171:躾しろ。
トール・ハンマーの練習は、まず、魔力を雷に変換するところから始まった。
スキルがあれば魔力を雷に変換できるのだという。
けど雷のイメージが出来ないヴァイスには、まず、雷の映像を見てそれをイメージするところから入るらしい。
「魔法系スキルを持っているとね、出来るんだよ。こんな風に」
と、ヴァイスの練習を見学しに来た赤城さんが炎を見せてくれた。
ただし、赤城さんの炎は飛ばすことも、それ自体でダメージを与えることも出来ない。剣に付与して初めて効果を発揮する炎だ。
――と思ったら、後ろで青山さんが自慢気に炎を出している。こっちはそれ自体が攻撃になるから、うっかり触れたら大ダメージだ。
「でも全身に纏うらしいですし、難しそうですが」
「青山、それ、全身に纏えるかい?」
「自滅しろってことか。嫌だ」
「そっか」
「いや自分こそ纏ってみろよ」
「残念。僕のこれは剣にしか纏わせられないんだ」
「残念だったな」
「そうだね」
この人たちは何をしに来ているんだ?
そんな話をしていると、スマホが鳴った。
え、社長から? 来いって……いったい今度はなんだ。
「ちょっと呼び出しあったから、俺行って来るよ。サクラちゃん、ヨーコさん。出動が入った時のことも考えて、いつでも動けるようにしててね」
「「はーい」」
で、社長室へと向かう。
安虎社長は普段から捜索隊のビルにいるわけじゃない。関連会社もいろいろあるし、ATORAの本社の方にいることが多い。
今日はこっちに来てるようだ。
社長室に入ると、俺の顔を見るなり社長が――。
「オーランドの躾をしろ!」
――と。
「俺の子供じゃないんで無理です」
「あいつなぁ、俺がこれから飯だって時間に電話してきてグッズを作れって言ってきたんだぞ! 信じられるか? 俺が飯に行こうとしてた時にだぞ!」
……いや、誰が社長の飯の時間とか把握してるんだよ。金森さんじゃあるまいし。
しかしグッズって……なんのグッズだよ。
「それで、サンタコスってなんだ」
「え?」
「だからサンタだ! オーランドの奴がサクラとヨーコのサンタコスグッズ作れって言って来たんだよ。しかもな、署名運動までしてんだぞ!」
「はぁ? しょ、署名運動?」
そこで金森さんが、机の上にあったノートパソコンをこちらに向けた。
オンライン署名?
えっと……9841名分……一万に届くじゃないか!?
「ちなみにこれ、オンライン署名アプリひとつ分の人数です」
「え、アプリひとつって……他にも署名アプリが?」
そう言うと、金森さんはパソコンを操作して別の画面を開いた。
そこには5823人分と出ている。
更に金森さんが別画面を開き、そっちも5000人弱……。
「二万人超え……」
「しかもだ! オーランドの奴、日本語でもグッズ製造を求める署名活動をしようとしているんだ!」
何やってんだよあいつ。
「こっちは慈善事業じゃないんだぞ!」
「まぁ作って売れませんでしたとかなったら、大赤字ですもんね」
「そうだ! 躾ろ!」
「嫌です。無理です。トムさんに言ってください。もう用事はないですよね? 行きますからね?」
「嫌って言うな! おい! サンタコスがどんなものか見せろ! おい三石!」
もう、我儘小僧かよ。
仕方ないからスマホに保存してあるサクラちゃんとヨーコさんの写真を見せてやるか。
「はい。これですよ」
「……これか。売れるか? 売れるな。どうする金森?」
「受注生産制にするってのはどうです? 事前にお金を払って貰えば赤字にはなりませんよ」
「でも転売対策どうするんだ? 受注期間が終われば転売されるだろ」
「月一単位で締め切りを設けて、毎月生産にすればいいんです。受注受付は一年先までやると公言しておけば、注文する方も安心ですし、転売ヤーも排除できるのでは?」
おい。まさか作る気か?
「よし、それでいこう」
作る気だー!?
ダメだこの経営者。流されやすいだろ。
「三石。サクラとヨーコを連れて来てくれ。あ、今日は雛たち来てるだろ? よし、雛たちにもサンタコスを着せよう」
「どうせなら他のアニマル隊も出してはどうです?」
「いいね! よし!」
何がよし! だよ。
「そうだそうだ。最近は配信出来ない捜索が多かったし、ちょっと配信するか」
「捜索要請ないのに、何を配信する気ですか」
「ATORAアニマル隊紹介配信みたいな?」
みたいな? で首傾げるなよ。
「よし、三石! 今待機中のアニマルたち全員連れてこい! あ、倉庫担当の子や警備部の子たちもな」
……え。
この会社はいつからアニマルグッズ屋になったんだ?
結局、コスチュームの用意だのなんだので、配信用撮影会は明日になった。
いや、本気……なのか?
え……ダメだこの人。
ニューヨークに銭湯作るって言ってた時と同じ目をしている。
本気だ……。
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会社運営は善意だけではやっていけない。
金稼ぎもちゃんとしなきゃ!




