181:森の中にポツンと。
――[ストップ!]
――[救助者??]
――[あ、なんか茂みの向こうにある]
「悟くん止まって!」
「え? 何かあった?」
ヨーコさんが弾むように森を駆けるその速さに合わせて、軽く駆けているとサクラちゃんの声で止まることになった。
「どっちの茂みなの?」
「ん?」
どっちと言われても。
――[サクラちゃん、カメラゆっくり回してみて]
「わかったわ」
――[サクラちゃんかわゆす]
――[そこそこそこそこ]
「何かあるばい。石の鳥居みたい」
「え? 鳥居……違うっ。階段だ!」
茂みの向こうに石煉瓦を積み上げたような、四角い人工物があった。
下の階へ移動するための階段だ。
草木に囲まれ、蔓にも絡まったそれを走りながら見つけるのは難しかっただろうな。
「視聴者が見つけたのか?」
「そうそう。私たちだけじゃ、前を見ながら走るのでやっとだったから見つからなかったかも」
「ウチとサクラのベスト。カメラを二個ずつ付けとるけんねぇ」
「クゥ~。ボクが見落とすなんて」
――[フクロウを凌ぐ視力]
――[いや視力関係ないだろこれww]
――[どっちかというと観察力?]
――[カメラがそこを捉えただけ]
――[たしかにwww]
「後藤さん、聞こえますか?」
やや間があって、後藤さんからの返事が来た。
『なんだ? 取り込み中だ』
「え? あ、もしかして後藤さんも中に?」
『指示を仰ぎたいなら社長に伝えろっ。あ、クソ』
「後藤さん!?」
『なんだ! 取り込み中って言っただろっ。クッソ鬱陶しいカボチャめ。雑魚の癖に数だけ用意しやがって』
モンスター溜まりを一気に解消すると、倒された分のモンスターを補充するためにどこかでリポップする。
それがたまたま、一カ所で何匹もリポップすることがあって……。
「またモンスター溜まりですか?」
『それほどじゃねえ。ただこいつら蔓を伸ばしてくるから面倒くさいんだよ。しかも頭を壊しゃ死ぬんだが……カボチャはカボチャでも、ちょっと熟れ過ぎててな。わかるか?』
「売れすぎ?」
――[悟くん、今のニュアンスだと売り買いの方の売れすぎって考えただろ]
――[あり得る]
――[後藤さん、熟し過ぎって言ってやらなきゃ]
『ぐちゃっていくんだよ、ぐちゃって。これが意外と臭ってなぁ』
あぁ。熟れ過ぎってことか。
後藤さんはそれを素手で粉砕している。それはちょっと臭い。
……。
「ブライト。カボチャの奴いたら頼む」
「……君、ボクに臭いもの処理させようとしているね」
「社長。下り階段を発見しました」
『もうか! ザーッ――よし、地図とザッ画像を寄越せ。ザッ――ノイズが入るな。クソ』
まぁ簡易の通信アンテナだもんな。仕方ない。
マッピングされた地図を写真に撮って、階段の外観も数枚撮影。
送信っと。
上手くいくかな。
『よし、転送されたぞ。はぁ、これは見つけザッいな』
「さくらちゃんとヨーコさんのベストにつけたカメラ映像を見て、視聴者の方が発見してくれたんです」
『ザーうか、視聴者参加型にして正解だァッな』
『三石さん。技術部のザッ山です』
ザ・山?
山ってつく技術部の人は……内山さんか。
『サクラさんのアイテムボックスの中に、お役立ちアイテムと書かれた箱がありまザーッ』
「サクラちゃん」
「探してみるわ。んーっと」
『その中に発信機があるので、階段の壁に張りつけてください。ザッ。ただし外側ですよ。内側だとはっしザーッが機能しないので』
「あったわ。発信機ね……これかしら?」
「ボタンやないと、それ?」
五百円玉ぐらいの、少し厚みのあるソレが発信機だ。わかりやすく『発信機だよ』と書かれているし。
最後の『だよ』はいらないだろ。
『ポチっと押してセットしてくださいね。四十八時間しかバッテザーッ持ちませんが、捜索用に使う分には十分でしょう』
「ポチっと押して……セットしました。どうですか?」
『残念。実は地上からだと発信機の電波は届かないんです。中にいらっしゃる方、どなたか見えますか? 先にお伝えしたアプリで確認出来ますので』
そのアプリは、捜索隊メンバーなら既に入っている。
暫くして大塚さんが「映った」と、短い返事が入った。
『よし。三石、お前のチームはそのまま直進ザーッ、一階の四隅を一周してくれ。広さを確認ザーッい』
「広さを確認ですね? わかりました」
『途中で入口に寄ってザザッ――イスを回収しろ』
「椅子?」
「ヴァイスだろ」
あぁ、ヴァイスか。下り階段に技術部を送るのかな?
ここからまた少し駆け足になる。
ヨーコさんを抱え、森の中を走った。
「ねっねっ。全然森を抜けられないけど、こんなもんなのーっ?」
「一階全体が森なのかもしれない」
「生存者さーん。いませんかーっ」
「いないのーっ」
時々声を上げながら走るが、返事をするのはモンスターばかり。
それは無視していく。
やがて前方に木の壁が見えた。
横に一列、隙間なくずらーっと並ぶ木。
「一階の端っこだろうな。一応写真を送っておこう」
ここから木の壁沿いに、時計周りにぐるっと一周することになる。




