152:発見。
「遭難者発見しました!」
もし遭難者が階段を見つけたら、寒さから逃れるために下りたかもしれない。
そう思って下りてみることにした。
その予想は的中し、階段の下段に横たわる人影を発見。
だが、誰も動かない。
「ブライト、ホットスポットで温めてくれっ」
「了解っ」
「ウチは? ウチ何すればいい?」
「ヨーコさんは診断を。まずは生きてるかどうか確認だ」
「わかったわっ」
階段に座った状態の人、横になっている人……それから、布で包まれた人……合わせて十二。全員、ここにいる。
「生きてるわ!」
サクラちゃんの声がした。
「ヨーコさん」
「コンッ」
「サクラちゃんは小鍋でお湯を沸かしてっ。あと栄養ゼリー粉を出しておいてくれ」
「わかったわっ」
残りの生存を確認する。
布で包まれたのは四人。後で確認はするけど、確定で亡くなっている人だろう。でなければ顔まで包んでしまうわけないし。
残り八人のうち、息があったのは五人。三人は……。
「ウチの診断やと、『しんぱいていしじょうたい』って言葉が頭に浮かぶんばい。『ていし』って、動かんくなったってことやろ? それってつまり……」
「亡くなってるってことだよ、ヨーコさん」
「そうやよね……。ウチらここまで来たのに、なんで生きて待っとってくれんかったと……」
「ヨーコちゃん……。ダンジョンで遭難するってことは、こういうこともあるってことよ。でもくよくよしてたらダメッ。五人生きてるの。この五人を生きたまま連れて帰ってあげなきゃ!」
「サクラ……うん、そうやね。ちゃんと連れて帰ってやらんと」
とは言ったものの、生存しているその五人も起きる気配がない。
「悟、息のある五人のうち、四人は『ゆけつが必要』なんやけど、ゆけつってなんなん?」
「まずい。ヨーコさん。輸血が必要なのは誰と誰だ? 冒険者カードを探さないと」
「あ、こ、この人とこの人、それからそっちの人とそこの人ばい」
「輸血っていうのはね、血が足りてないから他の人の血を体に入れるってことなんだよ。だけど誰の血でもいいってわけじゃない。血には型があってて、同じ型じゃないと拒絶反応を起こすんだ」
O型の血は他の血液型の人にも輸血出来るが、まぁ詳しく説明するのは時間がある時でいい。
ヨーコさんと俺とで冒険者カードを探し、サクラちゃんはアイテムボックスから輸血キットを取り出して準備する。
輸血用血液パックは少ない。血液センターから頂いているものだし、アイテムボックスの中とはいえ、古いものは気持ち的に使えない。
だから大量には持ち歩かず、一度の出動で使わなかったものはその都度、破棄する。
出来れば血液型が被ってないといいんだけど。
しかし俺の願いも虚しく、見つけた冒険者カードに書かれていた彼らの血液型は――。
「O型が二人、A型が二人……マズいな」
血液パックは全型が揃ってはいる。でも量がない。
どのくらい輸血が必要かのか――までは、ヨーコさんのスキルでは分からないと言う。
ひとまず、O型とA型をそれぞれ半分ずつ輸血しよう。
輸血が終わったら栄養補給だ。
サクラちゃんに沸かして貰ったお湯にゼリーの粉末を投入。
すぐにかき混ぜ、ゼラチン状にする。
気管に詰まらせないよう上体を起こし、口の中へと流し込む。
「よし、飲み込んだ」
五人にそれぞれゼリーを飲ませ、それから外傷がないかチェックした。
まぁある程度は服を脱がせなくても分かる。その服があちこち切り裂かれていたからな。
「この破れよう、あのカマキリかな?」
「そうかもしれない。彼らの冒険者レベルは……85か」
隠しダンジョン一階の推奨が75なら、二階は80かそこらだろう。
人数もいるし、決して無茶なレベルではない。
だが、寒さで体力が奪われたのだろう。防寒着も着てはいるが、薄いものだ。
適正レベルのモンスター相手にも苦戦をするのは、自分たちが万全でなかった証拠。
怪我の治療はヨーコさんの応急処置には頼らず、ここは軽傷だろうと全部ポーションで治癒させる。
意識がない以上、しっかり治療してこれ以上悪くさせないためだ。
ポーションによる治療はヨーコさんとサクラちゃんに任せる。
オートマッピングした地図を確かめる。
ここは上り階段のある洞窟から、右上――北東方面か。氷の壁側にやや近い位置で、たぶんだけど直線距離にしたら五、六十キロだろう。
普通に歩けば十四、五時間か。だけど氷の上を歩く訳だし、こう目印も何もないと方角もわからず彷徨っただろうしな。
いったい何日、この階層を彷徨ったのか。
『三石、状況はどうだ? 生存者は?』
「はい、三石です。生存者は五名。後の七名は既に死亡していました。ヨーコさんのナーススキルによる診断なので、間違いありません」
『そうか……意識はあるか?』
「いえ。今さっき栄養ゼリーを飲ませましたが、起きませんでした」
「ウチのスキルやと、貧血による血圧の低下と、疲労ストレス、怪我による熱で脈拍上昇って出とるばい」
「だそうです。早く病院に連れて行くべきなんでしょうが……」
ここは隠しダンジョンだ。
捜索隊の必殺アイテム、転移装置もここでは使えない。
あれは対となる装置と連動して発動する仕組みなんだけど、スマホと同じようにデータ通信でそれが行われている。
その通信は、扉が閉まっている限り外には届かないから使えないってわけだ。
例え扉が開いていたとしても、その時間はわずか五分。
転移している最中に扉が閉まったらどうなるか……。
安全なのは、五十階まで移動すること。
だが意識がない五人をどうやって運ぶか。
同時に抱えられるのは二人だ。それだって肩に担ぐから救助者の体に負担がかかってしまう。
「悟くん?」
「ん? あぁ、彼らをどうやって地上に運ぶか、考えていたんだ」
「そうね。悟くんが運べる人数はひとり? 二人?」
「二人だね。それだって肩に担ぐからよくないし。両手も塞がる」
「道中のモンスターはボクに任せな。といっても、この五人を同時に運ぶのは無理だろう」
「ね、ね。他の人たちがこっちに向かってきとるんやろ? それ待ってからみんなで運べばいいんやない?」
それが一番確実なんだけど、曽我さんたちが合流するのにあと何時間かかるか。
「曽我さん。今どこでしょうか?」
直ぐには返事が来ず、しばらくして『二階に到着して三階に向かっているが、階段まであと二時間ぐらいだと思う』と応答があった。
戦闘中だったようだ。後ろの方でキコの『ブサイクモンスターうっざいわ!』という愚痴が聞こえた。
階段まで二時間。そこから三階を移動するのに十五時間前後。
早くても合流するのは十七時間後だ。
しかも――。
「そういえばハリーんとこの新人女性が、浮遊ってスキルを持ってるって奴がいってたね。それがあれば五人全員を一度に運べるんじゃないかい?」
「浮かせるスキル? 浮かせてどうするの」
「軽く押すだけで動かせるんだとさ」
「まぁ! それはいいスキルね! じゃあハリーたちが到着するのを待てばいいわ」
「いや……それだと早くとも十七時間かかるんだ。それに――」
正確な地図を持っているのは俺だけ。
合流するためには、俺が上り階段のある洞窟まで迎えにいかなきゃならないんだ。
全力で走れば一時間もかからない。だけど合流後は曽我さんたちの歩く速度に合わせなきゃならなくなる。
その間、サクラちゃんたちだけをここに残すことに。
なんとか……なんとかこちらから五人を連れて移動することが出来ないものか。




