で転送は終わり。

 なんとか回数を減らそうと、人間側も工夫したようだ。


「それにしても、まさか肩車でくるとは……」


 ヴァイスorツララを、一番背の低い人が頭に乗せる。

 八人ぐらいが体重の軽い人を肩車し、円陣を組んで雛に触れる。肩車してもらっている人たちも、頭に乗せた雛には手が届くってわけだ。


 後藤さんが説明をしながら歩き、俺たちは下の階を目指す。

 フロアマップを見ているけど、やっぱり部分的にダンジョンが侵食しているな。

 実際のショッピングモールより、面積が二倍ぐらいになっている。


 止まっているエスカレーターを使って下りていくと、人の声が聞こえた。


「誰かー、誰かいるのかー!?」

「いまぁーすっ。捜索隊ですっ。今七階にいますが、そちらは何階ですかぁーっ。他に生存者はぁー?」

「四階だっ。他に二十人ぐらいいるっ」


 俺たちは急いでエスカレーターを駆け下り、声の主の方へ。

 今の声で近くで救助を待っている人たちも気づいたはずだ。赤城さんたちが途中の階層で立ち止まって周辺を探した。


 ダンジョン内で大きな声を出すのはタブーとされている。

 その声でモンスターが集まってしまうからだ。


 だけど時と場合によっては、それもやむなしだ。

 声がしたのならすぐに駆け付ける。そして声を聞いて集まる異形の怪物たちを――。


「ひ、ひいぃぃぃ。あなた、モンスターが!」

「うっ。く、来るなぁぁぁっ」

「目を閉じて!! インパクトッ」


 狩る!


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