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「おーい、悟。馬場ちゃんたちが到着したぞぉー」
背後からブライトの声がした。
暫くして馬場さんのチームが到着。このチームには沢木さんが同行していた。
「あ、相場……竹内、佐久間、藤堂、和田……お前たちだけなのか。お前たちだけ……」
「すみません。俺たちが到着した時にはもう……それと……残りの七人ですが」
「私のアイテムボックスの中に入ってもらって、一緒に連れてきたわ。安心してね」
「え、ア、アイテムボックス?」
「ん?」
これまで、ご遺体をアイテムボックスに入れた前例はない。
入るかどうかわからない、という以前に、ご遺体を入れてもいいのか? という、気持ちの問題もあった。
サクラちゃんはそのことを知らないから、何の抵抗もなく入れることが出来たんだろう。
沢木さんが驚いたことにも、何故そうなのかわからないって顔だ。
「三石、アイテムボックスって、ご遺体が入ったのか?」
「はい。いろいろ思うところもあるでしょうが、連れて帰るってことを優先しました。次、あそこへ戻るのは数日先になりますし」
「そうか……入ったのか……まぁ、ご遺体を連れて帰ってやることの方が大事だろう。ご家族も喜ぶ」
最初は驚いたものの、沢木さんも今はサクラちゃんにお礼を言っている。
連れて帰ってこれてよかった。
馬場さんたちと合流して十数分後には、曽我さんのチームも到着。
「十分休憩だ。直ぐに出発するぞ」
「曽我さん、今到着したばかりですが大丈夫ですか?」
「俺は大丈夫。大塚さんは大丈夫――ですね」
「あぁ。冒険者を引退してからも、体は鍛えていたからな。花園くんが心配だが」
と、後半は小さな声で話す。
花園さんはまだ若く、冒険者経験もない女性だ。つい最近まで、普通のOLだったらしいし。
その花園さんは階段に腰を下ろし、サクラちゃんとヨーコさんが用意したお茶をすすっている。
「あ、ゴ、ゴムボートを出しますね。救助者さんたちを、ボートに乗せてください」
花園さんがアイテムボックスからゴムボートを取り出す。ポンプもだ。
浮遊スキルを使うと物を浮かせられる。浮かんだものは軽く押すだけで動かすことが出来るそうだ。
このスキルで気絶した救助者も、一度に複数人運ぶことが出来る。
「花園さん、術者が乗っても効果は切れないんですか?」
「え、あ、はい。切れません」
じゃあ彼女にも乗ってもらおう。
用意されたゴムボートは三つ。花園さんに聞くと、全部で十個も常備しているんだとか。
今回は一個につき救助者を二人ずつ乗せて運ぶ。最後の一つには花園さんと、サクラちゃん、ヨーコさんも同乗した。
そのボートを――
「俺はやるぜ!」
『俺もやるぜ!』
『俺だってやるぜ!』
と、ハリー本体とハリー分身二頭の計三頭で引っ張る。
完全に犬ソリだ。
しかも先頭のボートにはサンタカラーのサクラちゃんとヨーコさんも乗っている。
「サクラちゃん」
「何? どうしたの悟くん」
「うん。鹿の角のヘアバンドとかって持ってないの?」
「え? 持ってるわけないじゃない。どうして?」
……。
「なんでもない。さ、行こう」
「鹿の角とかどうするん? ね? ね?」
「どうするのかしら……変な悟くんね」
つい出来心だっただけだ。
ハリー三体と救助者五人には大塚さんが献身で保護。
モンスターは俺たちで蹴散らし、駆け足の速度で二階を走り抜けた。
『グルアアァァッ』
「俺が狙われてる! 俺が!」
ハリーを狙ってなのか、ボートに乗せられた救助者を狙ってなのか、モンスターはことごとくハリーを狙って襲って来る。
そのモンスターを……
「ピィィーッ!」
黄色くて小さなミサイルが飛んで行って吹っ飛ばしていく。
「モンスターごときがハリーを狙うんじゃないわよ!」
「キコちゃん、なんて優しい子なの。しかも強いし」
いつもハリーに厳しめのキコが……やっぱり大切な仲間なんだな。
「ハリーの毛を毟っていいのは、あたしだけなのよ!!!」
……た、大切な仲間、だよな?
そんなこんなで黄色いミサイルがモンスターを蹂躙しながら進んでいく。
一階に上がった時、そこには秋山さんの姿が。
「秋山さん、ひとりなんですか!?」
「あぁ。少しでも早く合流するためだ。これを使うぞ」
「これ……転移装置!?」
「行先は隠しダンジョンの入り口だがな。もうじき、ボス討伐から四十八時間だ。最短時間で湧いてくれることを祈ろう。さ、転移陣は三分しか開かないからな。乗り遅れるなよ」
準備が出来たところで、秋山さんが転移陣を起動。
ボートを引くハリーを先に行かせ、それから徒歩組が急いで通る。
あとは――。
「出力を最大にすれば、一瞬だけ表ダンジョンと繋がります。そうすれば表ダンジョンのアンテナ経由で本部とも繋がるはずなんでみなさんで一斉に通信してください」
持ってきた通信アンテナのバッテリーを全部使って、最大出力の電波を出す。
その電波に載せ、ボスの討伐へのGOサインを送る。文面は何だって良い。ただし長いと通信量が増えるため、届きにくいそうだ。
全員がスマホを用意し、技術部の人の合図で一斉に送信!
誰かひとりでもメッセージが届くことを祈って――。
俺たちは待った。いつ扉が開いてもいいように、五人の生存者を運び出す準備をした状態で。
そして一時間程経ってから――扉が開いた。
これが投稿された1時間後には、肩に出来た石灰を砕くために超音波治療へと向かっているはず・・・
局部麻酔・・・怖い・・・
頑張って痛みに耐えるので、どうか作品を応援してください m(__)m ペコリ
ブクマとか☆彡とかいろいろグフフ




