158:閑話ハリー①
「兄ちゃん、大人に見つかったら怒られるよ」
「大丈夫だって。入口のところまでしか行かないから。それより、ちゃんとハリーのリード持ってるんだぞ」
「う、うん……本当に大丈夫? モンスターいない?」
「大丈夫だって。入口のすぐ近くは滅多にいないってネットにもあったろ。もしいたとしても、階段は上れないんだ。階段の下までしかいかないって」
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「どうだ? なんか変わったとろこはあるか?」
「んー……兄ちゃんは?」
「……ハリーの様子はどうだ?」
オレ!?
オ……オレ!? オオォォオ、オレ!?
「どうだろう? なんか驚いてるっていうか、落ち着きがない」
オレ! ナ、ンダ……ア、頭……スッキリ!
「も、もう少しだけ奥に行ってみるか」
「えぇーっ。ヤダよ兄ちゃん。怖いじゃん」
「もうちょっとだけだって。な? 何かいたらすぐ逃げるって。ほら、一応武器だって持って来たし」
「それただのバットじゃん。それに兄ちゃんだけで、オレのはないじゃん」
「お前はハリーのリード持ってるだろ。ほら行くぞ」」
ハリー……ハリーはオレだ! オレの名前だ! アキラが付けてくれたオレの名前!
あ、待って。その先、変なニオイがする。
行くなっ。行くなアキラ!
「うぅーんっ。兄ちゃん待ってよ。ハリーが動こうとしないんだ」
「あ? ったく。こいよハリー!」
「キャインッ」
「兄ちゃん、そのバットでハリーを叩かないで――うわっ。に、兄ちゃん。向こうからモンスターが!」
「え? う、うわぁっ。逃げるぞアキラ!」
「うわあぁぁぁぁっ」
待って! 待ってアキラ!
オレのリード忘れてる。待って!
それにしても、うわぁぁ、おっきい虫だぁ。
嫌なニオイがするけど、オレ、あいつと遊んでみたい!!
でもアキラが帰るから、オレも帰らなきゃ。
でもなんんだろうな。頭の中がスッキリした感じがする。
それに世界だ。世界に凄くいろんな色がついた!
オレの目、おかしくなったのか!?
がーんっ!!
でも、そうじゃなかった。
帰り道で、オレはアキラと遊びたかったから言ったんだ。
「アキラ、アキラ、遊ぼー!」
って。二人は驚いていた。オレも驚いたもんね!
オレが人間の言葉を話せるようになるなんて、ビックリだ!
オレのご主人、アキラとその兄ちゃんのタケルが言ったんだ。
オレはスキルをもらったって。
誰に?
わかんない。でもスキルってのをもらったから、話せるようになった。
「アキラ! 散歩行こうっ。散歩!」
「雨降ってるだろ。宿題してるんだから邪魔しないでよっ。なんでハリーだけ……ずるいよ」
「クゥーン」
何がオレだけなのか、わからない。
「あ、ママさん! オレお手伝いするっ。オレ手伝う!」
「あっ。バカハリー! ママに話しかけるなっ」
「え? え? ハ、ハリーが……」
「ママさん!」
「ハリーが喋ったあああぁぁぁぁぁぁぁっ」
キャインッ。
み、耳がキーンってしたぞ!
ママさん驚いてる。オレもビックリだ!
スキルって凄いな。人間の言葉が前より凄くわかるようになったし、話せるようにもなった。
あと後ろ足で立つのも簡単になった。でもやっぱり歩きにくいから、オレは今まで通り歩くぜ!
「アキラ! ちょっと来なさいっ。あなたもしかして、ハリーとダンジョンに入ったんじゃないでしょうねっ」
「ち、違うよ! ハリーが勝手に――「一緒に入ったぞ! あとアキラ兄のタケルも一緒に入ったぞ!」余計なこと言うなよっ」
「クゥーン……」
余計なこと? 余計なことってなんだろう?
「アキラ!! 何考えてるのっ。ダンジョンには……ダンジョンにはバケモノがいるのよ! バケモノに会ったりしたら、どうするつもりよっ」
「か、階段のところまでしか――」
「大っきな穴みたいな所歩いてたらな! デッカい虫がいたんだ!」
「アキラ、どういうことなの! ママに嘘をついたのねっ。ずっとダンジョには近づくなって言ってたのに。どうして言うことを聞かないの! どうして嘘をつくの!!」
マ、ママさん、怒ってる。怖い。
「しばらく学校以外の外出もおやつも禁止よ! 学校もママが送り迎えするから、寄り道なんて出来ませんからねっ」
「そ、そんな。ママ、許してよママッ」
アキラがママさんに叱られてる。どうしてだ?
ママさん許してあげて。アキラにおやつあげて。あ、オレもおやつ欲しい!
「ママさんおやつ!」
「うるさいわね! 気味が悪いのよっ。いい、ハリー。外では絶対に喋るんじゃないわよ。いいえ、この家の中でだって話さないで。一言もよ!」
「えぇー!? せっかく話せるように――「ハリー!!」クゥーン」
どうしてお喋りしたらダメなんだ?
せっかく話せるようになったのに。
でもママさんが怒ってるし、しばらくは黙ってよう。
その日、夜遅くにパパさんが帰ってきた。
パパさんとママさんは時々喧嘩をしている。スキルをもらう前でも、それぐらいはわかった。
でも今日は喧嘩じゃない。
アキラとタケル、それからオレのことで話し合っていた。
しばらく閑話!




