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第42話 銀狐、確証する 其の二

第42話


         ***


 

 じゃあな、と麒澄(きすみ)はそれは楽しそうに手を振って、部屋を出て行った。引き戸の閉まる音が、やけに大きく聞こえた気がする。

 麒澄曰わくの『土産話』は(こう)にとって、どうしようもなく堪らない気持ちにさせるものだった。

 ただでさえ感情が全く追い付いていないというのに、自分が全く知らなかったことを知らされて、しかもそれが全て自分の為だというのだ。


 

「……白霆(はくてい)……!」


 

 晧は唸るように彼の名前を呼ぶことしか出来なかった。

 だが白霆からの応えはない。

 だが時折、高熱で苦しそうな吐息の中に、晧、晧と自分の名前を呼ぶ声が聞こえてくるのだ。


 

 ──晧……晧、申し訳ありませ……こう……。


 

 それは何に対する謝罪なのだろう。


 

「……はくてい……俺は……」


 

 まるで胸がつまりそうな想いを抱えながら、晧は寝台の際に座ると、薄青色の小瓶の栓を開けた。

 まずは彼の体調を元に戻さないといけない。ちゃんと元気になってくれないと、話も出来ないではないか。


 

 白霆を知りたいと思った。

 何を思って自分とここまで来たのか。

 そして白霆に知って貰いたいと思った。

 自分がこの旅で感じた想いを。


 

 晧は薄青色の小瓶の中身を、ほんの少しだけ口に含むと、薄く開いた白霆の口にゆっくりと薬を流し込んだ。

 こくりと白霆の喉が動く。


 

 (──ああ、飲んでくれた。どうかこのまま最後まで)


 

 飲んでほしい。

 幾度も、幾度も。

 白霆と唇を合わせて、薬を飲ませる。

 色付き始めた薄い唇のあまりの柔らかさに。

 薬で少しばかり濡れた唇の、あまりの艶やかさに。

 晧はぼぉうとした心地のまま、白霆の唇を舌先で擽るように舐め上げた。

 まるで淫蕩な遊びに耽るかのような卑猥さだったが、どうしても気持ちが溢れて我慢出来ない。

 やがて薄青色の小瓶の中身が空になる。

 夢心地から一気に我に返った晧は、顔に朱を走らせながら自分の上体を起こした。


 

「はくてい……」


 

 祈るように名前を呼ぶ。

 果たしてどのくらい刻が経てば、この術払いの飲み薬は効いてくるのだろうか。

 晧がそんなことを思っていると、白霆のある変化に気付く。

 胸にあった大きな鬱血痕が治り始めていた。

 やがて痛々しい紫色した痕がなくなると、現れたのは竜が片翼を広げたような見事な紋様だった。


 

(……ああ、白霆。やっぱりお前は……)


 

 晧の紋様と対となる、左翼紋様。

 彼の紋様にも本来ならまだ現れることのない、右翼の角部分が浮き出ている。

 それはそうだと、晧は嬉しいような泣きたくなるような複雑な気持ちで思った。

 知らなかったとはいえ、定められた番と目合い擬きのような真似をしていたのだから。

 左翼紋様が本来の『力』を取り戻したのか、淡く光り始めたかと思うと、やがて白霆の身体全体を包み込む。

 

 その、須臾。

 空気の鳴るような音を立てて、光が割れた。

 現れたその姿に、晧は息を呑む。













  

「……白竜(ちび)……」










  

 そこには長い灰銀の髪をした、彫りの深い巧緻な顔立ちの男が横たわっていたのだ。

 

 

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