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はい、こちらダンジョン捜索隊~自分はレッサーパンダだと言い張る相棒の♀タヌキが、うっかり記録用録画を配信してしまった件。  作者: 夢・風魔
3章

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58/197

58:土星。

 シュコココッと小気味いい音を立てて、光の羽根がトレントの幹に突き刺さる。

 上下左右、四角く囲むその中に二人がいるってことだ。


「どっせぇぇーっ!」


――[土星?]


 借りた斧を力いっぱい振るって幹に打ち付ける。狙うのは羽根で囲った外側だ。

 バキャッと音がして幹の一部が、文字通り破裂した。


「見えた!」


――[普通は斧の一振りで幹に穴とか開かないからな]

――[むしろ中の人が大丈夫か心配になるレベル]

――[斧いる? 素手でいけるんじゃね?]


 避けた幹の隙間から見えたのは、シルバーの塊。

 トレントに捕まったひとりは斧を武器にしていたというし、重戦士タイプだろう。なら鎧を着ていてもおかしくはない。


「もう少し。たりゃあっ」

『オ゛オ゛オ゛オ゛』

「シュコー」

『オ゛、オ゛オ゛オ゛ォ゛ォ゛』


 斧を振るたびに幹が砕け飛ぶ。もう少しだ。もう少しでトレントから彼らを救い出せる。

 頼むから生きていてくれ。

 斧を小刻みに振って隙間を広げていく。


「援護だぜ。援護してやるぜ」



 さっきから蔓の攻撃がまったく飛んでこない。ブライトが全部フェザーで撃ち落としてくれていたのか。

 サクラちゃんは切り株オバケを俺に近づけないよう、威嚇と魅了をうまく使い分けている。

 

 ひとりだった時には決して出来なかった救助活動だ。

 仲間がいるって……そうか、仲間がいると、出来ないことも出来るようになるんだな。

 俺は俺の出来ることを――!


「掴んだっ」


――[おおおおおおおお]

――[抜けえええぇぇぇぇぇ]


 鎧を掴んで思いっきり引っ張り出す。

 ブチブチと、彼らを縛っていた蔦が切れる音がした。

 あれで血を啜っていたのか。切れた蔦から赤いものが流れ落ちているのが見える。

 どのくらい、どのくらい吸い取られた。


『ン゛オ゛オ゛ォ゛ォ゛』

「ブライト! 全力で攻撃を! シュコー」

「おう! しゅこー」


――[しゅこー言うなww]

――[ダメだ。ブライトがガスマスク着けてるように見える]


 引っ張りだしたのは二人。ひとりはフルアーマーを着た男で、もうひとりは軽装備の女の人だ。

 鎧の人は自分と大きなタワーシールドの間に女性を挟み込んで守っていたのか。


 トレントは獲物の血を吸い取るために蔦を使う。

 この人はフルアーマーのおかげで、その蔦に捕まる箇所が少なかったんだな。

 そして女性を自分と盾の間に挟むことで、彼女に絡む蔦をも減らしていたんだ。

 だから未だに体温がある。


 けど吸血されていたことに違いはない。

 間に合ったのか、間に合わなかったのか。


「あー、くそ。僕の羽根じゃ表面を傷つけるので精一杯だ」

「わかった。俺がやる」


 斧をその場に置いて、拳を握る。

 トレントの幹は太い。でも木だ。岩より硬いなんてことはないだろう。

 たぶん。


――[トレントおぉぉぉ]

――[逃げてぇー奴はゴリラより凶悪よー]

――[素手で幹破壊……もう誰にも奴は止められない]

――[どっちがモンスター?]


「うおおおぉぉぉ!」


 インパクトでぶん殴って、拳を引くときに幹を掴む。

 

「うっらああぁぁぁぁぁぁ!」

『ン゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛』


 インパクトして幹を掴んで引きはがす。インパクトして幹を掴んで引きはがす。インパクトして――あ。


「倒れるぞぉー!」

「えええぇぇ!?」

「ぬあああぁぁぁっ!?」


――[伐採!]

――[素手のきこり]


 穴を空けすぎて、トレントが倒木してしまった。

 ん? こ、これで終わり?

 意外と――いっ!?


「うわぁっ」

「悟くん!?」

「悟ーっ!」


――[しゅこー!]

――[蔦!?]

――[悟くんがミイラになる!?]


 蔦が足にっ。ちっ、やっぱり死んでなかったか。

 あの二人が閉じ込められていた幹の方へ、勢いよく引っ張られる。

 今度は俺の血を吸おうとしているのか。


「悟くんを離しなさい! がおぉーっ!!」

「んの野郎っ。フェザー!」


 サクラちゃんの威嚇は、自分より弱い相手にしか利かない。

 トレントが見向きもしないってことは、サクラちゃんの今の実力だとあいつには勝てない?

 いや、そうじゃない可能性もある。

 スキルを使い過ぎてサクラちゃんもバテてるんだ。


 俺が捕まったから無理をして……ごめんよ、サクラちゃん。

 すぐに片付けるから、待ってて。


 トレントは俺を取り込もうと蔦でぐるぐる巻きにして幹の中へ閉じ込めようとする。

 こんなもの……。


「ふんぬああぁぁーっ」


 内側から力任せに蔦をぶっ千切る。

 ワイヤーロープならいざ知らず、モンスターと言えども植物だ。蔦を切るのは難しくない。

 あとは本体を叩く!

 いや、殴る!!


「インパクトオォォッ! インパクト!」


 トレントの内側から拳を突き上げる。

 倒木しても動くなら、動けなくなるまでバッキバキに砕いてやる。


「インパクトオォォォォッ!」


 ん? なんか青紫色の丸い球が……木の実?

 幹の中に実……違う。これが奴の心臓!? 位置的にもそうだ。 


「これを砕けば――インパクト!」

『ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛』 


 バシャンっと青紫色の球が砕け散り、中からどす黒い液体が漏れ出た。

 途端に俺を捕らえようとしていた蔦の動きが止まる。


「悟くん! 悟くん!」

「大丈夫だ、サクラちゃん。そっちは?」

「私も大丈夫。オバケたち、煙になって消えちゃったわ」


 ということはトレントが死んだのか。

 あ、もう煙になり始めた。 


「おぉ、倒したのか! やったぜ」

「ブライトもお疲れ。援護、助かったよ。シュコー」

「はっはー。感謝してくれていいぜ。お? おいおい悟。木から木が出て来たぜ」

「木? あ、本当だ。たぶんドロップだろうね。シュコー。サクラちゃん、アイテムボックスに回収しといて。シュコー」

「わかったわ。ショコー」


 さて、二人の様子を見よう。

 どうか生きててくれ。


――[切り株消えたんだし、もうマスク外していいんじゃないか?]


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