表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢、ブラコンにジョブチェンジします  作者: 浜千鳥


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

170/354

聖と魔の邂逅

ああっ、夜遅くに声が大きすぎた!

フローラちゃん隣の部屋なんだから、そりゃ窓開けて話していたら聞こえるわ。ど、どうしよう。


あせるエカテリーナだが、ヴラドフォーレンは悠然と構えている。


「落ち着け。他の人間には、俺の姿は鳥に見えると言っただろう」


他人の目には、少女が鳥と語らっている図にしか見えないと。

いやそれ、私がめちゃくちゃ夢見がちな子じゃないでしょうか。


「あれは、お前が近頃いつも一緒にいる娘か」

「はい、わたくしの大切なお友達、フローラ様ですわ。聖の魔力をお持ちでいらっしゃいますの」

「ほう」


ヴラドフォーレンの声に、興味ありげな響きが混じる。それを聞き取って、エカテリーナははっとした。


そういえば、魔竜王様は聖の魔力を持つ聖女と、因縁が深いんだった。


ていうか、うっかりしてた!

夏休み中は乙女ゲームのシナリオと関わりがないから、ここしばらくゲームのことが頭からすっかり飛んでたけど。

魔竜王様は、乙女ゲームの攻略対象なんだよ。つまり、フローラちゃんの恋のお相手になるかもしれない候補者!

この状況は、たぶんゲームでの出会いとは全然違うのだろうけど。でも、顔を合わせたら、ルートに入る可能性が……⁉︎

いや、ユールノヴァに来た時点で、魔竜王ルートに入っていたのかも⁉︎


フローラちゃんはどうやら、皇子ルートには入っていないようだった。いやわかんないけど、自覚ないだけ、とかだったらわかんないけど。

一度、顔を合わせてもらった方がいいのでは⁉︎

今うやむやにすると、後々モヤモヤ考えることになるような気がするし。こういう時はスパッとやってしまった方が、精神的に楽!


あ、いやでも夜中だし。

はっ!フローラちゃん、当然もう夜着ネグリジェだよね。

いかん。清純派ヒロイン・フローラちゃんをいきなりそんな姿で会わせるなんて、お姉さんは許しません!


などと脳内でのあれこれにかまけていたため、フローラへの返答が遅れ――。

時間切れ。

部屋の扉が、ためらいがちに開かれた。




「あ……起きていらしたんですね。遅い時間にすみません」


ドアの陰から顔を覗かせたフローラが、恐縮した様子で頭を下げる。


「フローラ様。このような時刻に、いかがなさいまして?」


しゅっと令嬢の皮を被って、エカテリーナは穏やかに微笑んだ。


「話し声が聞こえた気がしたんです。それで、万一エカテリーナ様の身に何かあったらと心配になって……」

「まあ、フローラ様」


エカテリーナはほろりとする。心配してくれるなんて、ええ子や。


「ありがとう存じますわ。ご心配いただくようなことは、何もございませんのよ……」


ヒロインを攻略対象と会わせるべきか、まだ迷いがあるため、エカテリーナの語調はあいまいになる。

それを不思議に思ったのだろう、フローラがあらためて部屋の中を見回し――窓の外のヴラドフォーレンに気付いた。


「エカテリーナ様、こんな時間にあんな大きな鳥が?」

「え、ええ。珍しゅうございますわね」


よかった、本当に鳥に見えているんだ。


安堵しているエカテリーナに気付かない様子で、フローラはじっと『鳥』を見つめている。

そして、はっと息を呑むと、部屋へ駆け込んできた。


「エカテリーナ様、あれは、鳥ではありません!」


エカテリーナを背に庇ってヴラドフォーレンに向き合った、フローラの中に――魔力が、満ちる。


「フローラ様……!」


エカテリーナの制止は間に合わず、フローラの身体から、白い光が放たれた。



白い光が、ヴラドフォーレンを包む。

これは、かつて学園に魔獣が出現した時、その魔獣を撃退した聖の魔力だ。エカテリーナ、アレクセイ、ミハイルが共闘してもなお、倒しきれなかった強力で凶暴な魔獣が、この白い光に包まれると鎮められ和らいで消えていった。

あの時にはまだ自分の魔力が何かも知らなかったフローラだったが、その後は研鑽を重ねて魔力を磨き、聖の魔力は当時より威力を増している。


が――その光はあっさりと弾け飛んで、消えた。


エカテリーナの目には、ヴラドフォーレンは変わらず悠然と宙にたたずんでいるように見える。しかし、フローラは目を見張っていた。


「人間……?」


ああ、フローラちゃんにも魔竜王様は人間の姿で見えるようになったんだ。というか、鳥に見える仕掛けが無効化されたのだろう。


そのヴラドフォーレンは、じっとフローラを見据えている。そして、すうっと宙を滑って窓から部屋へ入ってきた。


わずかに身を引いたものの、フローラはエカテリーナを庇う位置から動かない。

床に降り立ち、ヴラドフォーレンは呟いた。


「確かに、聖女だ。それも、稀代の――まだ原石のようだが、すでに輝きが見えている」

「さようでございましょう?」


こんな状況にもかかわらず、思わずドヤるエカテリーナである。

そして、やはり夜着ネグリジェだったフローラに自分のショールを一緒に使わせようとして、後ろから抱き付く形になった。


「あ、あの、エカテリーナ様」


赤くなってうろたえたフローラの肩をぽんぽんして、エカテリーナはヴラドフォーレンに厳しい目を向ける。


「悪気はおありでないことは承知しておりますけれど、身支度の調わない女性をそのようにまじまじとご覧になるなど、あまりにぶしつけななされようですわ。わたくしの大切な友人が、たいそう困惑しております。どうか今宵は、もうお引き取りくださいませ」

「ふむ」


ヴラドフォーレンは、絶世の美貌に苦笑を浮かべた。


「興味を引かれて、礼を失した。すまなかったな、聖女にも謝罪しよう」

「えっ」


礼儀正しく言われて、フローラはかえってうろたえたようだ。


「しかし、この際だ。挨拶とやらをした方がいいか?」


そう言ったヴラドフォーレンの視線は、エカテリーナの後ろ、部屋の扉へ向けられている。

どういう意味でしょう――と言いかけた時。


寝静まっていたはずの小領主の屋敷に、ざわめく気配があることに気付いた。


あ……さっきの、フローラちゃんの魔力!

魔力を持っている人間って、近くで誰かの魔力が発揮されれば、感じ取ることが出来るのよ。

魔竜王様が稀代の聖女と評したほどのあの魔力なら、この屋敷内にいる魔力持ちは、飛び起きる勢いで気付いたんじゃ……。


青ざめるエカテリーナをよそに、駆け付ける足音が――近付いてくる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] フローラちゃん、一緒に逃げるんじゃなくて護衛になってて順調にミナ化してきてるぅ
[良い点] フローラちゃんの察しが良すぎる件。エカテリーナの側近志望ですもんね。誰よりも早くにかけつけて護衛のお仕事してます!お部屋から下がっていたミナ無念。 そして正式に?聖女さま認定されましたか…
[良い点] エカテリーナ様とヴラドさんの、配慮あるやりとり。 [気になる点] 魔竜王さんと、お兄様やミハイル殿下たちの初対面のご挨拶が、どういうものになるか。 戦闘メイドミナさんが、魔竜王さんにリタ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ