186:続々と
「じゃ、行くわよ~。そーれっ」
「わっ、わっ、わわわぁぁ」
……園田さんが……飛んだ。
曽我さんたちと一緒にやって来た女性ばかりの冒険者パーティー。
その中には『飛行』スキルを持った人がいた。
園田さんの浮遊は、彼女自身の手の届く範囲でしかものを浮かせられないらしい。
だから。
「園田さんが飛べば、浮遊させるボートも高い位置まで浮かせられるってことなんですか」
「実験してみたら、出来たのさ」
と曽我さんが楽しそうに話す。
自分たちでやってみたけど、遊園地の乗り物みたいだったって。
そして大塚さんは無言だ。
楽しいかどうかは、個人によって違うんだろう。
ちなみにハリーはボートに乗りたがらない。大塚さん派だ。
キコは……まぁ自分で飛んでるしなぁ。
ボートと一緒に岩の上へと飛んでいく園田さん。
上ではアルジェリア人の冒険者が、生存者をボートに乗るよう説明しているようだ。
少し揉めてるようだけど、なんだか疲れたし、スマホの翻訳じゃ音が広く届かないから説得しに行くのも面倒くさい。
「手伝ってくれと言ってなんだけど、俺たちが出来そうなこと、何もないな」
「そうですね」
『三石。生成に巻き込まれた奴らが、その階層にまだいるだろう。探せ』
「わかりました、社長」
ダンジョン生成に巻き込まれた人は、だいたい同じ階層、もしくは前後の階層にいることがほとんどだ。
ここにいたのは熱中症で倒れていた人を含めても、五十人にも満たない。
「サクラちゃん、ヨーコさん、ブライト。先へ進もう」
「私も一緒にいくわ」
「スノゥ。助かるよ」
岩の列に沿って、一旦真っ直ぐ進んでみよう。
「こちら三石。さっきの岩山からまっすぐ進んで四つ目の所でも生存者発見!」
『なに!?』
「岩山の上じゃなくて下にいますっ。日陰になっている所に八人」
「隣の岩山の上にもいたぜ~」
走り出してすぐ、生存者を発見した。
今、ブライトが隣の岩山にもいると。
「悟くん。この人たちはここではなく、向こうにいたそうよ」
日陰で座り込んでいた人たちに、スノゥが話しを聞いたようだ。
「遠くからもこれが見えるから、他の生存者がいるんじゃないかと思って来たみたい。
「そうだったのか」
「あとね……ここへ来るまでに、何人もモンスターに襲われて亡くなってるそうよ」
逃げることも隠れることも出来ないフィールドじゃ、そう……なるよな。
「ツララもヴァイスも大丈夫だし、転移してあげましょう」
「そうだな。彼らに転移の方法を説明してやってくれよ、スノゥ」
「わかったわ」
スノゥの側にいると涼しく感じる。アイスフィールドを使ってくれているんだな。
行影にいた八人は、一回の転移で全員を送ることが出来た。
ブライトが見つけた岩の上の人たちは三十人ほど。
スノゥの話だと、同じ集合住宅に住む人たちなんだそうだ。
さっきの岩山にいた人たちもそうなんだろうか。
一往復半で全員を地上へ。
「おーいっ」
「ポッポーッ」
ん?
「クロベェ上空捜索班到着!」
「おぉ。鳥部隊の到着か」
一階は木の上にモンスターもいたので、攻撃スキルを持たない鳥たちは捜索隊や冒険者に守られていたはずだ。
この階層は今のところ、飛行タイプのモンスターを見ていない。
それで上空からの捜索にGOサインが出たんだろうな。
そこから捜索効率が急加速した。
鳥たちは発信機を付けて左右に散らばり、俺たちはそのまま直進。
無線で生存者の発見の報告が次々入ってきた。
「生きてる人、たくさんいてよかったわね」
「そう、だな」
たくさん。確かにたくさんかもしれない。今の時点でも数百人規模だろう。
だけど生成に巻き込まれた人の数としては……。
「悟。その先砂漠だぞ」
上空からそんな声が聞こえた。
砂漠?
まぁ荒野も言い換えると砂漠なわけだけど。
だが文字通りの砂漠だった。
砂バージョンの砂漠だ。
「急だな……」
「凄いばい。横一直線で硬い土と砂に綺麗に分かれとる」
「ほんと。ダンジョンって不思議ねぇ」
――[更に暑そうだな]
――[地下二階でこれとか過酷過ぎじゃね]
――[そういや階段まだ見つけてないよな]
そう。階段を見つけていない。
といっても岩山がインパクトあり過ぎて、すぐそっちの方に進んだからなぁ。
下の階にも人がいるかもしれない。早いとこ見つけよう。
はぁ。砂漠だと走りにくいんだろうなぁ。海岸の砂地がそうだし。
――[ん? なんか砂が動いてる?]
――[風?]
――[いや動いた気がした]
動いた?
「悟くん、進んじゃダメよっ。引き返して!」
そう叫ぶスノゥの声が聞こえたのと同時に、目の前の砂が盛り上がった。




