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はい、こちらダンジョン捜索隊~自分はレッサーパンダだと言い張る相棒の♀タヌキが、うっかり記録用録画を配信してしまった件。  作者: 夢・風魔
7章

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138/197

138:VSトラック。

「スノゥ!」

「任せてちょうだい!」


 スノゥに先行してもらい、泥棒を追ってもらう。


「み、三石さん! あっちですっ。商品搬入口に停めてあった、トラックごと盗まれたんですぅ」

「えぇ!?」

「カタコトの日本語だったけど、アジア系っぽかったから」

「追います! サクラちゃんは受付のスタッフに伝えて、警察を呼んでもらって」

「わかったわ!」

「二台に青文字で安虎運送って書いてます!」


 目印になって探しやすいな。

 外に出た時には、もうスノゥの姿も見えなくなっていた。

 だがここは一通の道路。とにかくここを抜けよう。


 すぐさま走り出した。

 だがその時になって、ツララを小脇に抱えていることを思い出す。


「しまった。ツララを連れてきてしまった」

「いっちょげー! 悟にぃに、悪党をやっちゅけろーっ」

「いややっつけないけど……」

「あ、母ちゃんあっち。あっちいりゅ」

「え? 見えるのか?」


 こくんと頷くツララ。さ、さすがフクロウ。

 ツララが羽根指す方角に走る。歩道を走ると危ないから、路肩を走った。

 そして前方に見つけた。


 信号停止をしている、シルバーの荷台に青文字で安虎運送と書かれたトラックを。


「〇▽З‡◇◎!」

「◇Гξ〇∂□!!」


 スノゥが凄い剣幕で何か話しているが……中国語?

 トラック泥棒も負けじと怒鳴り散らしてはいるが――マズい。信号が青になる。

 今は前に別の信号停止している車があるから動けないでいるが、動き出せば逃げられてしまう。


 急いでトラックの運転席側に回り込み、ドアを――鍵をかけているか。


「おい、開けろ! トラック泥棒、大人しくドアを開けろ!」

「☆〇!?」

「日本語を話せ!」

「悟にぃに、青ぉ」


 クソ。逃げられる!

 

「すみません! 前の車、動かないでくだ――あああぁぁっ」


 前の車が進みだした!

 クッ。こうなったら。


 トラックの前に回り込み、奴が発進するのを防……おい、まさか発進する気じゃ!?


「待て待て待て!!」


 咄嗟にトラックの発進を防ぐように左手を着いた。

 押せるわけがない。

 頭ではそう理解していても、体が勝手に反応する。


「悟くん!?」

「スノゥ! ツララを掴めるかっ」

「無理よ。その子も大きくなったからっ。そ、それよりも悟くん」

「クソ。ツララを安全な場所に……でもここを離れればトラック泥棒が……」

「悟にぃにちゅごーい!」


 ん?


「おっきな車止められるなんて、ちゅごいねぇ」

「悟くん……あなた、トラックを力づくで止めてるわよ」

「え? 何言ってるんだ、スノゥ――ん?」


 ぎゅるんぎゅるんと、凄い音が聞こえている。

 え?


「お、おいアレ見ろよ。人が……人がトラックを押し返してるぞ」

「もうたっちゃんったらぁ、そんな訳ないじゃ――えええぇぇー!? すごっ。何あの人!?」

「スキル持ちか? え、スキルってトラックより強いのか?」

「ねぇねぇ、あの人知ってる」

「私も知ってるぅー。捜索隊の人でしょ? 割と好みなんだよねぇ」

「クールっぽくてカッコいいよねぇ」

「「ねぇ」」


 逃げようとしているのにいつまで経っても動かないのは、動かないんじゃなく、俺が止めていたから?

 

「あ、悟にぃに、うんてんちゅが車から出てきちゃよ! 逃げるぅ」

「な、なんだって!? おい、待て!」

「死ネニホンジン!」

「おい! エンジン切っていけよ!!」

「そこなの悟くん!?」

「スノゥ、追ってくれ!」


 エンジンを切ってないんじゃ、危なくて離れられない。

 誰かにエンジンを切ってもら――。


「ツララ!?」


 右腕で抱えていたツララが、ぴょんっと飛び降りる。


「悪いちとには、お仕置きなのぉー!」


 え……ツララが……光った。

 いやだってスキルは秀さんが封印してくれてるじゃないか!

 今解放されてるのはチェンジだけのはず。

 え、チェンジする?


 そう思ったが、ツララの光はそのまま光球になって、逃げる男に向かって物凄いスピードで飛んで行った。

 そして――。


「アッー!!!!!」


 こちらに向かって背中を向け全力で走る男のお尻に、光球がクリーンヒットした。


 光って……痛い、のか。

 でもあの光って、ウィル・オー・ウィプスじゃないのか?

 光の精霊ってやつ。

 封印は!?


 秀さぁーんっ。






「じゃあ、あなたが素手でトラックを止めたと?」

「えっと……そう、らしいです」

「らしいってどういうこと」


 駆け付けた警察に、その場で事情聴取を受けることに。


「はーい、刑事さん。僕ら見ましたー。その人、片手でトラック止めてましたよ」

「うんうん。トラックのタイヤ、空回りしてたよねぇ」


 そ、そうだったのか。全然知らなかった。

 まさか新しいスキルを手に入れたのか? トラック押しとか、トラックを素手で止めるとか、そんなスキル。

 い、いや。でもここは地上だ。新規スキルの獲得なんて出来るわけがない。


 スキルを手に入れられるのは、ダンジョン内だけだから。


 その後、本部ビルに移動して更に詳しい聴取を受けた。

 そこでは駆け付けた警察官が三人がかりで俺を押す――という、謎の取り調べもやらされた。


「ビ、ビクともしない……どうなっているんだ」

「俺、力には自信あったのに」

「バッカ、トラックを受け止めるぐらいだぞ。俺たち人間が押したって、動く訳ないんだ」


 待って。俺も人間……。


「お疲れさんです。そいつは身体能力強化のスキル持ちなんで、全ての運動能力が常人の数十倍なんですよ」

「お、後藤じゃないか。久しぶりだな。そういや捜索隊に転職したんだっけ」

「有田か。懐かしいな。転職はしたが、十年以上前の話だぞ。ははは」


 この警察官、後藤さんの知り合いなのか。

 まぁ元々、後藤さんは救命救急士だったしな。警察にも知り合いがいたっておかしくない。


「そうかそうか。身体能力かぁ。凄いなぁ。警察うちに欲しいなぁ」

「ダメだダメ。絶対ダメ。悟はうちの第二エースだからな。いや、ある意味アイドルだ」


 待って。


「アイドルかぁ。そういや群がってた野次馬の中に、目がハートになってた若い女の子も多かったな」


 目がハートになる人間なんているわけないだろ。


「よし。聴取はこれで終わり。ご協力、感謝します」

「あ……はい」


 敬礼をされたので、思わず敬礼で返す。


 結局あの泥棒は、なんでトラックなんか盗んだんだ?


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