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幼馴染みだよ  作者: 塔子
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【14】省吾③

高校を卒業し、この春、俺は大学生になった。



「ヒトミ、ばぁばからお土産」

「ショーゴ!」



小さな温もりが俺をきゅっと抱き締める。


抱き上げてよく顔を見ると、やっぱり母娘(おやこ)だ。


瞳の色が違うだけで、智美に似ている。


高校を卒業して大学に行くようになると生活の半分は異世界になった。



「いらっしゃい、省吾。でも、そんなに頻繁に来ていいの?大学って意外に暇?」



智美が赤ちゃんを抱いて、小神殿内に迎えてくれる。



「ナオミは、寝たのか?」



智美の腕の中で眠るのは、半年前に生まれたヒトミの妹だ。



「うん、寝かせてくるから、少し待ってて」



テーブルに着くと、ヒトミが俺をよじ登ろうとするから抱き上げ、膝の上に座らせた。



「ラウルは、出ているのか?」

「おとうしゃんは、ちりょう、だって」



この異世界には、魔法が存在する。


魔王討伐の同行者には、魔法使いが居た。


目の当たりにした魔法の威力に“やっぱり、俺、異世界召喚したんだ”という気持ちと、勇者としての役目を果たさないと帰れないという焦りを感じたのは、もう遠い昔のように感じる。



「智美」

「なぁに?」



お茶と焼き菓子をおぼんに乗せて智美は「昨日の残りで悪いけど」と、テーブルに置く。



「この異世界に、薬って無いよな」

「…いきなり、何の話?」

「治癒魔法は、確かに万能だけど、神官の絶対数が足りない」

「省吾?」

「俺、薬剤師になろうと思って、薬学部で勉強してるんだ」

「はいっ!?」



智美が口を大きく開けて驚く顔が可笑しくて、ヒトミと一緒に吹き出してしまう。



「ちょ、ちょっと!人の顔見て笑わないでよ!!」



智美がムっとして口を尖らせるが、すぐに情けない顔をし表情が曇る。



「省吾が医療系の大学っていうのは聞いてたけど、てっきりお医者さんになるんだって思ってた」

「医者になっても、異世界(ここ)では、診察は出来ても“治療”は出来ないだろう。器具や器材を揃えられないし」



智美は「…ありがと」と、それ以上は言わなかった。



「それより、省吾!こんな所でお菓子食べてる場合じゃないでしょう!帰って勉強しないと!」



俺は「後でする」と返事をする。


教科書や資料も持ってきている。



「智美が夜食作ってくれるなら、ここで勉強する」

「……わ、分かった」



ここは意外に静かで、誰にも邪魔されず、集中出来る。


事実、大学の受験勉強も塾とここでの勉強で合格した訳だし。


――やっぱり、智美が近くに居るからかな。



「ただいま」


「あ、おとうしゃん!おかえりー」


「お邪魔してます」


「いらっしゃい、ショーゴ」



少し疲れた感じで“治療”から帰って来たラウル。



「相変わらず、ヒトミはショーゴの膝の上が好きなんですね」



と、ラウルはニコっと笑うが、表情はかなり参っている。



「お帰り、ラウル。お疲れ様、部屋で休んだ方が…」

「サコ、さすがに今日は魔力を使い切りました。ところで、ナオミは?」

「今、寝かせつけた所」



智美が答えると「そうですか」と言って、ラウルは智美をぎゅーっと抱き締める。



「ラ、ラウルっ!?」

「少しだけです、サコ」



智美が真っ赤になって狼狽えている。


俺もヒトミも見慣れた光景だ。


また、いつもの、ラウルの“智美で魔力補充させて下さい”が、始まった。


はっきり言って、俺や、せめてヒトミが居る前でそういう事をするな!と言いたいが、ラウルの気持ちも分からない訳でもない。


一度、ヒトミを智美の両親に会わせようという話になり、連れ帰った時、ラウルは快く承諾したくせに、たった1週間の里帰りにも関わらず、戻ってみればラウルはすっかり精気を失い、暴走した。



たかが、1週間だろ!俺よりヘタレじゃん!



さすがに口にしたりすると、智美に俺のヘタレエピソードを暴露されたら困るので、黙ってた。



まぁ、その時の暴走の結果が“ナオミ”なんだろうなと計算上そう思うが、この件についても口は噤む。


こいつ、どんだけ智美の事、好きなんだよっ!!



「俺、ヒトミを連れてしばらく出てるから」

「いつも、ショーゴには感謝してます」

「ナオミも、寝たばかりだから、あと1時間ぐらいは起きないと思う」

「そう、ですか」



俺はヒトミを、ラウルは智美を抱き上げ、各々、思う行き先を目指す。


これなら、3人目も確実だな…。



「どこか、行きたい所あるか?ヒトミ」

「う~ん、ばぁばトコ。もらったから」

「あぁ、お土産か。何を貰った?」

「さんすうドリル」



まだ小さいヒトミに、ドリルか…。


智美のおばさんらしいと言えば、らいしな。



「でも、黙って連れ出すのはな」

「…ダメ?」



しゅんとするヒトミも、あの頃の智美と同じだ。


母娘(おやこ)だから、似ているのは当然だが、ここまで瓜二つとは。


俺の記憶の中の智美と、今のヒトミが重なって見える時がある。



「ショーゴは、おかあしゃんのこと、すき?」

「好きだよ」



幼い子供の無邪気な問い掛けに、迷う事は無い。



「じゃあ、ナオミは?」



二つ目の質問には、即答はせず、少し考える。


これって、もしかしたら…。



「ナオミは、まだ赤ちゃんで喋れないから分からない」

「じゃあ、あたしは?」



下の子が出来れば、上の子がヤキモチを焼くというやつか。


ヒトミから見れば、ラウル→智美、智美→ナオミ、が好きという事なんだろう。



「俺は、ヒトミが一番好き」

「!」



ヒトミが「おりたい」と言うので、降ろしてやると、俺の手を繋いで「はやく、ばぁばのトコ、いこ!」と満面の笑顔を見せる。




ヒトミが生まれた日に「欲しい」と言ったのを今でも憶えている。


本気か!?と訊かれたら、その場の勢いと言うか。


ただ、理由を付けて傍に居たいだけ。


女々しいだけ。


俺はこれからもずっと智美に“頑張って!”と、言って欲しいのかもしれない。


相変わらず、智美の前ではヘタレな俺だ。


性格を変えようにも、今更なんだろうな。



「ショーゴ!」

「ん?」

「あたしも、ショーゴが、いちばん、すき!」

「――っ!」



過去を振り返り、後悔した所で何も変わりはしない。


そんな事を誰かに言われなくても、頭の中では分かっている、理解もしている。


でも、あの時、ああすれば良かったんだ、こうすればもっと良かったんだと、まだ気持ちが揺れるのを許して欲しい。



「ショーゴ!いこう!」

「ヒトミ、今からばぁばに会いに行く事、誰にも言わないと約束出来るか?」

「?」

「言うと、お父さんとお母さんに叱られる」

「あたしが?」

「いや、俺が」

「!――や、やくそく、する!」

「内緒な、ヒトミ」

「うん、ないしょ」



いつか、俺も「智美は幼馴染みだよ」と心から言える日が来ると思う。


それは、まだ先だけど――。






『幼馴染みだよ』省吾編 END


省吾編、最後まで読んで頂きありがとうございます。


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