【5】
省吾の幼馴染みとしか見て貰えない世界から、私は出てみたかった。
「サコは勇者様の事、嫌いのですか?」
「…嫌いじゃないよ」
うん、それは、はっきり言える。省吾の事は嫌いじゃない。
「では、好きですか?」
「…好き、じゃない」
好きでもなければ、嫌いでもない。
「ちょうど、真ん中」って言えば友達には「何それ?」って、言われた事があった。
「でも、気にはなりますよね」
「まあ、そりゃあ…」
全く、気にならないとは言えない。
まさに幼馴染み。小さな頃から、物心付いた時から一緒に居て、それが当たり前になっていて――。
「今だって、勇者様の旅を心配してるでしょう?」
「……」
体力差はあっても、省吾はこんな知らない慣れない解らない世界で旅を――しかも、お姫様を助けて魔王を倒す旅に出ているんだ。
私の旅でさえ、へとへとなのに。
私が答えないのをいい事にラウルはじっと私を見詰めてくる。
穴が開きそうです。そんなに見られていたら。
「きっと、一緒に長く居たせいで、家族よりお互いを知り過ぎて面倒な存在になってきたんだよ」
居ないと奇妙な感じだし、居ると微妙な感じ。
「それに、幼馴染だからと言って、いつまで一緒に居られる事なんて出来ないよ」
いつか、どこかで、離れ離れにならないといけない存在だ。
付かず離れずって言うのが理想かもしれないけど、省吾に彼女でも出来ればそうも言ってられない。
高校入学と同時に、それを実行しようとしたのに母親と省吾のおばさんに阻止されてしまった。
おばさんなんか「省吾には智美ちゃんが居ないと…、ほら、ヘタレだから、うちの息子は」って言ってたけど、別に私じゃなくても誰にでも出来る事だ思う。
やる気を出させる事とか、勇気付ける事とか。
「明日、晴れたら出発しよう!」
この話はここで終わりと、私は窓の外に目を向けた。
翌朝、あんなに降っていた雨は上がり、久々の太陽が雲間から顔を出した。
アルジー村は、私の想像通りの村で、ほのぼのとした村だ。
大人達は農作業と家畜の世話で一日を終え、子供達は無邪気で駆け回っている。
村人達は、私とラウルを快く受け入れてくれた。
村中総出で神官としてのラウルは大歓迎された。
小神殿から神官が去って5年近く放置されていて、ようやく赴任されてきた神官だ。
神官は治癒魔法も使える、他の魔法も使う神官も居るらしい。
何より豊富な知識や知恵をもたらしてくれる存在という事で、村人には待ちに待った神官なのだ。
そして、私は、そんな神官様の…、何なんだろう?




