恋とはどんなもの……かしら?
「ミハイル様……ですか」
真面目な表情で、フローラは少し考える。
それだけで、エカテリーナは内心でつんのめっている。
な……なんか恋バナの反応じゃ、ない?ような?
「あの方はとても気さくなお方ですから、いろいろお話しさせていただきました。話を聞き出すのが上手くて油断なりませんでしたけど」
「え?」
「あ、いえ。つい気安くお話ししてしまいそうになって、気を付けないといけませんでした」
「ああ、そうですのね。解りますわ。わたくしもたびたび、あまりに良い方で緊張が解けてしまう気がして、困ってしまいますの」
おかげで破滅フラグ対策がグダグダのヨレヨレですよ……。
いや自分のことは置いといて。
「その、フローラ様は……」
「はい」
フローラはにっこり笑うが、エカテリーナは後が続かない。
恋バナ……って、今生では生まれて初めて。
そして思えば、前世でも不得意分野だったよそういえば!
わーん、話の持っていき方がわかんないよ〜。
と、そんなエカテリーナをじっと見つめて、フローラの方から口を開いた。
「エカテリーナ様は、ミハイル様のことをどうお思いですか?」
あ、こっち?
……ってアレ?なんて答えよう。
「ええ、その……よき学友、と思っておりますわ」
「そうなんですね。では、他に……その、どなたか気になる方は、いらっしゃるのでしょうか」
フローラちゃんナイストス!
「いえ、わたくしは別に。それより、フローラ様はいかが?」
「私も同じです」
返したトスは、受け止められた。
……。
あれ?終了⁉︎
はずまない、話が!あまりにも!
ていうか、どゆこと?フローラちゃん、皇子のこと好きになってないの?
フローラちゃんは乙女ゲームのヒロインで、ゲームは進行している。最初は身分違いだからあり得ないと思っていただろうけど、そろそろ好感度やら親密度やらは上がってきているはず。皇子を攻略している最中なのに、本人が攻略というか恋愛の対象として認識してない、なんてことある?
いや……待てよ。ここはゲームの世界だけれども。いやあのゲームは、この世界の神様が前世のゲームクリエイターにネタをぶっこんで作らせたゲーム疑惑あるから、ゲームの元ネタ世界?元ネタといっても、皇都の魔法学園に突如として魔獣が出現したことからみて、あのゲームの通りにこの世界が進んでいくのは間違いないけど。
ともあれ確実に、フローラちゃんは自分が乙女ゲームのヒロインだなんて、夢にも思っていない。だから、攻略を自覚的にするわけじゃない。
実際には、日々の中で出会ったり話したりただすれ違ったりしながら、相手の中に感情を蓄積させていっているだけなんだろう。
だったら、ゲームの流れの中にいるのにフローラちゃんには自覚がない、という事態もおかしいわけじゃない、のかな?
ゲーム……アイコンをタップすると魔法学園の正門の絵。正門が開いて、入学式ことゲームの設定説明画面へ、そのあと攻略対象の一覧画面へーー。
ここで、はた、とエカテリーナは気付いた。
それはもう、Jリーグでゴールが決まった時に、ゴール裏で巨大な旗が十本くらいばばばっ!と立つ勢いの気付きだった。
攻略対象って皇子だけやないやん‼︎
あああ……前世でゲームをプレイした時、ひたすら皇子ルートだけやってたから。最初は何も考えずに王道らしい皇子を選んで攻略して、そしてお兄様にハマって、お兄様が攻略できないか調べて、攻略できないしお兄様が出てくるのがほぼ皇子ルートのみだとわかったから、悪役令嬢の横でちょこっと出てくるお兄様を見るためだけにプレイしてたもんだから……。最後は手が勝手に動くレベルで皇子ルートを進んで、他の攻略対象者が存在していることすら意識から消えてたんだわ……。
で、でもフローラちゃんは、他の攻略対象とは接点ないはず!
いや……他の攻略対象、ロクに覚えてないんだから。実はクラスにいてました、という可能性もなくはない……。えっと、うすらぼんやり記憶があるのは、クルイモフ兄妹の兄ニコライさんだけ。そうだ、髪の色が全員違っていて、戦隊ものかよとか思った記憶が……皇子が青、ニコライさんが赤。あとは……あかん、記憶がない。そうそう、一覧にはいなかったけど、隠し攻略対象の魔竜王様は黒だね。
はっ!もしや知らないうちになんらかの条件を満たして、魔竜王ルートに乗っている可能性も⁉︎
「エカテリーナ様?」
けげんそうにフローラに呼ばれて、エカテリーナは我に返った。
「ま、まあ、失礼いたしましたわ。ぼんやりなどしてしまって」
「お疲れなのでは?私、心配していたんです。真面目でお兄様思いのエカテリーナ様ですから、領地で閣下をお支えするために、無理をなさっていないかと」
大きな紫色の目で見つめられて、エカテリーナはほろりとする。ええ子や。
「フローラ様はいつもお優しくていらっしゃいますのね。わたくし、無理などしておりませんわ。お兄様が気遣ってくださいますもの」
ちょっと代参でいろいろあったけど、別に無理はしなかったよ。うん。
フローラはふふっと笑う。まるで、すべて見通しているかのように。
「エカテリーナ様は、本当に閣下のことがお好きなんですね」
「もちろんですわ!わたくしはお兄様が大好きですの、お兄様のためならなんでもできます!」
無駄に勢いよく力説するエカテリーナ。ここで力説する必要はゼロなのだが。
「公爵閣下も、本当にエカテリーナ様を大切に思っていらっしゃいますね。お二人ほど仲良しなご兄妹はいないって思います」
「嬉しいお言葉ですわ」
それはもう、お兄様のシスコンは世界最高峰だし、私のブラコンも負けませんから!
自慢していいことか、よくわからないけれども!
「でも、だから心配になってしまうんです。魔法学園に通う令嬢のほとんどは、学園卒業後にすぐ結婚されると聞いたので。位の高いお家の方であるほど、卒業直後に式を挙げられるとか。エカテリーナ様は、将来のことどうお考えでしょうか」




