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第26話 銀狐、同室になる 其の二



 今日はこの河沿いにある宿に泊まって、夕餉に名物の川魚の煮付けを食べるのだ。

 昼は森の中で歩きながら干した肉を齧り、水分を補給しただけだったからお腹が空いていた。

 時間帯もあってか、宿からはとても美味しそうな匂いが漂ってきて、空腹をこれでもかと刺激する。

 やがて宿の中に入ってからも、更に香ばしい匂いがして堪らない。


 

「申し訳ございません。本日はたくさんのお客様がお泊まりになられているので、同室となりますが宜しいでしょうか?」


 

 受付の言葉に、(こう)はどきりと胸が大きく脈打った。

 白霆(はくてい)が確かめるかのように晧をちらりと見遣る。無言のまま頷くと、白霆は肯定の応えを受付に返した。

 有名な宿だ。

 それにこの山越えへと続く道にある宿も、数は限られている。いつか同室になるかもしれないと思ってはいたが、まさかこんなに早く訪れるとは。

 そんな自分の動揺を知ってか知らでか、白霆が晧、と名前を呼んだ。


  

「先に部屋に行かれますか? それとも食事になさいますか?」


 

 須臾(しゅゆ)にして言葉に詰まる。

 今宵、同室となる部屋を先に見た後に、食事処で白霆と向かい合わせで席につく。想像しただけで食事が喉を通らなくなりそうだった。


 

「……食事だな。この匂いに耐えられそうにない」

「お腹、空きましたものね」

「腹と背中がくっつきそうだ」


 

 灰銀黒の耳をへにょっと倒して言う晧に、白霆がくすくすと笑った。

 この宿はどうやら二層の造りになっているようだった。

 受付の隣の部屋が食事処、そして受付すぐ横の階段を上がると宿だ。

 ふたりはすぐさま食事処に向かって、注文をして席につく。

 目当てはもちろん、名物の川魚の煮付けだ。無論それだけでは足りないので、何品か頼むことにする。

 しばらくして卓子(つくえ)の上には、川魚の煮付けを始め、根菜の煮物、屯食に魚の天麩羅、香の物などが並んだ。

 川魚の煮付けは、川魚好きの紫君が勧めただけあって絶品だった。焼いてから煮込まれているせいか、とても味に深みがあって香ばしくて美味しいのだ。甘辛い味付けに葉山椒、そして土生姜の千切りが効いていて食べ飽きない。軽く塩の振ってある屯食と、とても良く合った。そして宿からのお持て成しで配られた、川魚の汁物もまた晧の口に合ったのだ。


 

「……美味い」


 

 思わず白霆に向かって、紫闇の目を綺羅綺羅させながら晧は言う。

 そんな晧を優しく緩んだ灰銀の目が、愛しいと言わんばかりに見つめていたのだ。

 

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