184:換毛期?
「山じゃないね。あれは岩だ」
捜索を再開して、まず向かうのは遠くに見えた岩山だ。目印にもなるし、そこまでの地図を埋めて共有するために向かった。
上空を飛ぶブライトが降下してきて、あれは岩だと告げる。
「一個の岩なん?」
「あぁ、そうだ。えぇっと、テレビで見たな。オーストラリアにあるっていうアレに似ているねぇ。アレよりかは小さいけど」
エアーズロックか?
近づいても、あれが一つの岩だとは到底思えない。確かに大きさはテレビで見るエアーズロックよりかなり小さいけど。
見上げる高さは五十メートルぐらいだろうか? 横幅も同じぐらいある。
「ブライト。真上から見てくれるか? 奥行きはどのくらいあるのか確かめてくれ」
「了解だよ。任せときな」
バサっと羽ばたくと、ブライトは一気に上空へと舞い上がる。
空……これも実際は天井なわけだけど、どのくらいの高さがあるんだ?
「よし、到着っと」
「ねぇ悟くん。どうせなら日陰になる場所へ行きましょうよ」
「賛成たい。もう暑くって暑くって、うちら夏毛になりそうばい」
「え? ここで毛が抜けるの?」
――[冬気になって一、二カ月で抜けるか?]
――[ここで抜けても日本に戻ってきたらクッソ寒いぞww]
――[もこもこのままでいてぇぇぇ]
サクラちゃんとヨーコさんを下ろし、少しでも涼しくしてやる。
それから日陰を探そうと思って歩き出すと――。
「いたぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉっ」
物凄い形相をしたブライトが急降下してきた。
い、た……まさか。
「生存者か!?」
「いたっ。何人かは動いてたが、動いてないのもいる! ボクを見て悲鳴を上げていたし、モンスターと勘違いしたんだろうね」
「悲鳴? そんなの聞こえなかったが」
高さがあると言っても、これぐらいなら聞こえたっていいはずだ。
「この上じゃない。これと同じような岩が、綺麗に一列になって並んでいるのさ。三つ先の岩の上だぜ」
「並んでるの!? こんなのが?」
サクラちゃんが岩を見上げ、仰け反り過ぎて後ろへ倒れてしまった。
――[ぐああああぁあぁぁぁぁ]
――[は、破壊力が強すぎる!]
――[ぽて]
――[たぬきってこういうのあるよな]
――[お前! にわかだろうっ]
――[レッサーパンダだぞレッサーパンダ!]
――[未だにたぬきっていう奴いたんだ]
「ブライト、案内してくれ! 聞こえますか、地上。生存者発見です。状況はまだわかりませんが、いました!」
『聞いてる。登れそうか? 上れるならヴァイスを連れて登ってくれさえすれば、あとはチェンジで救出できるだろう』
「えぇ、そうですね。なんとしても登りますよ」
やっと。やっと見つけた。
岩の上ってことは、人数はそういないだろう。
だけど見つけた。
同時に、この階層に巻き込まれた人が多数いることも判明した。
『こちら曽我チーム。三石、地図を送ってくれないか』
「了解しました。でも現場はすぐわかると思います」
オートマッピングされた地図を写真に撮り、捜索隊のサーバーにアップ。
こうしておけば冒険者も見ることが出来る。
『確認した。この丸いのは?』
「その丸いのは岩です。といってもエアーズロックのような、巨大な岩の山なんですよ。縦横高さ五十メートルほどの巨大岩です。それが一列に並んでいるそうで」
『冒険者、榎木です。三階に下りてその岩の方に進むと、一目でそれってわかるのが見えますよ』
『ありがとうございます、榎木さん。行けばすぐわかるってことだな。迷わないで済むからそれは助かる』
岩を回り込むと、ブライトの言う「綺麗に並んでいる」のがハッキリとわかった。
まったく同じサイズの岩が、奥にずらーっと並んでいるんだ。ここから見ても十個ぐらい並んでるように感じる。
「三つ先ってことは、四本目か。これか、ブライト!」
「あぁ、そうだ。もう何言ってんのかわかんないってのっ」
ブライトは翻訳機付けてないもんな。
『三石。スノゥがそっちに行くそうだ。ついでにアルジェリア出身だっていう冒険者も何人か送る』
「スノゥがこっちに? 助かります。ヴァイス、広いところに頼む」
「母ちゃんも来るのかっ」
ヴァイスは嬉しそうだが、チェンジするからスノゥには会えないんだよな。
まぁその次のチェンジで会えるけど。
チェンジでツララとスノゥ、それから五人ぐらいの冒険者がやって来た。
なんか早口で喋りかけられてるせいで、翻訳が追い付かない……。
「手伝うって言ってるのよ」
「あ、ありがとうスノゥ。通訳頼むよ。翻訳機を使ってるから、一度に話しかけられても機械の翻訳が追い付かないって」
「えぇ」
スノゥが流暢なアラビア語を話し、それから五人のうち年長の男性だけが俺に話しかけてくれた。
「――この岩の上か?」
「そうです。動いている人もいるようですが、動いてないって人もいるようで。この暑さですから、脱水症状とかも考えられます」
と、スマホのアプリを介して言葉を伝える。
「この垂直の山を登れるようなスキルを持っている方は?」
と尋ねたが、挙手する人も、首を縦に振る人もいない。
俺は壁走りのスキルで登れるだろうけど、この人たちを抱えてとなると何往復もしなきゃならないな。
だが思いがけない方角から声が上がった。
「せやったら、ウチの背中に乗っていく?」




