128:出動だぜ!
「船だぜ!」
「いちいちうっさいわね!」
「クゥン……」
「はいはい。喧嘩しないように。仲間なんだから」
仲間! 仲間っていい響きだぜ!
キコは怖いけど。
姉御はアイテムボックスの中に、船を入れているんだぜ!
木の船だ。俺たち全員が乗ってもまだ余裕があるぜ!
その船を姉御のスキル『浮遊』で浮かせた後、俺たちが乗る。
俺たちが乗ってるのに、船は浮かんだままだ!
「で、こうやって押すと――楽に移動出来る」
「うおおおおぉぉぉぉ!!」
「ねぇそれって、力がいるのかしら?」
「いや。軽く押すだけで動くんだ。でも滑っているわけじゃないから、手を離せばその場で停止する」
「なるほど。怪我人がいても、船に寝かせたまま移動出来るってことか」
これなら兄貴たちが怪我人を背負って歩く必要がない!
凄いスキルだぜ姉御!!
しかもこの船は、押す人が走れば同じスピードで動かせるそうだ!
大きすぎない船のサイズだから、ダンジョン内でも使うことが出来る!
「人は浮かせられないの?」
「う、浮かせることは出来るんですが、その……じたばたすると動いてしまって。あと高く浮かんでしまったり」
「それだとどこに行っちゃうかわからなくなるわね」
「そ、そうなんです……ごめんなさい」
「あなたが謝る事じゃないわよ。もっとしっかりしなさい!」
と言ってキコは翼で姉御をバシバシしばいている。
キコ、怖い。
「俺の仲間は凄いぜ!」
「うちの仲間も凄いぞ」
「オレんとこだって」
お昼は食堂で犬仲間とご飯を食べる。
スキルを手に入れてから、俺たちはよくお腹が空くようになった。
秀さんの話だと、賢くなったこととスキルを使うことでエネルギー消費が増えたからだって。
誰か意味わかる? 俺はわからない!
「おぅ、犬の」
猫グループもご飯か!
捜索隊に勤務しているアニマル隊は、何も俺みたいに人命救助を直接する奴らばかりじゃない!
計算、をする奴もいるし、一階の受付ってところで案内をする奴もいるし、マイク持って通信する奴もいる。
持ってるスキルで、適材適所に配属されたんだぜ!
今こっちに来てるのは、俺と同じ人命救助チームに配属された猫三匹だ!
「やぁ、猫の。新しいチームはどう?」
「あぁ……なんでだろうな……」
「ウォン?」
「なんで……なんで人間は俺たちを吸うんだ!」
「ほんとよほんと! もうっ。またブラシしないといけないじゃない!」
「人間ーっ。人間のニオイついニャーっ!」
猫……大変だぞ。
「じゃあさ。今度からひと吸いちゅ~る一本って言えば?」
シェットランド・シープドッグ種のシエラ姉御がそう言うと、猫たちは目を輝かせた。
「その手があったか!」
「シエラ、あんた賢いわね!」
「さすが血統書付きだニャ」
「ふっ。それほどでもないわよ」
シ、シエラの姉御、カッコいい!!
うおおぉぉぉぉぉ! 俺も頑張るぜ!
「あ、でもなんで人間は猫を吸うんだ? 猫はいったい何を吸い取られているんだ?」
「え……す、吸い取る?」
「オイラたち、何かを吸い取られているのかニャ?」
「やだ。怖いこと言わないでよっ」
吸い取られている……人間は猫の何かを吸い取っている!?
も、もしかして俺も吸い取られるかも!?
「いや、何も吸い取ってないと思うが……」
「本当か!? 本当に何も吸い取ってないか!? 大塚の兄貴、正直に言って欲しいぞ!」
「あ、あぁ。正直に言って、何も吸い取っていないから安心しろ」
「そっかぁ。よかったぜ!」
でもそれなら何故、人間は猫を吸う?
「に、人間が猫を吸うのは、い、癒しを求めてなの」
「癒し? 怪我をしているのか?」
「う、ううぅん。怪我を癒すんじゃなく、疲れた心、かなぁ。あと、単純に猫が好き、だからとか」
疲れた心……。心って疲れるのか!?
よくわかんないぜ!
お! スマホってのが鳴った!!
「出動か? 出動なのか!? うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「しゅ、出動要請、き、来ましたっ。おお、お、大塚さんっ」
「あぁ。そう緊張しなくていい。西区の十五階層……あそこか」
あそこか!
どこだ!
「みなさんっ。出動します。準備をしてください。花園さんは三階の備品室へ行ってください。担当の人が必要なものを用意してくれるんで、それをアイテムボックスへ入れてください」
「は、はいっ」
「曽我の兄貴! 出動か!」
「あぁ。でもそんなに張り切らなくても大丈夫だ。迷って進めなくなった人たちの救助だから」
「うおおおおぉぉぉぉぉぉ! 迷子の捜索だぜ!」
迷子?
そういえば昔、迷子の子猫がなんとかって歌ってた子がいたな。
あれは……あぁあぁ、そうだ!
俺の昔の飼い主だったぞ!
元気にしているかなぁ。
俺が話せるようになって、嬉しくって色々話しかけてたけど、ある日突然、車に乗って遠くに出かけて……。
そうだ!
俺が迷子になって離れ離れになったんだった!
うおおぉぉぉぉぉ!
ダンジョンで迷子!
俺が絶対見つけてやるぜ!!
しかしハリーたちのお話はここまで。




