132:ニューヨークって寒いよね?
「寒い……」
「そうか? 快適だぜ」
「私なんて去年よりも早く、冬毛が生えそろったわよ」
「デブったよな」
「なんですって!!」
サクラちゃんがブライトを追いかける。でもブライトは高い棚の上に避難して届かなくなってしまった。
「いい、ツララちゃん。雌の体型や体重のことを言う雄は、ダメ雄なんだからね。覚えておくといいわ」
「おいサクラ! ツララになんてことを吹き込むんだっ」
「父ちゃんはダメ雄?」
「まぁツララちゃん。賢いわねぇ」
「違う。違うぞツララァ」
ニューヨークに来て一ヶ月。十一月になった。
寒い。東京より寒くない?
いや寒いんだよ。ニューヨークは東京よりずっと北なんだし。
「いやぁ、冷え込んで来たねぇ。ダウン持ってきてよかったなぁ」
「社長、持って来てたんですか」
「え? 三石は持って来てない? ニューヨークの冬は寒いぞぉ」
日本を出発した時の季節でしか服を持って来てない。
旅行カバンに冬服まで詰め込めるだけの空きスペースなんてなかったし。こんなに寒くなるとも思っていなかったんだよ。
そういや社長の荷物って、見てないな。金森さんも何も持ってなかったし。
「三石くん。こっちで上着を買い直した方がいい。はい、これ」
「なんですか、この封筒」
金森さんから受け取った封筒を開くと、現金が入っていた。
「ボーナスだ三石。現金支給にしてやったぞ」
「社長……ありがとうございますっ」
「サクラとブライトにもボーナス」
「やった~」
「僕らは別に服なんていらないしなぁ。ツララ、ヴァイス。何か欲しいものあるか?」
「わかんな~い」
「ケッ」
「わかんないよなぁ~」
ダウンジャケット、買うぞ。
「こちらのデザインなどいかがですか?」
「……はぁ」
「これはほら、アレだよ」
ニューヨークの服屋さんなんて、どこがいいのかわからない。
だからニューヨークに住んでいて、同年代のオーランドに連れて来て貰った。
オーランドがいうアレというのは、店内に張ってあるポスターのこと。
何故かオーランドだ。
オーランドがジャケットを着た写真が、ポスターになっている。
「あら、オーランドじゃない。どうしてオーランドのおっきな写真があるの?」
「モデルをやったからだよ、サクラちゃん」
「モデル? オーランド、あなたハンターでしょ?」
「モテルもやってるんだ。牧場経営とハンターとモデル」
「まぁそうなの!? いつも暇そうにしてるのに、案外忙しいのね」
「牧場の方は何にもしてねぇだろ」
確かに顔はイケメン過ぎるぐらいイケメンだけど、まさかモデルまでやっていたとは。
「うふふ。当ショップではオーランドさんが専属モデルなんです。彼にモデルをやっていただいてから、売り上げが伸びたんですよ」
「へ、へぇ……」
モデルが変わるだけで売り上げにまで影響するのか。
「悟くんもモデルやってみたらいいのに」
「え? いやなんで。モデルなんて誰でもやれるものじゃないんだよ、サクラちゃん」
たぶん。
「じゃあボクとやってみる?」
「は? なんで」
「マフラーの写真、撮るんだ」
「はい。今日このあと、スタジオで撮影があるんですよ」
「サクラちゃんたちもどう?」
店員さんの顔が引きつっている。
そもそも、服を売っている店に動物が一緒っていうのがおかしいんだよな。
最初はギョッとされたけど、オーランドが一緒だっていうことで入店を許可された。
でもモデルにまでさせるのは、どうかと思うぞ。
ダウンジャケットと下に着る温かい上着を数枚買って、そのままスタジオに同行することになった。
なんせここまでオーランドの車で来てるんだ。帰るための足がないからついていくしかない。
そして……。
「いやぁ、かわいいね。こっち向いて、サクラちゃん」
「まっ。かわいいだなんて……あたり前なんだけど恥ずかしいわ」
「かわいい! キュートだ! こっちのフクロウちゃんもかわいいねぇ」
「娘はどこにも嫁に出さないからな!」
「オラオラオラオラァ」
カメラマンにも威嚇してるよ、ブライトとヴァイスは。
「はぁ、うちの雄どもときたら、困ったものね。あ、カメラマンさん。あとで一枚ずつお写真くださいね」
そしてスノゥはしっかり者だ。
「はいはい。お兄さんも準備してね」
「あ、マフラーずれてる。手直ししますねぇ」
……どうしてこうなった?
俺はオーランドについて来ただけで、モデルになるつもりなんてなかったんだ。
なんで……なんでこんなことに。
「オーランドが初めて他の人と一緒に来たけど、こんな少年と友達だったなんて」
「……え?」
「君もクールねぇ。本当にモデルは初めてなの? 顔色も全然変わらないし、緊張しているようには見えないわ」
「いや、あの……少年?」
「学生でしょ?」
……え?
「ティーンズのモデルも欲しかったのよぉ」
「あなた、結構腹筋割れてるし、夏もののモデルやったらステキなのにねぇ。もう半年前に来てほしかったわぁ」
「ティ、ティーンズ!? いや待って、俺――」
子供だと思われてる!?




