143:大泣き。
「じゃあ北海道の捜索隊に――」
「待って! せっかく東京まで来たんや。ウチ、このまま東京で就職したい!」
「なぁ。お前さん、北海道出身なのに、その微妙な方言はどこで覚えたんだ」
本部に戻って、後藤さんがキツネのこれまでの経緯をいろいろ質問した。
まず、彼女は野生の北キツネであることがわかった。
そして方言は――。
「冒険者や。私が誤って入ったダンジョンに通ってた子らや。んー、関西っちゅう所と、福岡っちゅう所から来たって言うとった」
「関西弁と福岡弁が入り混じってるのか」
「へ、変なん? ウチの喋り方、人間から見たら変に聞こえると?」
「「変じゃない!」」
うぉっと。急にドアの向こうから待機組が現れた。
特に聞かれてマズい話をしていた訳じゃないから、ドアは開けたままだったけど。
「方言女子は可愛い!」
「それがキツネだろうと、やっぱり可愛い!」
「そぉお? 可愛いの? んふふ。これならどう?」
突然、キツネがどろんっと煙を出して変化した。
人間の女性だ。
ダンジョンでも変化したあの時の姿と同じ。
そしてあの時一緒にいた冒険者と、ドアの向こうの面々は同じ反応をする。
「おおおぉぉぉぉぉぉ!?」
「キ、キツネのお姉さん!?」
「うぁっ、ダメだ。めちゃ好み」
つまりこの反応は、キツネが変化した姿を見て好意を抱いてる?
そりゃまぁ、一般的に見て美人なんだろうけどさ。胸だって大きいし。
「でもキツネの変化って、どこかで見た姿を模してるだけだろ? それって他人の――」
「違うとよ。ウチのこの姿は、ウチがその生き物だったらこうなるって姿なんばい」
「つまりキツネ子さんが人間だった場合、そのお姿ってこと!?」
「ピンポーン」
本当かなぁ。
まぁ本当だとしても、キツネはキツネな訳だし。
「「うおおぉぉぉぉぉぉ!!」」
雄たけびを上げる人たちの気持ちは、俺にはサッパリわからない。
「で、なんで俺のチームなんですか?」
「キツネの希望だ。お前は他の連中と違って、叫んだりしないからだと」
「あー、それならまぁ、仕方ない「ちょっと待って! 私は反対なんだからっ」サクラちゃん?」
頬を膨らませ、腰に手を当て仁王立ちしたサクラちゃんが抗議の声をあげた。
「あのキツネ、私のことをタヌキって言うのよ! 絶対許せないっ」
あぁー……事情を知らないもんなぁ。
「それに、悟くんに色目使ってるじゃない!」
「え?」
「使われたのか、悟?」
「し、知りませんよっ」
「だって尻尾振ってるものぉーっ」
それだけ……たったそれだけで?
「いやそれだったらサクラちゃんだって、俺に尻尾振ってることあるじゃないか」
「え!? う、嘘っ。え? 振ってる? 私、尻尾振ってる?」
「まぁたまに見るな」
と言って後藤さんがサクラちゃんの頭を撫でる。
するとサクラちゃんの尻尾が揺れた。
「こんな時にな」
「え? ぁ、嘘おぉぉぉーっ。わ、私の尻尾、どうして振るのよぉ」
「尻尾とお前は別の生き物かよ」
サクラちゃんは尻尾に手を伸ばすが、届いてない。
意外とレッサー、いやタヌキの尻尾って、短いんだよな。
「サクラちゃん。動物の尻尾って、嬉しいことがあるとその感情が動きになって現れるんだよね?」
「そ、そうね」
「じゃあのキツネはさ、捜索隊を探していた訳で、だから俺たちに出会えて嬉しかったんだと思う。聞けば、モンスターに間違われて何日も上野ダンジョンで逃げてたようだし」
まぁそれが事態を悪化させた原因でもある。
彼女はトラックで東京までやって来て、荷下ろしのために扉を開けた運転手に見つかってしまった。
追いかけられ、飛び込んだのが上野ダンジョン。
そしてダンジョン内で迷子に。
空腹の時に冒険者に出会い、食料を分けてもらおうとしたのだが――尻尾が二本あるということでモンスターに見間違われたと。
それで腹を立てた彼女は、変化のスキルを使って冒険者を脅かし、彼らが置いていった荷物から食料を盗んでいたようだ。
地上に戻った冒険者が誇張してギルドに報告するもんだから、狂暴なんて言葉が使われたんだろうな。
その件は既に後藤さんからギルドに報告されている。
荷物を失くした冒険者には、後日謝罪して弁償させなきゃならない。
それで北海道の捜索隊に就職して貰って、その給料で補填するってことにしたようだ。
「だからサクラちゃん。別に色目を使ったわけじゃないと思うよ」
「う……そう、かも……」
「サクラ。確かにあのキツネの希望でお前たちと同じチームに配属させるつもりだが、たぶん最初に出会ったのがお前らだったからってだけの理由だぞ。それにお前やブライトがいるから、動物に対して偏見を持っていないだろうからとも言ってた」
「そりゃそうよ! 悟くんは優しいんだもの」
「その優しい悟のチームに入れてやってくれ。じゃないと、あいつに荷物を盗まれた冒険者に、弁償金を払えないんだから」
「お金……すべてはお金なのね!」
まぁそりゃそうだ。
でもあのキツネにも、ちゃんとサクラちゃんの事情を話してタヌキ呼ばわりしないように話しておかないとな。
「社食で食券と席取りをお願い」と頼んで、サクラちゃんが意気揚々と出ていった後にキツネを呼んだ。
そしてサクラちゃんのことはタヌキではなく、レッサーパンダと呼ばなきゃいけない理由を話した。
「え、待って……あ、あのタヌキ……おがあざんじんじゃったのぉぉ。うぞぉぉぉ。ぞれでレッザーパンダってのが、おかあざんに? うああぁぁぁん。何それぇぇぇ」
めちゃくちゃ大泣きされた。
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