194:仲良し。
地上に戻ってきた俺たちは、大音量とも言える拍手で迎えられた。
地元警察や軍隊によって規制されたその外側で、俺たちに向かって何かを叫ぶ人々。
何を言っているのかはわからない。
その声は怒号ではなく、歓声だ。
彼らの表情を見れば、言葉はわからずともなんとなくわかる。
感謝されているんだ。声援を送られているんだ。
砂まみれで戻ってきた俺たちに、再び元気を与えてくれた。
タイミングよく川口さんが地上に戻って来たので、彼と一緒にダンジョンへ。
今は捜索場所を二階に絞って、生存者探しをしているんだそうだ。
実際、多くの生存者を見つけている。その殆どは鳥たちの活躍によるものだ。
オーランドと真田さんとは別れ、俺たちはより遠くのエリアを走って探すことにした。
もちろん、ブライトとスノゥが上空から探してくれる。
そして――俺のオートマッピングが地下二階の地図を完成させた頃、捜索は終了となった。
捜索に参加した人たちが地上へと戻ると、さっきよりも更に凄い音量の拍手と歓声が出迎えてくれた。
だけど俺たちは気づいている。
その歓声の中に悲痛な叫びが混じっていることを。
「報告は以上。帰国は三時間後だ。こっちじゃどうせゆっくりできないだろ。飛行機の中で思う存分寝てくれ」
これまでダンジョンがなかったこの国で、あのダンジョンをどう管理していくのか。
政府のお偉いさん方は社長に泣きついたようだが、そこまで面倒みるかボケェーっと、社長は無視したようだ。
まぁATORAは捜索隊だったりダンジョン産アイテムの開発販売をする会社であって、管理までは行っていない。
そこはアルジェリア人の出稼ぎ冒険者だった人たちが帰国してきているから、そういう人らと相談して決めればいいんじゃないかってアドバイスだけはしたようだ。
「被害、いっぱいでちゃったわね」
「仕方ないさ。生成に巻き込まれた人も大勢いたけど、それよりも封鎖するまでに我先にと中に入った人たちがほぼ全員、その場で亡くなってるし」
「あれで何百人って死んだっていうしなぁ」
「これからはダンジョン関係の教育を徹底するのが、国の役目になるだろうね」
うちにはダンジョンがないから関係ない――では済まないというのが、今回の件で世界に知れ渡っただろう。
他人事じゃないんだ。ダンジョンという存在は。
いったい誰が何の目的でダンジョンを作っているのやら。
ところで――。
飛行機の出発時刻となり、空港で手続きをしているってのに、何故か俺の後ろにオーランドがいる。
「お前、アメリカに帰るんじゃないのか?」
「帰るよ」
「なんで同じ列に並んでんだ? こっちは日本行きだぞ」
「日本に行くんだよ」
「なんで?」
「アクスタ買うため」
そのためだけに日本に寄るのか!?
「ネットショップだと製造待ちな奴も多くてすぐには手に入らないんだ」
「いや、だからってわざわざ」
「わざわざ? 悟、君はわかっていない。推しのグッズは一秒でも早く手に入れて愛でたくなるものなんだぞ。君には推しのひとりもいないっていうのか」
「いないよ。いるわけないだろう――って、なんで同情するような目で見てんだお前」
出国手続きを終えると、オーランドも当然のように社長専用ジェットに乗り込んで、俺の隣へ座る。更に隣には真田さんだ。
サクラちゃんたちは前の座席だ。
「オーランドさん、俺にはわかります。ほ、欲しいものはすぐに手に入れたいですよね。予約で必ず手に入るとしても、発売と同時に買いたくなりますよ」
「真田、君にはわかるか!」
「はいっ。俺は推しというより、プラモなんですけどね」
「おぉ! ボクも日本のアニメのロボットプラモ、いくつか持ってるよ」
「本当に!? お、俺、自分でジオラマ作って飾るの好きなんですよ」
「本格的! 写真は? 写真はあるのか?」
……なんで意気投合してんの、ここ?
「おぉ! 素晴らしい、真田っ」
「アクスタとかと一緒に飾るのも面白そうだなって。ストーリーを決めて」
「うんうん。それは素晴らしいね。ほら悟。彼の作品、凄くないか?」
「俺は寝る」
「見てよ悟。なぁ悟ぅ」
眠らせてくれぇぇぇーっ。
「ふふ。仲良しさんね」
「新しい友達出来てよかったばい」
「……アレは仲良しっていうのかい? なぁ、スノゥ」
「うふふ。まぁいいじゃない、あなた」
「スピャー」
「スピィー」
あぁぁぁ。早く家に帰って自分の部屋で爆睡したい。




