193:一家団結。
「ピヤアァァァァッ」
ツララが……光った!
あの光はウィル・オー・ウィプスか?
デカ蜘蛛が怯んでる。今の隙に――って、ツララが消えたあぁぁ!?
「――ゥララを虐める奴はあぁぁぁぁ誰だあぁぁぁぁぁ」
「え? ヴァ、ヴァイス!?」
ツララが消えたのは、チェンジしたからなのか?
でもなんで?
ツララが消えたことで、ウィル・オー・ウィプスも消えている。
目くらましに怯んでいたデカ蜘蛛は、顔を振って体勢を立て直す。
ヴァイスとの距離は一メートル程度。あのデカさだと奴の懐も同然。
「逃げろっヴァイス!」
「やるんだ、ヴァイス!」
え? やるって……真田さん!?
真田さんは拳を突き上げ、その拳にパチパチと電気を纏わせている。
まさか……トール・ハンマーを撃てってこと!?
いやでもっ。
「ピヤアァァァァァァッ」
やる気だ。あいつ、やる気なんだな!
まだ灰色のもこもこした部分が残る羽根が、ぶわぁっと逆立つ。
その瞬間、ヴァイスの全身が青白く光った。
「トォォォォォォルゥゥゥッ」
お、お前もなのか!?
「ハッンッマァァァァァァーッピヤァァァァ」
パチパチと青白い閃光を纏い、ヴァイスが――飛んだ!
え? お前それ、キコのマッハ弾じゃないか!
蒼い稲妻を纏ったヴァイスは一度後ろに飛びのくと、今度は突進。
『キエエェェェェェッ』
バチチチチチチチっと物凄い音と共に、デカ蜘蛛の絶叫が響く。
だが一撃では倒せない。
加勢に――が、こっちの蜘蛛も必死だ。
通路の奥からどんどんやって来て、糸を吐き、俺たちを捕まえようとする。
こいつら自体はそう強くあないんだが、糸で行動を阻害されて倒すのに時間がかかってしまう。
「ピヤッ」
「ヴァイス!?」
小さな悲鳴。デカ蜘蛛の腕がヴァイスの翼を掠めた。
「ちょっとあんたぁぁっ。うちの子に何してくれてんのぉおぉぉぉぉっ!!」
「え……ス、スノゥ?」
いつも穏やかなスノゥが、ブチ切れた!?
いや、あの、さむっ。寒いっ。めちゃくちゃ寒いっ!
「ささささささささ、さぶ、さぶいわ、悟くん」
「あ、ああぁ。さ、さ、さむ、い、な」
頭に血が上って、アイスフィールドのパワーを全開させているんだ。
ど、どこまで気温が下がるんだ!?
だが、寒くなったことで蜘蛛の動きが鈍くなっている。
今がチャンスだ!
「っらぁっ」
拳を地面に叩きつけ、ストーン・ウェーブでまとめて葬る。
「私も!」
サクラちゃんはファイア・ロッドを使って、一匹ずつ確実に仕留めていった。
「僕の……僕の妻と息子に手を出しやがってぇぇーっ。このデカブス雌があぁぁぁっ」
「え? ブ、ブライト? え、そいつ雌?」
今度はブライトもぶち切れた。
雌ってことは、あれが女王蜘蛛? あのデカさなら、それもそうか。
普段、ブライトはモンスターから距離を取って攻撃している。
だが今は違う。
女王蜘蛛の背中に爪を立て、その距離からフェザーでの攻撃。
「父ちゃん!」
「おう!」
ヴァイスの声に合わせてブライトが女王蜘蛛から離れる。
ブライトが離れたらヴァイスがトール・ハンマーを纏って頭突き。
バチバチした放電が止むと、ブライトが今度は女王蜘蛛の顔面をゲシゲシ蹴りながらフェザー。
反撃しようにも、寒さに震えてまともに動けない女王蜘蛛。
そんな奴が絶命したのは、次のヴァイスの攻撃の後だった。
「んっちょ、んっちょ。お仕事お仕事」
女王蜘蛛が倒れ、動かなくなっていた子グモにも止めを指し、救助活動を再開。
「じゃあ、あのチェンジはツララじゃなくって、ヴァイスが?」
「うん、ちょーなの。ツララじゃなくって、にぃにがやったんだよ。んっちょ」
ヴァイスに聞いても、プイっと目を背けて何も言わないんだもんなぁ。
まぁいつもみたいに、照れくさくてツンツンしてるんだろうけど。
「どうもあの子、ツララのピンチを地上でも感じたみたい。それでチェンジしたんだと思うわ」
「兄妹、だからかなぁ」
「うふふ、そうね」
そう話すスノゥは、いつもの穏やかなお母さんに戻っている。
あと、アイスフィールドの温度も適温に戻してくれた。
いや、寒かった。あれは蜘蛛じゃなくても辛い寒さだ。
少し奥で救助活動していたヨーコさんとオーランドも慌てて戻ってきて――まぁ戻ってきたころには終わってたんだけど――寒いって言ってたし。
アイスフィールドの範囲、広すぎないか?
「じゃあツララちゃん、上に戻ったらこれ見せてね」
「あいっ。ヨーコお姉ちゃんのお手紙、渡すでちゅね。チェーンジ」
救助した人の中には、蜘蛛の毒にやられている人もいた。
何の毒なのか、そこまではヨーコさんのナースでもわからない。そこでオーランドが周囲の蜘蛛を滅多切りにして毒袋を回収。
それを地上部隊に渡せば、毒の解析をしてくれるってわけだ。
そのことを書いた紙を、ツララに加えてもらって救助した人と一緒に地上へ上がってもらった。
こっちに来たヴァイスの頭を撫でてやる。
「なっ、何すんだっ」
「いやぁ、お兄ちゃんって凄いなぁと思って」
「んなっ。触んなっ。ケッケッ」
一時間ほどかけて全員を地上へ送り終え、念のためこの階層をもう少し調べることに。
ブライトとスノゥが空から調べてくれたけど、他に人の姿もなく。
俺たちも地上へと戻った。




