192:叫ぶ者と叫ばない者。
「トオォォォォォール・ハンッマアァァァァァーッ!!」
「ラァァァイトニング・スラァァーッシュ!」
え、何それ。なんでスキル名叫ぶんだ?
なんでオーランドまで?
あとなんで俺を見る?
蜘蛛の糸から脱出するために、二人はスキルを使って糸を焼ききった。
俺は……インパクトは打撃攻撃。切ることも焼くことも出来ない。そもそも腕が動かせないんじゃ意味がない。
ストーン・ウェーブ。宙に吊るされている状況じゃ使えない。
「あのー。俺の糸ぉ」
オーランドは手にした剣で、他の子たちの糸を切っている。
真田さんは集まってくる蜘蛛に、なんか光の槍を振らせて片っ端から殲滅していた。いや、これまた派手なスキルだな。しかも「スラァァァァライトォォォォォ」とか叫んでるし。
もしかしてあの人、二重人格? 派手なのは恥ずかしいとか言っていながら、めっちゃノリノリで必殺技叫んでるじゃないか。
「あのー、俺の糸ぉ」
……ガン無視かよ!
クソォ。クソォ。
「ふぬ……ぬあああぁぁぁぁぁぁっ」
力任せ押し広げようとしたら、これが……ブチブチと音を立て、糸が切れたじゃないか!
「よぉっし、脱出!」
「地味だな」
「うるさい。助けようともしないくせに」
「助けが必要だったか? 君は自力で抜け出したじゃないか」
そうだけどさぁ……はぁ、まぁいいや。
「ヨーコさん。妖狐モードで吊るされている人を下ろしてやってくれ。オーランド、ヨーコさんを手伝ってくれるか」
「もちろん」
「大きくなるわよぉ~。コォン」
「下ろした人たちは一カ所に集めてくれっ。ヴァイス、準備だけしておいてくれよ」
「ヘッ」
それからスノゥには、最初の転移で一緒に地上へ戻ってもらう。こちらの状況を伝えてもらうためにだ。
全員を救出する間、俺とブライト、真田さんで防衛ラインを築く。
「サクラちゃんは救出後の人たちを頼む。もし蜘蛛が近づいたら、威嚇で注意を引き付けつつ俺たちの方に来てくれ」
「わかったわ」
しかしいるわいるわ。いったい何百匹いるんだこの蜘蛛は。
それに、オーランドと真田さんが言った女王蜘蛛ってのが見当たらない。たぶんデカい奴だと思うんだけどな。
そうこうする間に一回目のチェンジが行われた。
チェンジでやって来たツララはこの状況に驚く。
「ピヤァァーッ。おっきな蜘蛛ぉ。食べれりゅ?」
「食べちゃダメよツララちゃん!」
「ツララッ。ポンポンペインだから止めなさいっ」
「ちゅーん……」
そうか。お腹を壊すかもしれないのか。モンスターだし、毒があるかもしれないもんな。
宙づりになっている人たちは全員、気絶しているようだ――というかそうであって欲しい。
一度のチェンジを送れる人数が少ないのもあって、全員を地上に送るのにかなり時間がかかりそうだ。
糸を切るオーランドの所にも、天井から糸を伝って下りて来る蜘蛛が来ているし作業が捗らない。
もう一度こっちに戻ってきたスノゥの話だと、冒険者は全員、ダンジョン内に入って援軍がないという。
「今対策を考えているようだから、もう少し頑張ってっ」
「大丈夫。蜘蛛の攻撃はそう警戒するレベルでもないから」
というか、真田さんが強すぎる。
トール・ハンマーは思ったより広範囲攻撃ではないけれど、スターライトとかいう頭上から光のシャワーを降らせるスキルは結構な範囲で蜘蛛を殲滅していた。
スキルの間をぬって接近して来た奴ぐらい、俺が――と思ったが。
「ふおおおぉぉぉぉぉっ。炎舞!」
拳に炎を纏わせ、蜘蛛をぶん殴っている。
炎の軌跡のせいで、まるで踊っているように見えた。
なんでこの人のスキルは、いちいちド派手なエフェクトを出しているんだ。
メイン火力を真田さんに任せ、俺はサクラちゃんの方へと向かう。
宙吊りから解放され、寝かせられている人の護衛だ。
ブライトもいつの間にかこっちに来ていた。真田さんがいるから、自分の活躍の場がないと思ったんだろう。
「あとどのくらい残ってそう?」
「うぅん。奥の方にもいるみたいなの。少しずつ移動しながら救助しているわ」
「飛んで行って調べてやりたいが、あいつら壁やら天井から糸を吐いて来るんだ。捕まったら僕は飛べなくなるからね」
「わかってる。ブライト、それにスノゥ。俺たちから絶対離れるなよ」
特にスノゥだ。彼女は攻撃スキルを持っていない。
持っていないが――。
「地面の下なら暑さも和らぐと思ったけど」
「えぇ。暑いわね」
「あら。じゃーアイスフィールドしようかしら?」
「お願いスノゥ~」
暑さが和らぐどころか、蒸し暑くすら感じる。
そこへスノゥのアイスフィールドが展開し、ひんやり涼しくなった。
まぁ彼女やブライトからしたら、まだ暑いのだろうけど。
「ふぅ、快適だ。さ、ガンガンやるぞ」
と拳を構えると、何故か蜘蛛たちが後ずさり。
ん?
「あ、こいつら」
ブライトが前進する。
「こいつら、体温が高いんだな。僕のサーモセンサーで見ると、スノゥのアイスフィールドの外側まで下がっているんだ」
「寒さに弱いってことか」
「だと思うね」
それはいい。スノゥにはこのまま、救助した人の所でアイスフィールドを展開してもらおう。
これで少しぐらい離れても安全だ。
アイスフィールドの外周であたふたしている蜘蛛を拳で殴る。
殴る。
殴る。
帰ったら石鹸一個全部使って手を洗いたい……。
「こっちくるなでしゅーっ!」
え?
聞こえたのはツララの声。方角は背後。
スノゥのアイスフィールドの中心部だ。
「母ちゃん、いじめちゃメッー!!」
「やめなさい、ツララッ」
振り返ると、天井から巨大な蜘蛛が、ツララとスノゥ目掛けて飛び掛かっていた。




