195:日本に帰って来たぞい。
「ただいま」
「おばさま、ただいま~」
「お土産ないの、ごめんなさい」
「はぁ~、やっと落ち着けるなぁ」
「えぇ、本当に」
「たっだいま~」
「オレ、眠い……」
帰ってきた。時差の関係で何日ぶりなのかもよくわからない。
いや、たぶん三日もいなかったんじゃないかな。どうだろう?
「あらぁ、いらっしゃ~い」
「「お邪魔します」」
帰ってきたのに「いらっしゃい」とは――いるからだ。
「なんで俺ん家なんだよ」
「ママさんの日本食が美味しいから」
「え? め、迷惑でしたか? オーランドさんが当たり前のように着いて行ってるから、いいのかと思って」
「あら、迷惑だなんてとんでもないわ。悟のお友達が増えたんだもの、大歓迎よ。それも事前に連絡受けてるから、こっちも準備しちゃってるし」
空港に到着後、現地解散ではなくいったん冒険者含めて本部ビルへと移動。
そこで解散式を行って――まぁ協力してくれた冒険者にはカード番号を控えて、うちの製品を割引特価で購入できるPINコードを配布するってんでそれの手続きをやっただけ。
捜索隊社員の方には、明日からの勤務スケジュールのこととか少し話が合った。
ビルへと向かうバスにも、オーランドは当たり前のように乗車。
この時点でこいつはうちに来るつもりだろうなと思って、母さんに電話をしておいたんだ。
サクラちゃんが。
「さぁさぁ、上がって頂戴。晩御飯までまだ時間があるし、交代でお風呂入っちゃってね」
「やぁ、いらっしゃい。時差ぼけは大丈夫か?」
「あー……どうだろう? 結局、救助活動中もずっと寝てないし」
「飛行機の中じゃ、みーんな寝とったばい」
そう。帰りの飛行機では行きとは違う意味で静かだった。
ほとんど全員、ぐっすり眠っていた――と、金森さんから聞いた。
まぁみんな俺たちと同じで、不眠で救助活動していただろうからなぁ。
「今夜、ちゃんと眠れるのかい?」
「ど、どうでしょう」
「飛行機の中じゃちゃんと眠れていないだろうし、たぶん大丈夫じゃないかな」
「人間は羊を数えると眠れるっていうね。僕には理解できないけど」
「ネズミの数なら眠れるのかしら?」
「お腹が空くだけだと思うよ、僕は」
それもそうね、とスノゥが笑う。
人間は羊の数を数えたって空腹にはならないよ。
荷物を置いて、風呂に入って、テレビを点ける。
未だにアルジェリアのニュースが流れているが、ダンジョンの入り口は軍によってしっかり閉鎖されている。
どうやら入口周辺をコンクリートの壁で囲うそうだ。他の国でもそうしているように。
ダンジョン保有個数の多いアメリカや日本なんかが、今後、ダンジョンの管理について助言をするらしいこともニュースで言っている。
そのうちギルドのような組織も出来るだろう。
「悟、悟ー」
「はーい。なんだい、母さん」
「これ、お布団ね」
「……買った?」
見慣れないマットレスがある。
「うふふ。だって悟のお友達が頻繁に来てくれるじゃない。布団だけじゃ腰が痛いでしょ?」
頻繁……頻繁なのか……そうかもしれない。
ちょっと前までは、誰かがうちに泊まりに来るなんてなかったのにな。
「お布団二階に運んだら、夕食にしましょうね。今日はね、蟹鍋なのよ」
「え、蟹!?」
「そう。北陸の親戚から、ちょうど昨日、蟹が送られてきたのよぉ」
おおぉぉ!
母さんの親戚が、北陸で漁師をしている。その親戚が年に一度、こうして蟹を送ってくれるんだ。
ちょっとサイズが小さめだったり、足が取れていたり。市場に出すと安くなってしまうからって。
「今年は五杯も送ってくれたんだけど、ちょうどよかったわ~」
「あ、サクラちゃんたちはどうなんだろう? 蟹って食べるのかな」
「蟹? どうかしらぁ。動物園では頂いたことなかったし」
「ウチは食べるばい」
「僕らも食べるよ」
そうか。基本は肉食だし、食べるのか。
じゃあ、足を何本か味付けしないで、軽く茹でただけのやつを出してやるか。
「母さん、何本か足貰うよ」
「いいわよ、お湯沸かしておくわね」
「カニっちぇなぁ~に?」
「ん? ツララは蟹を知らないのか。ほら、これが蟹だよ」
まだ足を取ってない状態の蟹をツララに見せてやる。
すると、予想外な反応はヨーコさんからだった。
「か、蟹!? それが蟹なん? え?」
全身の毛を逆立て、かなり驚いている様子だ。
他にもブライトとスノゥも少し引いている。
「な、なんだいその赤い奴」
「さ、悟くん。そ、それが蟹?」
「そうだけど」
「大きいじゃないか!」
「そうばいっ。ウチが知っとる蟹って、こんなんやけん」
ヨーコさんが両手を揃えて、パーにして見せる。
「悟。ヨーコさんたちが知ってる蟹って、川蟹じゃないかしら? さすがに海で捕れる蟹を、野生で食べるなんてことないでしょうし」
「あ、あぁ~なるほど」
川にいる蟹か。そりゃアレと比べたらこっちはデカいよな。
「はっはっは。ヨーコさん、海にはもっと大きな蟹もいるんだよ」
「お、おじさん。これより大きい蟹?」
「あぁ。タカアシガニといってね、足を広げると、なんと……」
「な、なんと?」
水族館にいるあのデカいのかな?
確かに大きかったな。
「なんと、三メートルにもなる巨大な蟹なんだよ」
「さ、三メートル!?」
「それモンスターじゃないのか!?」
「さ、三メートルにもなる蟹って……あの蜘蛛と一緒ばいっ」
く、蜘蛛……いやサイズ感はそうかもしれないけど、でもなんか違う。
いや、違ってて欲しい。
ちょっと嫌なものを想像してしまったけど、送られてきた蟹は今年も無事に美味しくいただくことが出来た。
蟹初体験のサクラちゃんやヴァイス、ツララも、川蟹なら食べたことのあるヨーコさん、ブライト、スノゥも満足してくれたようだ。
はぁ……日本に戻ってきたんだなぁ。
蟹・・・食べたい




