149:マブい(美人)なダチ(友達)。
手書きされた地図を頼りに先へと進む。
出現するモンスターは、だいたい推奨レベル75ぐらいだ。
西区の最下層……いや、今ではもうだったというべきか、その五十階の推奨レベルは60。
そう考えると一気に推奨レベルが15もあがるのか。
「今回は赤城の旦那たちが北区の捜索に出てるから、戦力が落ちちまってるな」
「まぁね。でもレベル80から100あたりの隊員で固めてるし、何よりアニマル隊も加わって戦力も増してるから大丈夫だろう」
「ねっ、ねっ。レベルってなんなん? ウチにもあるん?」
「この前、スキルの鑑定をしてもらった時に冒険者カードっていうのもらっただろう? 持って来てるかい?」
「もちろんよ! サクラがお仕事の時には持ってなさいって言うからね」
「教えたの。えっへん」
サクラちゃん、偉いぞ。
二人はお揃いのリュックを背負っていた。ネット通販で買った動物用のものだって言ってたけど、なかなか実用的なリュックだ。
ヨーコさんはそのリュックから冒険者カードを取り出した。
「モンスターを倒すとね、そのカードが感知して経験値っていう数字に置き換えるんだ。一定数値に達すると、レベルが上がるんだよ」
「目に見えるもんじゃねえから、気にしない方がいいね。レベルなんてそのうち勝手に上がるもんだからさ」
「ふぅーん。でも倒さなきゃいけないんでしょ? ウチ、モンスターなんて倒したことないし……」
「いや、大丈夫だよ。他の人が倒したモンスターでも反応するから」
「一緒に行動している人が倒しても、一緒にレベルが上がるってことよヨーコちゃん」
ヨーコさんには攻撃スキルがない。でもナースは優秀なスキルだ。例え彼女が戦闘に参加しなくても、経験値の恩恵を受けさせる理由としては十分だ。
ただ、今だに『妖狐モード』のスキルがわからない。
日本だけじゃなく、世界のスキルデータにも同じものが存在していないっていうし。
妖狐……九尾の狐にでもなるんだろうか?
「おーい。この先の行き止まりまで行って来たけど、誰もいなかったよ」
「わかった。道を引き返してさっきの分かれ道を左に行こう」
行き止まりになっている道も確認しなきゃならない。
ブライトが先行して飛んで、誰もいなかったら引き返して知らせてくれる。
少しでも時間短縮と、体力を温存するためだ。
そしてブライトは俺の肩で休む。また行き止まりの近くまでいったら飛んでいき、先を確認しに行く。
こうしてしらみつぶしに見ていき、半日が過ぎた。
「三石」
「曽我さん、大塚さん、花園さん。お疲れ様です」
ダンジョン内での野宿は、出来るだけ他のチームと合流して行う。
階段ではないから常に誰かが見張りに立つ必要があるが、他のチームと合同なら一人当たり起きている時間が短くて済むからだ。
実際にはひとりではなく、二人一組で見張りをする。
「はぁ、疲れたわぁ。ご飯たべたぁい。でも暖かいお風呂にも入りたぁい」
「俺はご飯! 俺はご飯!」
黄色いセキセイインコのキコは、そのまま地面に突っ伏してパタパタする。
ハリーは疲れていないのか、やっぱり元気だ。
「キコさん。お湯を沸かすから、お風呂にしますか?」
「いいの!? いいわねぇ」
「えぇー!? いいの?? キコちゃん、うらやましいわぁ」
「鳥の特権よ」
「ボクは遠慮するね。鳥だけど」
鳥の特権というか、小鳥の特権じゃないかな。ブライトぐらいになると、小さな器じゃ風呂にもならないし。
キコぐらいならみそ汁のお椀で十分だしな。
その様子を、サクラちゃんがスマホで撮影していた。
「サクラちゃん。ここからだと地上に電波が届かないから、配信は出来ないよ」
「違うわよ。おばさまに無事を報告するためにね」
「母さんに? いや、メールも送れないけど」
「……そうだったわ!! 動画配信出来ないってことは、メールで写真送るのもダメだったのよね」
「隠しダンジョンから出れば届くけど」
悩んだ末、サクラちゃんは撮影を続けた。
「いいわ。後でまとめて届くだろうけど、毎日の経過報告にもなるし。あ、オーランドにも送ってあげようっと」
「オーランドにも?」
「だって悟くん、全然彼に写真、送ってないでしょ?」
「サクラ、それって雄? ねぇ雄?」
「そうよ。でも人間の雄なの。アメリカにいる悟くんのお友達よ」
「なーんだ。悟のマブダチかぁ」
マブダチ?
「そうそう。マブなダチなのよぉ」
「マブいダチね」
「「ふふふふふふふふ」」
待って。マブいダチって、何?
マブいって、美人だとかかわいいとか、そういうニュアンスの言葉じゃないのか?
確かにオーランドは美形だけど。
マブダチって、そういう意味だったのか。知らなかった。
イケメンな友達だからマブダチ。
なるほど。合ってるな。
俺もたまには写真、送ってやるかな。
「ヨーコちゃん、かわいいポーズぅ」
「コンッ」
ヨーコさんを撮影しているサクラちゃんと、撮影されているヨーコさんの写真。
それをじと目で見るブライト。
ヨーコさんの頭に乗って一緒にポーズをとるキコ。
ご飯を美味しそうに食べるハリーっと。
送信。
ま、届くのはここから出てだけど。




