191:大きすぎると美味しくなさそう。
――[配信は!?]
――[アンテナの無い階層に下りたから映像届かなくなってるな]
――[サクラちゃああぁぁぁぁん]
――[ハリーのチャンネルに行こう]
――[俺はミーナ様んところかな]
――[ミーナ?]
――[猫のミーナ。戦闘スキル系のクールビューティー]
――[クールビューティーとか死語だろ]
――『視聴者の皆さんにお知らせします』
――『三石班は電波の届かない所に下りてしまいましたので』
――『こちらのチャンネルでは、飛行部隊のカメラ映像に切り替えます』
――『生存者らしい人影が見えましたらお知らせください』
――[お疲れ様でっす]
――[よーっし。探すぞー!]
――[あぁ、何羽も飛んでるのか]
――[穴の中はどうなってんだろうなぁ]
――[サクラちゃんヨーコさん、無事かなぁ]
「キャアァァァァァァァァッ」
「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
サクラちゃんとヨーコさんの絶叫が響き渡る。
その悲鳴の原因は、俺たちの周りをカサコソと這いまわっていた。
「蜘蛛……」
確かレッサーパンダ――じゃなくってタヌキやキツネって、昆虫食べるよな?
「おやつだと思えば怖くないんじゃないか? あ、もしかして二人とも、歓喜の雄叫び?」
「「違うわ!!」」
「あんな大きいのは嫌よっ」
「そうたい! 気持ち悪いばいっ」
あんなって、そりゃあモンスターだし、大きくて当たり前だろう。
砂の上をカサコソしている蜘蛛は、頭部が人間のソレと同じサイズで、胴はその三、四倍。そこから足が伸びているから、まぁ見た目は百二、三十センチぐらいか。
「食べ応えのあるサイズじゃないか」
そう言うと、サクラちゃんもヨーコさんも、それから何故かオーランドと真田さんまで後ずさった。
え、ここってドン引きするところなのか?
ピンク色の布を発見したすぐあと、この蜘蛛たちに囲まれた。
一匹や二匹じゃない。二十匹ぐらいいる。
「ま、まぁおやつのことは置いといて、これってよくないですよね」
「よくないって、何がですか? 真田さん」
「く、蜘蛛タイプのモンスターが、その、群れで行動することは滅多にないんです」
「生息場所が同じだから、たまたま群れてるように見えることはあるけどね。それと、モンスターだから人間を見かけたらすぐに襲って来るよ」
だけどこいつらは襲ってこない。こっちの様子を窺っているような感じだ。
それに、お互いで何やら意思疎通をしているような仕草もしている。
「近くに、女王蜘蛛がいます、ね」
「そうだね。あの穴からも近かったし、もし落ちている人がいれば、捕まっている可能性が高いな」
「え? 女王?」
「女王蟻みたいなものさ。取り巻きに獲物を持ってこさせ、必要になれば餌として食う。そして卵を産むんだよ。数を増やすためにね」
栄養って……人間を捕まえて食べるのか!?
いや、モンスターの目的は常にそうだけどさ。
「悟。考え方を変えれば、捕まった人間は、直ぐに食べられたりもしないってことだ」
「す、直ぐには食べられないってことか」
「まぁ、最初に捕まった人は絶望的だろうけど」
「生成直後は、き、きっと空腹……だろうから」
「そんな悠長に話してないで、これなんとかしてよぉぉぉーっ」
あ、サクラちゃんがご立腹だ。
でも倒してしまっていいんだろうか?
むしろわざと捕まって、奴らの巣穴まで案内してもらった方がいいんじゃないかって思える。
「なぁ。蜘蛛に捕まってみないか?」
「え? さ、悟くん?」
「ウチは嫌!」
「僕も嫌だなぁ」
「いい考えだと思うわ」
「クソデカ蜘蛛!」
「ボクも賛成」
「ま、まぁ、それが一番効率がいい、ですよね」
よし、決まりだ。
だがどうしたらこいつら、俺たちのことを捕まえてくれるのだろうか?
「弱いフリでもしてみる?」
と、オーランドがその場で膝をつく。
すると蜘蛛たちが反応。
そろりそろりとオーランドに近づき始める。
弱っている人間しか捕まえないのか。
仕方ない。砂の上に寝転んで、弱弱しく呻いてみた。
すると蜘蛛たちが寄って来る。
「私は嫌ぁぁ」
「ウチもぉぉ」
「ほら、二人とも我慢して。人助けなんだから」
「「うわぁぁぁぁん」」
ひしっと抱き合う二人。その姿が弱っていると判断されたのか、蜘蛛が二人に向かって糸を飛ばした。
俺の体にも糸がぐるぐると巻き付き、やがて顔以外がすっぽりと覆われる。
蜘蛛は俺たちを担いで砂漠を移動し始めたが、すぐに砂の中へと潜ってしまった。
うわ、目を開けていられない。どこに向かうつもりなんだ?
ふわっと浮いたような感覚があったかと思うと、シュタっと地面に着地する音。
そっと目を開くと、すこは薄暗い洞窟だった。
辺りには同じように、糸が巻き付いた人の姿が見える。
ビンゴ。
穴に落ちた生存者は、みんなここに集められていたんだな!




