185:人間の姿をした・・・
勢いをつけ、走る!
「お前、やっぱバカじゃねーのっ!」
「え? なんで」
リュックの中にいるヴァイスがそう叫び、返事をした頃には岩のてっぺんに到着。
勢いを点け過ぎたので、軽く頂上を飛び越えて着地。
「救助に来ました」
「――ひいぃぃぃぃぃぃっ」
「――モ、モンスターだ!?」
え?
「――人間の姿をしたモンスターが上がって来たぞっ」
え?
「――お終いだ。もうお終いだ」
いや、待って。
「あの、俺は人間ですから。安心してください」
と言っても日本語だから通じないか。
「――ぎゃあああぁぁぁっ。モンスター語だっ。モンスター語を話してるぞっ」
いや日本語だって!
「――うわあぁぁぁぁ。別のモンスターが上がって来たぞっ」
「――食われるのか、俺たち……」
「――嫌よ。死にたくない。死にたくないっ」
アルジェリア人の冒険者を乗せた、妖狐モードのヨーコさんが到着した。
なんだろう……終末を迎えたようなこの人たちの表情は。
「――みんな落ち着けっ。彼らは日本から来た救助専門チームだっ」
「――助けに来たぞっ。もう大丈夫だから」
「――に、日本?」
「――そうだ。彼はスキルを使って壁を上って来ただけさ」
やっぱりこういう時は言葉の通じる、同じ国の人間同士の方が安心感があるんだろうな。
悲鳴もぱたりと止み、表情がみるみるうちに代わり、歓声が上がった。
「――うおおおおぉぉぉぉ。助かった。助かったぞ俺たち!」
「――地上に出れるのね? ね?」
喜びに湧き立つ人たち。背負ったサクラちゃんを下ろして、アイテムボックスから水の入ったダンボール箱を出してもらう。
「スノゥ、通訳を頼むよ。水を配るから一列に並んでくれって」
「わかったわ。――」
が、スノゥが通訳した途端、数十人が押し寄せてきた。
いや、一列に並んでくれよっ。
一斉に話しかけてくるから翻訳機が追い付かない。
聞き取れた言葉から想像するに、この人たちは自分のことしかな考えてないようだ。
他者を押しのけ、時には殴り、我先に水を求める。
災害が起きた時、日本人はちゃんと列を作って並んだり、歩く人のスペースを残して休んだりと、外国人から賞賛されることがある。
そういうニュースを見て、日本人でよかったなと思うことも。
そんな日本人ですら、先日の上野ダンジョンみたいなことがあるんだ。
町で何か発生したら、これ幸いと暴徒と化し、店から品物を盗む……なんてこともよくある外国だと、これが当たり前の光景なのかもしれない。
「さ、悟くんっ」
「配るのは止めよう」
サクラちゃんを抱きかかえて大きくジャンプする。
人のいない所に着地をし、そこにダンボール箱を置く。
人が殺到したらまた飛んで、その先でダンボールを置く。
あとは自分たちで勝手に取っていってくれ。
元気な人が水に殺到している間に、動かない人の様子を見に行く。
そこにはナースの服を着た女性が……。
「ヨ、ヨーコさん?」
「あ、悟。ほとんどの人が熱中症みたいばい」
「なんで人間の姿に? それに、なんでナースのコスプレ?」
耳は隠しているようだが、スカートの下から二本の尻尾が出ている。
「ヨーコちゃん、爪が甘いわよ。尻尾、出てるわ」
「え? ふえぇーっ、また失敗しとるーっ」
いや失敗とか以前に、何故変化する?
「――チェンジ!」
横たわっている人たちを放射線状に並べ、その中心でヴァイスが翼を広げる。
一度に送れるのは六人が限界。
転送を開始すると、直ぐに人が群がって来た。
俺を先に――金なら払う――私を――。
叫ぶ元気があるなら、自分の足で戻って欲しいものだ。
「あぁぁぁ、うるさいっちゃ!!!」
ヨーコさんが妖狐モードに変身し、前脚で地面をダーンッ。
すると全員、慌てて崖っぷちへと下がった。
「ツララとうちゃ~っく!」
「お、ツララご苦労さん」
「ツララァ。父ちゃん会いたかったぞぉ」
「おしごと♪ おしごと♪ チェンジすぐ出来るの~」
ツララはブライトをスルー。
肩を落とすブライトの背中をポンっと叩いてやり、第二陣の準備に取り掛かる。
向こうの冒険者がシールド系スキルを持っていたようで、今はそれを展開して人が押し寄せるのを防いでくれていた。
最初から使って欲しかったな。
ヴァイスからツララ。ツララからヴァイス。もう一度ヴァイスからツララ。三回のチェンジで自力では動けない人たちを地上に送り届けることが出来た。
あとは元気な人たちだが……。
「おーい、三石ぃ」
下から声がして覗き込むと、ボートに乗った曽我さんのチームが到着していた。
「救助者をボートに乗せて運ぶ。彼らを下ろすから、手伝ってくれぇ」
ボートで運ぶ?
そうか。ここの構図なら障害物もほとんどないし、少し浮かせたボートに乗せて押せば簡単に移動させられる!
けど、どうやってこの岩山から全員を下ろすんだ?
ヨーコさんで往復するんだろうか。




