【6】
小神殿の掃除や片付けをしながら2週間ほど過ぎた頃、この村での生活も慣れてきた。
私はここでも“サコ”と呼ばれ、親切な村人と交流し畑仕事に精を出す。
もともと土いじりとか好きだったので、問題無い。
料理もそこそこ出来るので、見た事の無い食材には驚きの連続だけど、見た目ではなく“味で勝負”と言ってラウルに振る舞う。
「サコが作ってくれるものなら、何でも美味しいですよ」
そういう感想が一番腑に落ちない。
そんな事を言うなら、激辛または激甘な料理を作ってみようかな。
……やめておこう。
この村でのラウルは神官で、誰よりも神に近い存在だ。
何か有ったら、腹痛でもおこしたら、私がヤバいでしょう。
自分の益にならない事はしない。それが一番だ。
それより、明日の分の焼き菓子の準備をしておこう。
大人達が働いている間、子供達はこの小神殿へ遊びにやって来る。
保育所代わりみたいなもの。
ラウルは遊びを通して子供達に読み書きなど教えている。
私も会話は不自由無く出来ているが、文字は異世界のものだ。
私も一緒に子供達とラウル先生の生徒の一人になる。
勉強が終われば、私の焼いたお菓子を出す。お待ちかねのおやつタイム。
子供達が本当に美味しそうに食べてくれているのを見ると、それだけで嬉しくなる。
「ねえ、サコのお腹は大きくならないの?」
何気ない一人の女の子の質問に思考が止まる。
「だって、うちのお母さん。大きくなってきてるよ」
えーっと、つまり、それって。
「男の人と女の人が仲良く暮らしていると、お腹が大きくなるって」
目から鱗だ。
村人達から私はそんな風に見られていたんだ。
確かに、ラウルと一緒にこの村に来て、一緒に小神殿で暮らしていて、まあ、喧嘩はしてないので仲良くは見えると思う。
今、この子供達の前で「それは、誤解です!」って言うのも大人気ないか。
「お、お腹が大きくなるには、神様に選ばれなくちゃいけないのよ」
仮にも、私は小神殿に暮らしているのだ。ここは神様の力を借りる。
「どんなに願っても、親になるには神様に選ばれなくてはね」
子供達は私の話をちゃんと聞いてくれている。
「それに、私は皆と一緒。まだ文字も書けないし読めないでしょう。神様は、そんな私のお腹を大きくしたりしないわよ」
と言えば子供達は笑い合う。
「そうだよな、サコはオレより字が読めねえもん」
「計算だって、あたしより遅いしね」
子供達はなぜ私のお腹が大きくならないか、理解してくれたみたい。
この話題は、今後出て来ないだろう。
良かった。心の中で安堵する。
全く、冗談でしょう!
私が妊娠なんて。
16で妊娠、出産、母親って、どうなのよ!
しかも、父親は――。




