147:待ってるからね。
「食料は各チーム三週間分だ。カセットコンロのガスも、予備を十分に持って行け」
すぐに準備に取り掛かった。
日本にはアメリカのようなハンターギルドなんてものはない。
冒険者ギルドがあって、『ギルド』が被るからだってのが理由だという。
でも実際はハンターギルド的な、大人数のグループってのはある。
複数のパーティーが合流した形のものだ。
連合――クランと呼ぶ人もいるんだとか。
今回はそういった、複数のパーティーで役割分担をするチームのような組織だ。
二つの六人パーティーが隠しダンジョンに入った。
入ってから三回、ボスが湧いて討伐されている。にもかかわらず、パーティーは戻って来ていない。
ボス討伐担当のパーティーは、ボス討伐後に地上の彼らの事務所で待っていたそうだ。
一回目に戻ってこなくても、ちょっと遠くまでいったんだなと思って心配はしなかったそうだ。
「さすがに二回目も戻ってこないと心配になったのね」
「けどよぉ、だったらその時に捜索依頼だしゃいいじゃねえか」
「後ろめたいことがなければ、ブライトの言う通りにしたんだろうな。けど彼らは、隠しダンジョンのことを誰にも知らせていない。それが悪いってわけじゃない。でもいいことでもない」
美味しい稼ぎ場は誰にも知らせたくない。
そう思う冒険者の気持ちは、一般知識としては理解できる。
でも捜索隊としては理解したくない。その結果がこの状況なのだから。
「みんな、自分の食料は足りるか確認するんだぞ」
「三週間って、どれくらい? ウチのご飯足りる?」
「ヨーコちゃんは私と同じ量でいいと思うから……これが一日分。これをえっと……」
「二十一個用意すりゃいいんだよ。あと水も忘れんなよ、サクラ、ヨーコ」
「ってことよ。わかった、ヨーコちゃん?」
「に、二十一ね。数字は習ったけん、たぶん大丈夫ばい」
そういえば、ヨーコさんはスキルを得る前まで野生動物だったな。
言葉は冒険者をストーカーして学んだようだけど、基礎学習はまったくやってないはず。
これが終わったら訓練施設に連れて行ってやろう。
食料、そしておやつ、ポーション類に救助道具一式、そして――。
「隠しダンジョン内には、通信機器のアンテナが設置されていない。技術部から三人が同行する。それでも外との通信は不可能だ。中に入ったチーム同士でしか連絡は取り合えないから、あとは各自の判断で行動しろ」
その技術部スタッフには秋山さんのチームが護衛につく。
捜索担当は俺のチーム含め、四チームが動く。秋山さんのチーム以外、今回はアイテムボックス持ちがいることが絶対条件だ。
長期による捜索になるから、荷物は持ち歩けない。
「ヨーコちゃんの初任務なのに、大変な捜索になりそうね」
「た、大変なん?」
「俺も行ったことがないダンジョンになるからね。まず地図がないんだ。こういうね、道が描かれたヤツ」
ヨーコさんには実際に地図を見せ、これがあれば迷わないんだってことを伝えた。
だがそれがない。まったく未知のダンジョンだ。
しかも自由に戻れるわけじゃないから尚更悪い。
「ヨーコさん。とにかく先走りしないこと。必ずみんなの側にいること。これだけはしっかり守って」
「私たちと一緒にいるのよ」
「なぁに。一匹で迷子になっても、ボクのサーモセンサーですぐ見つけてやるさ」
「うっ……な、なんか緊張してきたばい。サクラ、手ぇ握って」
「え、なんでよ!?」
「だって昨日一緒に見たドラマってのでやってたやん! 緊張をほぐすのに、相手の手を握るって!」
「それは好きな子の手を握りたかった主人公の言い訳よ!」
なんのドラマを見ていたんだ。
サクラちゃんとヨーコさんは、ワーキャー言いながら荷物をアイテムボックスに入れる作業をしている。
向こうではブライトが、スノゥとツララ、ヴァイスと話をしている。下手したら三週間は戻ってこれないからなぁ。
あぁ、福岡からもうひとりのダンジョンベビーが来るんんだっけ。
戻って来た時に、まだいるかなぁ。
荷物入れを手伝い、全チームの準備が出来たら西区ダンジョンへ出発だ。
「あ、悟くん。お家に電話した?」
「ん? あぁ、まだだな」
「んもう。ちゃんと連絡しなさいよ。おじさまもおばさまも、心配するわよ」
「ダンジョン行くときは連絡すると?」
「日帰り出来ない時はね。だって連絡しないと、おばさま、悟くんや私たちのご飯を用意して待ってるのよ」
「ご飯が無駄になるってことやね。それはいけんよ、悟。ご飯を無駄にしたら勿体ないけん!」
ご飯の問題だったのか……。まぁ連絡しておこう。
母さんに電話で、長期間の捜索になると話す。
俺の仕事がどういったものなのか理解している母さんは、それだけで伝わる。
『じゃあ終わったら連絡しなさいね。ご飯作ってまってるから』
やっぱりご飯の問題だったのか。
『すき焼きがいいかしら。それとも寄せ鍋?』
「すき焼き、かな」
『そう。じゃあすき焼きにしましょうね。言ってらっしゃい。気をつけるのよ』
「わかった。じゃあまた」
そう言ってスマホを切る。
すき焼きか。早く見つけて、早く帰ろう。
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