180:一階。
「まさか一階からこれとは……」
階段下に広がる光景。
それは――森だった。
いきなりオープンフィールドになっているなんて、こんなダンジョン初めてだ。
日本では一階からいきなりっていうダンジョンはないけど、外国にならあったんだろうか?
「仕方ない。とりあえず横に広がって真っ直ぐ進むか。おい三石、お前のチームは裏側を全力疾走していろ」
「了解――って、社長、まさか一緒に行く気ですか?」
遺体回収を終え、ダンジョン一階入り口で出発の指示を出す社長。
「んなわけあるかっ。お前らの足手まといにはならんさ。俺は安全な所で指示を出すだけだからなっ」
そう言うと、社長は階段を上って地上へと出た。
「本当は行きたいんだろうね。あの人は誰かを救いたくて、赤字になるのがわかっていながら捜索隊を立ち上げた人だから」
「誰よりも分かっているはずさ。自分の手で成し遂げたい、でもそれがかなわないってことを」
「赤城さん、白川さん」
俺が生まれた東区のダンジョン。
あの日あの時、あそこでは社長のお母さんとお兄さんが亡くなった。
その後、お二人の仇を取ろうとでもしたのだろうか。社長のお父さん――前社長は、そのダンジョンでモンスターと戦って命を落とした。
スキルを持っていないにも関わらず、中へ入って行ったんだ。
それはきっと執念だったんだろう。
社長にもその執念はある。
だけど自分を見失わず、自ら中に入るのではなく、別の方法を考えた。
それがこの捜索隊だ。
「だからま、俺たちがあの人の代わりになって人助けするんだよ、三石」
「そうですね、青山さん。それじゃ、出発しますか」
「ウチはー、妖狐にならんでぇー、いいとぉー?」
ヨーコさんを担ぎ、森の中を走る。
足場が悪いから全力疾走は出来ないが、サクラちゃんの神速と同じ程度には走れた。
ブライトは余裕で着いて来ている。飛べるっていいよな。
「ヨーコさんは救助者を発見した時のために、魔力を温存してもらいたいんだ」
「そうよヨーコちゃん! 一度に何人も運べるんだからー、その時に魔力はとっといてー」
「うぅん、そういうんだったらー、いいんだけどー。でもせっかくの森やのに、ウチも走りたかったばーい」
「ところで二人は、なんでさっきからそんな大きな声で話しているんだ?」
「「こんなスピードで走ってて、聞こえるわけないでしょ!!」」
え、そう、なの?
「それよか、そろそろ配信のカメラを起動してもいいんじゃないかい?」
「あ、忘れてた。サクラちゃん、一度止まるよ」
「わかったわーっ」
一度止まってから、サクラちゃんとヨーコさんのベストに装着された小型カメラを起動する。
「映ったかな?」
――[キチャアアァァァァァァ]
――[映ってまーす]
――[お疲れマジお疲れ]
――[サクラちゃあぁぁーん]
――[みんな大丈夫? しんどくない?]
――[うへぇー。なんだかんだ捜索始まったの五時じゃん]
――[今日が土曜日でマジよかったな]
――[視聴者数がだいぶ減ってるな]
――[寝落ちしたんだろしゃーない]
――[今北産業おおおぉぉぉぉ配信始まったらアラーム鳴るようセットしてた]
――[禿同]
――[え、待って。森?]
――[悟くん以外が野生に帰っちゃう回?]
い、一気にログが流れるから、見るのは無理だな。
「みなさん、ご覧の通りここは森です。一階は森タイプのオープンフィールドでした」
――[ま?]
――[いきなりオープンフィールドかよ]
――[オープンフィールドって、捜索するのが難しいんじゃ?]
――[しかも視界が悪いしなぁ]
「木々に囲まれた地形なので、俺たちの目だけじゃいろんなものを見落とすと思います」
――[任せろ]
――[覚悟は出来てる。なんでも見てやるよ!]
――[ブライトのサーモ点けっぱなしがいいんじゃないか?]
――[魔力消費するから温存した方がいいだろ?]
――[あー、消費するのか]
――[ある程度『いる』って確証があればいいんだろうけどな]
その通りだ。いるかどうかわからない場面で、サーモセンサーを使い続けるわけにはいかない。
特に生成に巻き込まれた人の捜索ともなると、どこにどれだけの人がいるのかもわからないからな。
長期戦になるのは必須。少しでも温存してもらわないと。
――[そういうことだったら、カメラガン見しちゃうぞ☆彡]
――[よーし。捜索開始!!]
ひとりでも多くの人を見つける。
ここからは無駄に走らず、ヨーコさんの速度に合わせた捜索の開始だ。




