【7】
夕食後、私は手紙を読んでいるラウルに今日の子供達との出来事を話す事にした。
「私、この村では、ラウルの奥さんって事になってるみたい」
誤解されて、困るよね~という軽い感じで話し掛ける。
ラウルは手紙から視線を上げ、昼間の残った焼き菓子をもぐもぐと食べ、少し首を傾げた。
「そうですよ。サコは僕の奥さんです」
「……え?え?ちょっと、ちょっと!」
「サコもお腹を大きくしたいですか?」
「――っ!!??な、何を、言って!!」
さらりとラウルが答えるから、パニックになって状況が掴めない。
「ラ、ラウル!!」
「一緒に暮らしているんです。その方が説明し易いですから」
え?あ!?そ、そういう事。
いやいや、だからと言って、そこまでの嘘は必要無いのでは!!
「いずれ、そうなりませんか?」
「!?ラ、ラウルっ!?」
「僕ではダメですか?」
「だ、だから、そ、それは!!」
ダメですか?って、そりゃ、ダメでしょう!!
「わ、私は異世界人ですよ!!」
「知ってます」
「料理の腕もいまいちですよ!!」
「十分、美味しいですよ」
「文字だって、書けないし読めないし」
「上達は目を見張るものがあります」
「か、可愛くないし」
「僕には、可愛く見えます」
埒が明かない。
私がああ言えば、ラウルがこう言う。
最後に私が「どうして、私なの?」と尋ねた。
「初めは、勇者様に頼まれました。自分が旅に出て戻って来るまでの間、守って欲しいと」
省吾のヤツ、何、勝手に人の事、頼んでいるのよ!
「父はそのつもりで、サコを神殿内で保護し不自由無い生活をさせると約束してました」
いつ、そんな約束なんか、したのよ!!
「でも、サコはどうしても神殿を出て行きたいと言う。そこで、僕の出番です」
いえいえ、ラウルの登場なんて願ってないって!!
「アルジー村は、比較的のんびりとしていて村人の気質も穏やかです。何より、魔王の被害もここまでは及ばない。さらに、小神殿には長い間、神官も不在のまま――」
ラウルが一息ついて「ここからが本題です」と、柔らかく微笑む。
「僕は一目見て異世界の女性を気に入ってしまったんです」
「――は?」
「サコの願いを叶えたくて、父に無理を言って旅に出る事を許して貰いました」
「ラウル…」
「と言うのは建前で、本当は勇者様の為に神殿で祈りを捧げる姿を見たくなかったというのが本音です」
佐古智美というこの世界ではイレギュラーな存在を、どうして、そこまで…。
「父からの手紙です」
手渡された手紙の文字をゆっくりと一字一句しっかりと読んでいく。
全ての文字がまだ読めないけど、意味は理解出来る。
勇者がお姫様を救出し、魔王を倒したと書いてある。
省吾、やっぱり、さすがだね。
私が思った通り“あれ?もう、魔王を倒したの?早過ぎ!ってな感じ”で、終わらせたんだ。
きっと、今頃は凱旋パーティで大忙しだね。
英雄扱いされて、少々ウンザリ気味な表情が目に浮かぶよ。
お姫様と仲良くなったら、この国の王様だね。
どんなお話も最後はハッピーエンド。
次からは省吾の背中を押すのは、私ではなくお姫様に譲るよ。
「もう、省吾の事、簡単に幼馴染みだよって、言えないね」
この異世界に勇者として召喚されて、偉業を成し遂げた私の幼馴染み。
もう、本当に住む世界が変わってしまった。
前の世界なら、気安く話をして、一緒に学校へ行って、お互いの家に遊びに行ったり、なんて事していたけど…。
私は変化を望んでいた。
だから、これでいい。
これからは、遠くから省吾の事、応援するよ。
2013/07/13 誤字を修正しました。




