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はい、こちらダンジョン捜索隊~自分はレッサーパンダだと言い張る相棒の♀タヌキが、うっかり記録用録画を配信してしまった件。  作者: 夢・風魔
5章

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112/197

112:東京上野ダンジョン。

 ダンジョン生成から一週間後。

 スタンピード終了からは六日後の今日、大まかな被害報告があった。

 未だ、あの日ダンジョン生成に巻き込まれた人の詳しい数字はわかっていない。

 ご遺体は可能な限り回収した。だけどスタンピード中は殲滅を優先したので、およそ丸一日、遺体は放置されていた。

 その間に遺体がモンスターに食べられたことも考えると、回収した遺体よりも被害者は多いはず。


「ご遺体、百七十四名分……生成されてすぐ救助に行ったのに……」

「仕方ないよ。実際、ショッピングモールを発見するまでに、生成から一時間以上経っていたからね」


 地下駐車場まで到達するのに、さらに同じぐらいの時間が経っている。

 ショッピングモール以外の場所にいて巻き込まれた人たちは、たぶん映画館エリアの先か、下手をするとオープンフィールドにいたかもしれない。

 スタンピードのことを考えると、あの階層にいた人は全員、助からなかっただろう。

 

「遺体で見つかった以上に、死んだ人は多いだろうな」

「私たち……頑張ったのにね」

「そうだね、サクラちゃん。でも、助かった人だってたくさんいたじゃないか」

「そうだぜサクラ。あの店にいて助かった人間は、四百人以上いたらしいぜ」

「捜索隊の救助活動としては、最高数値だよ。それだけの人を救えたんだって思わないと。ダンジョン生成は誰のせいでもないんだ。助けられなかった人もいるけど、それも俺たちのせいじゃない」


 世間では捜索隊の活動が遅かったからだとか言う人もいる。

 ダンジョン内で救助の妨害をしようとしたあのお年寄りたちの話が、かなり脚色されて世間に出たのもある。

 ただ、あまりにも世間がうるさく、あの時の一行の中に謎の損害賠償を請求しようとする人もいた。

 今朝、社長がその人たちと面会した。

 さっき、その人たちが顔を青くして出て行ったからどうしたんだろうと思ったら――。


「配信はしてなくても、今後の救助活動に役立てるための記録映像は撮ってただろ。音声もある。あの時、いち早く救助されずに苛立ってた連中の中には、あることないことをメディアに話してるのもいてな」

「あぁ、そのあることないことっていうのが映像にも音声にも残ってないもんだから、それを証拠として提出したらどうなるかって脅したんですね」

「惜しい! SNSで垂れ流すぞって脅したんだよ」


 と、青山さんが。


 SNSで垂れ流したら、大炎上待ったなしじゃないか。


「さらに社長は、虚偽報告名誉棄損営業妨害といろんな内容で民事訴訟起こしてもいいんだぞってな」


 金をせしめようとしていた人が、逆に損害賠償を請求される側になる。

 それであんな青い顔して出て行ったのか。


「ねぇねぇ。スタンピードの件はわかったの? なんで発生したのか」

「うぅん。あくまで『もしかして』の範疇なんだけどね」


 カラスのラスティを肩に乗せた赤城さんが、彼を撫でる。


「あのショッピングモールがね、地下四階と五階の階段を貫いているようなんだ」

「カァー。冒険者がくまなく探したが、四階と五階の階段だけ見つからないのサ」

「え。階段が見つからないの? じゃあどうやってその階層に?」

「壁をぶち抜いて」


 ……ゴリ押し過ぎ。

 赤城さん、青山さん、白川さん、それから後藤さんが現地で冒険者の調査隊に同行。

 どうしても階段が見つからないし、仕方ないからショッピングモールの壁をぶち破って入るしかない――という結論に至って、後藤さんと青山さんがスキル全開で穴を空けたそうな。


「おーい、みんな座れぇ。昨日の調査結果を報告するぞ」


 噂をすれば後藤さんだ。


「もう聞いた奴もいるだろうが、ショッピングモールの最上階である七階は、ダンジョンの二階にある」


 ダンジョン一階層の天井高とショッピングモールの天井高は、わずかにダンジョンの方が硬かった。

 ショッピングモールの四階が、ダンジョン地下四階と五階に跨っていた。


「ちなみに穴は、全ての階に空けた。オープンフィールドはダンジョン地下十階だ。そこがスタンピードのスタート地点だと考えられる。まぁあくまでもそうだろうって見解でしかないが」


 調べたくても、スタンピードはもう終わっている。そして当時、地下十一階に人がいたかどうかもわからない。

 今となっては調べようもないのだ。

 ならどうして十階がスタート地点だろうと言われているのか。


「まぁ単純にだ、巻き込まれた地上の建造物がダンジョン地下九階まであったからだ。その下がスタート地点だろうってな」


 その地下九階がスタート地点だった場合、オープンフィールドだったあの階層にモンスターが大量に湧くはずがないもんな。階段を上っても、下りることはないから。

 オープンフィールドか、その下の階層辺りがスタートだろう。


「ダンジョン攻略の難易度だが、東区のダンジョンより気持ち高いぐらいだろうと言われている」

「しばらくは物珍しさで見に来る一般人や、中へ入ろうとする人もいるでしょうね」

「あぁ。今後一ヶ月は、入口にうちの職員を待機させることになった。まぁ冒険者カードの登録機器の設置なんかもあるからな、入口で手動受付することになる」

「ギルド職員の人はこないんですか?」

「二人来る。まぁ交代要員みたいなもんだ」


 つまり二十四時間体制で、誰が中に入るのかと記録するってことだ。

 ショッピングモールのおかげで、ダンジョンの地下九階まで楽に下りられる。

 更に真新しいダンジョンだ。探索する冒険者が全国から集まってきていると後藤さんは話す。


「それと、新しいダンジョンの名称だが、それは政府とも話し合った結果『東京上野ダンジョン』と決まった」


 駅は辛うじて無事。一昨日から運航再開も始まった。

 だけど駅前広場は消滅し、アスファルトもコンクリートもなく土がむき出しの状態になっている。

 その中心部に、ダンジョン入口の小さなブラックフォールがあるだけ。


 かつての上野の景色は、もうそこにはない。



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