187:何しに来た。
目の前で盛り上がった砂。そこから出てきたのは――。
――[うげっ]
――[ワームじゃん]
――[砂漠でワームとか最悪な組み合わせだろ]
――[つか二階で出てきていいモンスターなのか?]
――[デカいしネームドじゃね?]
――[悟くん、ワンパンだ!]
大きな口を開き、真っ直ぐこっちへ突っ込んできた。
何百本あるんだよっていう、鋭い牙が見える。
あれに齧られたら、ひとたまりもないぞ。
咄嗟に後ろへ跳躍し、サクラちゃんとヨーコさんを乗せた抱っこ紐のベルトを外した。
「ヨーコさんは妖狐に! サクラちゃんを乗せて硬い土の方に避難っ」
「わ、わかったたいっ」
「悟くんは!?」
あれを倒さないと先に進めない。
インパクトで倒す!
俺を噛みつきそこねたワームが、一度砂に潜る。
ぼこぼこと砂が弧を描くように移動し、再びこちらへやって来る。
直前でまた砂からワームが出てくる。
口を開け、俺を頭からすっぽり頬張ろうってことだろうな。
でもな。それはサイドステップで躱せる!
躱して、その横っ腹にインパクトを叩きこむ!
「っらぁぁぁぁーっ!」
――[いけぇー!]
ぼすんっと、なんとも鈍い音がした。
同時に、拳がめり込む。
え?
――[え?]
――[利いてない?]
――[なんかぶるんぶるんしてね?]
――[もしかしてこれ、脂肪で打撃ダメージ吸収した?]
し、脂肪?
腕を引き抜いて一度下がる。
し、脂肪……確かに弾力がある。いや、弾力しかない。
え、打撃攻撃が利かない!?
「どうしたの悟くん?」
「利いてないんじゃない?」
一度下がって考えることにした。
「僕がやってみようか?」
「ブライトのフェザーか。利くかな?」
「任せておきな!」
「あんな奴、倒さなくたって飛んでれば平気さ」
ブライトのフェザーも効果がなかった。
「ツララも、パタパタする?」
「ツララも? パラライズかぁ」
ツララの麻痺羽は直接的な攻撃じゃないけど……問題は魔力の羽が奴に刺さるかだ。
ブライトのファザーも刺さらず、皮膚の表面でポロっと落ちたぐらいだし。
まぁ本人がやる気なので、俺が抱える→ワームの突進を回避してツララを掲げる→ツララがパラライズ・フェザー。
っていうのをやってみた。
結果。
「ツララ、役に立てなかった……」
「ツララは頑張ったぞ。うん、偉いっ」
「そうよツララ。どんなことにも向き不向きがあるの。あいつは物理やそれに近い攻撃が利かないのよ」
というスノゥの言葉は、モロに俺へと刺さる。
ぶ、物理攻撃しかない……どうしよう。
「あっ」
ん? ツララが何かに反応した。
「ツララ、バイバイちゅるの~」
「え、バイバイって――あ」
チェンジか。
ツララが消え、代わりにヴァイスと、そのヴァイスを抱えた男が現れた。
金髪碧眼。やたらイケメンな、
「はあぁぁ? オーランド!?」
「Hi、悟」
「な、なんでお前がここに!?」
「なんで? 決まっているだろう」
オーランドが歩いて来て、跪く。
「はじめまして、ヨーコさん。ボクはオーランド」
そう言ってヨーコさんの手を取った。
な、なんてキザな奴。
「な、なんなん、この人間?」
「ヨーコちゃん。彼がオーランドよ。久しぶりねぇ、どうしたのこんな所まで?」
「レディに挨拶をしに来たんだよ、サクラちゃん。冬毛でもふもふになった君は、更に魅力的になったね」
「やっだー、魅力的だなんて」
……キザだ。
だがサクラちゃんに比べ、ヨーコさんの反応は少し違う。
「こういうのがチャラ男っていうんやね。けどウチ、人間の男には興味ないたい」
「チャ、チャラ男? ボクがチャラ男?」
「うちの今の推しは、北のきつね王国にいる銀ギツネのカツオくん。はぁ……カツオくん、かっこいいばい」
誰、それ?
いやオーランド、泣きそうな顔して俺を見るなよ。
「ボクが……ボクがカツオに負けるなんて」
その時、オーランドの背後にある砂漠の砂が盛り上がった。
「オーランド、後ろ!」
危ないぞ――と言おうとしたけど、無意味だった。
オーランドを丸のみにしようと砂から飛び出してきたワームは、次の瞬間――オーランドが手にした剣によって真っ二つ。
……いいな、斬れるって。
――[アメリカ勢?]
――[救援?]
――[キツネにフられたアメリカランカー]
「ぶふっ」
「ん? なんで笑っているんだい、悟」
「いや、なんでもない」
「なんでもなくはないだろう」
「なんでもないって」
なんか面倒くさい奴だ。
「で、なんでお前がここに?」
まさか本当にヨーコさんに挨拶をするために来た?
オーランドは倒したワームを見ている。
それから振り返り、
「手伝いに来た」
と、眉ひとつ動かさずに言った。




