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第48話 銀狐、向きあう 其の五



 (こう)が顔を赤らめながら、眠衣(ねむりぎぬ)の合わせ目をぱっと放した。

 白竜がそんな晧の姿を見て、きょとんとした表情をしている。そしてようやく言葉が頭の中に入ってきたのか、晧と同じように顔を紅潮させた。



「その言い方ですと……その、私のアレが……怖いから逃げたって聞こえるんですが……?」

「……っっ、ああそうだよっ! 絶対にでかいだろう!」

「さぁ、どうでしょう? ですが……優しくしますので、大丈夫ですよ」

「──五月蝿い! 何が大丈夫なんだよ」

「神気は痛みを和らげますので」

「──……暗に『痛い』んだって言われても、怖いだけだろうが」    

「大丈夫です。直に分からなくなります」

「……だから怖いって」

「それに……貴方がこんなに怖がっているのに先程の話、私に抱かれる覚悟を決める為に旅に出たって、私の都合のいいように聞こえますよ、晧」

「違……っ!!」  


 

 朱を走らせていた晧の顔が更に赤くなる。

 反論しようとした晧は、結局何も言えないまま口籠もった。

 白竜の言ったことは、当たらずといえども遠からずだ。

 譬え白竜の変化に戸惑い、アレの大きさに怯えて逃げたとしても、気持ちの整理をつけていずれ里に戻ると決めていた。要はそういうことだ。 

 くすくすと白竜の笑い声が頭上から降ってくる。


 

「……笑うなっ!」  

「すみません、あまりにも愛らしくて……!」

「愛ら……!」

「ええ。まさか私から逃げた理由が、そんな愛らしい理由だったなんて」


 

 再びくすくすと笑う白竜に、晧はいたたまれなくなってそっぽを向いた。

 それすらも愛らしいと言わんばかりに、くすりと笑っていた白竜だったが、その笑い声が不自然に止む。


 

「──それなのに私は嫌われたくない一心で、貴方を追い掛ける為に姿を変えた。……貴方を悩ませてしまったこと、申し訳なく思います」

「……確かに悩んだ。悩んだけどな、お前が姿を変えたのは確かに俺の所為でもあるんだ。でも、聞いて欲しい」


 

 晧は白竜の両肩を掴むと、灰銀の瞳をじっと見据える。


 

「俺は……昨日今日あったばかりの『白霆(おとこ)』にこれでもかと惹かれたのが、自分でも信じられなかった。離れるんだと決めても、心が引き裂かれるように痛んで……、ずっとお前を裏切ったと思ってた」

「……はい」


 

 白竜が神妙な面持ちで応えを返す。

 言い様のない気持ちが溢れてくるのをぶつけるかのように、晧は拳で白竜の肩を幾度か軽く打った。

 白竜もきっと自分に言いたいことや、ぶつけたいことなどあるだろう。

 お互い様だというのに、止めることが出来ない。


 

「でも……『白霆(はくてい)』が白竜(おまえ)だったんなら、離れたくないって、傍にいたいって思うはずだよな。良かった、俺は──……ちゃんと初めから、お前のことが好きだった。なぁ? 白竜(ちび)。俺さ……旅の間、お前から離れるのが嫌だった。お前の香りに包まれながら眠りたくて仕方なかった」

「……」

霽月(さいげつ)の赤ん坊を見てさ、お前との子供が欲しいって思うくらいには……俺はお前のこと好きだった。ちゃんとずっと好きだったぞ、白竜(ちび)

 

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