67:Nooooooooo!
「おい、悟。ご両親が来てるぞ」
「え? りょ、両親が!?」
時刻は九時五十分。
後藤さんが待機ルームへ来てそう言った。
「悟くん、もしかして忘れたの!?」
「え? 忘れてるって?」
「今朝おばさまが言ったじゃない。『今日はお父さんと一緒にお店に行くわね』って」
……え?
「悟くん、エアロバイク漕いでて聞いてなかったわね」
聞いてないも何も、イヤホン付けてたし。聞こえるわけないじゃないか!
慌てて一階へおりると、ロビーには車いすの父さんと、それを後ろから押す母さんの姿が見えた。
「母さんっ。バイク漕いでるときはイヤホン付けてること多いんだから、聞こえてないかもって思わなかったのっ」
「思った~。でも別にいいかなぁって。それとも来ちゃいけなかったの?」
うっ。別に悪かないけどさ。
あ、ランキングの張り紙!?
「そうそう。悟とサクラちゃんのアクスタ、売り上げ個数一位だったんでしょ。おめでと~」
「なんで知ってんだよ母さん」
「父さんも知ってるぞ。通販サイトに載ってたからな」
載ってるのかよ。
「サクラちゃんおめでとう。四位から十位までは、全部サクラちゃんだけのグッズだよ。さすがサクラちゃん。大人気だねぇ」
「やだおじさま。大人気だなんて~。うふふ」
というよりサクラちゃんやブライトたちの写真やイラストを使ったグッズがほとんどを占めている。
人間の写真は俺のアクスタと赤城さんたちのがひとつずつあるだけ。
同じ写真でアクスタやキーホルダー、文具なんかが作られてるけど、同じもの見てもつまらないだろうに。
何故売れるのか俺にはわからない。
「悟は昔っから、笑うとかわいかったのよねぇ~」
「さすが俺の息子だ」
「あら。あなたは笑ってもかわいくなかったわよ」
ぴしゃりと言い切る母。父さんは少し拗ねてしまったようだ。
良い歳した大人が何やってるんだか。
「それでさ、まだ開店前なんだけど。なんで入ってきてんの」
「後藤さんが入れてくれたの。ちょっと見学もしたかったし」
「後藤くん、今度うちに飲みに来るって。いやぁ、久しぶりだなぁ後藤くんが家に来るの」
「魔改造中に呼ぶのはやめときなよ」
「わかってるって。お、母さんお店開いたよ」
「あぁ、本当だわっ。整理券番号四十三番なんだけど、入れるかしら?」
あれ、整理券配ってたのか。四十三番ならまだだけど、すぐ呼ばれるから列に並ぶよう促す。
「じゃあ外に行ってるわね」
「悟、何か欲しいものはあるか? 父さんたちが買って来てやるぞ」
「いらないから」
そもそも必要か? 毎日本物見てるのに。
そりゃあブライト一家はまだ家にはいないけど、それでも毎朝ブライトは家まで迎えに来てくれてるんだ。見てるじゃん。
はぁ。なんかウキウキして列に並んでるよ……。
うわ……めちゃくちゃ目立ってる外国人がいるな。白人と黒人の二人。どっちも筋肉ムキムキで背が高い。
あんなムキムキな人がグッズを?
いやいや。人を見た目で判断しちゃ悪いよな。
あんな人でも動物愛に溢れているのかもしれないし。
「サクラちゃん。待機ルームへ行こう」
「えぇ。ふふ、おじさまとおばさま楽しそうでよかった」
「……そうだね。父さんはたまにしか外に出ないし、気晴らしになってるだろう」
本当は仕事が休みの時ぐらい、俺が外に連れて行ってやればいいんだけど……。
最近、あんまり行けてないな。
「あら、ねぇ悟くん。手を振ってる大きな人がいるんだけど」
「ん? 手を――あ」
さっき目立ってた外国人だ。なんで手を振っているんだろう。誰か知り合いでも?
と思って振り向いてみたけど、俺たちの後ろには誰もいない。
ま、まさか……。
「Hi、ミスターサトル。会いたかったよ」
そう言って手を振る白人男性は、売上個数一位の俺とサクラちゃんのツーショットアクスタを握っていた。
「会いたかったよサトォル」
何故か俺は会いたくなかった……とそう思った。
「わたしはトム。トレジャーハンターギルド『ブラッディ・ウォー』のマスターを務めている」
「俺はサブマスターでエディってんだ。よろしくなサトル」
「はぁ……」
名刺を渡されてしまった。全部英語で書かれてる名詞だ。
あと……。
「サクラちゃん、キュートだ。ビューティフォー」
「まぁ、オーランドったら。うふふ」
「ブライト。君の雛たちも素晴らしい。アメージング」
「ふっ。当たり前だぜ」
オーランドもいる。
彼が所属しているギルドが、このブラッディ・ウォーらしい。
ギルドマスターとサブマスターが揃って観光?
トップ1、2が不在で大丈夫なのか?
「サトル。今日は君に会いに来た」
「え、なんで……」
「オーランドがアニマルに夢中で本来の任務を忘れてしまってね」
本来の任務?
そういやオーランドは何をしに日本へ来ていたんだろう。
「わたしたちは君をスカウトしに来たんだ」
「スカウト?」
「そう。我がブラッディ・ウォーの一員にならないか、サトル!」
お、俺がアメリカのハンターギルドに?
「すみません、お断りします」
「oh。もちろんオーケーだよな……はあぁぁ!?」
「おいおいトム。まずは条件を話してやろうぜ。な、サトル。うちに来れば年収三十万ドル払うぜ」
「もっと出してもいい。どうだ。破格の条件だろう?」
「いえ、結構です。俺、お金には困っていませんから」
「「Noooooooooooooo!?」」
さすがアメリカ人。リアクションが大きいなぁ。




