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外道? 悪党? だからなに?  作者: nama
第五章

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「この辺りにいるはずなんだよな」

「そうですね。そこらへんの店で聞いてみやす」


 ラインハルトから”ロッテルダムにも元プローイン軍の高級将校が流れてきている”と情報を受け取った。

 ゾルドはテオドールを連れて、その軍人らしき人物を歓楽街に探しに来ていた。

 供にテオドールを選んだのは、歓楽街に詳しいからだ。

 住所で大体の場所がわかる程度には出入りしているようだ。


 ゾルドがわざわざ自分で出向いたのは、優秀な人材に対する礼儀だ。

 呼びつけて”部下になれ”と言うのは失礼極まりない。

 力を貸して欲しいと頼むのならば、最初は下手に出た方が良いだろうと思ったからだ。

 その程度はゾルドでも気を使える。


 もちろん、無能であれば無駄足を運ばせた報いは受けてもらう。

 勝手な言い分だが、全てはゾルドの気分次第だ。

 相手の事情なんて関係ない。


 テオドールが近くの酒場に入ろうとすると、ドアが開け放たれる。


「とっとと出ていけ!」


 店員らしき男が、酔いどれ客を店の前へ放り出した。


「金も持たずに飲みに来るんじゃねぇよ、カスが」


 店員が唾を吐き捨てる。

 それは酔いどれの服に命中した。

 しかし、意識が朦朧とするほど飲んでいるようで、何か文句を言おうとしているが、呂律が回っていない。


「あー、あんたらお客さん? 悪かったね」


 酒場の店員は口先だけで悪びれていない。

 この程度の事は日常茶飯事なのだろう。


「客じゃねぇんだ。ちょいと聞きたい事があって――」

「いや、待て。見つかった」


 ゾルドがテオドールの言葉を遮った。

 この酔いどれが、おそらくラインハルトの情報にあった元軍人だ。


「もしかして……、こいつですかい?」

「そうだ」


 テオドールは懐疑的だ。

 しかし、酔いどれの服装をよく見ると考えが変わる。


 スレてボロボロ、汗や油が染み付いてみすぼらしい服装。

 しかし、デザインに派手さはないが、生地はそれなりに良さそうだった。

 問題は生地の良さが非常にわかりにくいくらいに汚れている事だ。

 水浴びすらしていないのだろう。

 

 だが、服装だけで判断しただけではない。

 酔いどれがゾルドの知っている男だったからだ。


「ゲルハルト、返事はできるか?」

「あー、なんひゃっへ」

「ダメそうだな」


 この男はゲルハルト。

 ゾルドがフリードに協力して軍に付いて行った時、大隊長だった男だ。

 無精ヒゲが生えて、少しやつれているが彼の顔を忘れた事はない。


 ――ゾルドを殴った男だからだ。


 怠けていたゾルドに鉄拳制裁をしていた。

 軍人としては正しいのかもしれないが、ゾルドには理不尽な出来事だった。

 てっきり戦争で死んでいると思えば、こんなところで飲んだくれている。

 この場で殺してやろうかとも思ったが、なんとか耐える。


 利用価値があるかもしれないと思ったからだ。。

 少なくとも、戦場で目の前の敵に夢中になっていたゾルドとは違う。

 広く視野を持ち、次の敵へ向かうように指示を出せていた。

 指揮官だったので、専門的な知識も持っているはずだ。

 一度話をしてみてから、殺してもいいのではないかと考えた。


「こいつはどれくらい飲んだ?」

「大体50,000エーロくらいですかね」


 正確な金額ではなく、50,000エーロくらいということは、5,000エーロや10,000エーロの可能性もある。

 酔っているから多めに請求しているかもしれない。

 それでも、ゾルドは50,000エーロを支払った。

 もしも、ゲルハルトを部下にするなら、飲み屋の支払い程度で揉め事になる可能性は消しておきたい。


「テオドール、馬車にこいつを運んでくれ」

「へい。……けど、これをですかい?」


 酒の匂いで誤魔化されているが、微かに生ゴミの匂いがする。

 ゾルドでこれなら、鼻の良い獣人のテオドールには少々厳しいだろう。

 それに、テオドールも今はそれなりに良い服を着ている。

 こんな男を抱きかかえると服が汚れてしまう。


「あー、馬車も汚れるな。【クリーン】……、なんかよけいにひどくなったな……」

「悲惨っすね」


 汚れる前の状態なら、汚らしいホームレスという印象だった。

 それならよく見かける。


 しかし、汚れが無くなれば、服の品質の良さが際立つ。

 ボロさと不釣り合いなくらいに綺麗になったせいで、元の服装の良さとみすぼらしさのコントラストが酷い事になっている。

 いっそ汚れたままの方が見た目の印象はマシだった。


「……綺麗になったし運んでおいてくれ」

「へいっ」


 気を取り直して、もう一度命じる。

 テオドールも今度は嫌がる事なく、ゲルハルトを担ぎ上げた。


(ダメそうなら、殺して消せば良いだけだ)


 そう、ゾルドは殴られた事を忘れてはいなかった。

 もちろん”俺を殴るなんて良い度胸してるじゃねぇか”や”人をしっかりと注意できる人間”という好意的な覚え方ではない。


”俺を理不尽に殴りやがった”


 というような、悪い印象がしっかり残っているのだ。

 役に立たなさそうなら、恨みを晴らす。

 とりあえずで持ち帰っても損はない。


(こういう能力とプライドの高そうな奴、どうやって落とすんだったかな)


 馬鹿正直に仲間に付けというだけでは無理だろう。

 本人をどのようにやる気にさせるか。

 ゾルドは思い悩んでいた。



 ----------



「ぬぉぉぉ……」


 目を覚ましたゲルハルトを襲ったのは強烈な頭痛。

 痛飲した後、己が愚行を恨む時間だ。

 セーロの丸薬で治したいところだが、そんなものは既に使い果たした。

 買う金もない。


 ……そのはずだったのだが、ベッド脇のナイトテーブルに水差しと一緒に丸薬が置かれている。

”神の御恵みだ”とありがたく頭痛を治すために、丸薬を水で一気に胃の中へと流し込む。


「ふぅ……。ここはどこだ?」


 頭痛が収まれば、自分の置かれた状況が気になった。

 どこかの貴族の屋敷かと思うような落ち着いた部屋。

 こんなところに泊まった記憶はない。

 ホテルだとしても、泊まる金が無い。

 どういうことかと窓から外を見ると、エルフの女と獣人の女の子が花壇に水をやっている。


 のどかではあるが、エルフがいるような屋敷に泊まった覚えが無い。

 伝手も無かったはずだ。

 ゲルハルトはますます混乱してしまう。


(まずは家の者を探すか)


 ゲルハルトは部屋を出ようとするが、下着姿のままだ。

 いくら何でも、そのまま出るわけにはいかない。

 ボロ雑巾のようになっているが、一張羅である自分の服が見つからなかった。

 おそらく、自分のために用意されていた貴族服を着る。

 サイズが勝手に調整された事から、魔装技師の手が入っている事がわかる。

 なかなかの高級品だ。


 部屋を出ると、使用人はすぐに見つかった。

 廊下の掃除をしていたからだ。


「そこの君。ここはどなたの家だ」

「ヒルター様の御屋敷です。旦那様がお客様のお目覚めをお待ちでした。ご案内致します」


”屋敷の主人に会う”


 そう思うと、今の自分の恰好が心配になる。


「部屋にこれがあったから着ているんだが、私の服はどこにやった?」


 ゲルハルトは言ってから後悔した。

 服というにはおこがましいボロ切れなんて、きっと捨てられてしまったのだろう。

 しかし、使用人はゲルハルトの予想とは違う答えを口にした。


「お客様の服でしたら、今は修繕に出されております。急ぎですので、数日で直ると思います。戻るまでは部屋に用意されている服をお召しになってください」

「そうか、わかった。案内をしてくれ」

「かしこまりました」


 使用人が案内したのは屋敷の主人の私室。

 ノックをすると”どうぞ”と声が返って来た。

 ゲルハルトが部屋に入ると、そこにはエルフの男がいた。


「目覚めたようだな。もう昼過ぎだぞ。……食事はいるか?」


 ゲルハルトは食事をどうするか聞かれて、ようやく腹が減っている事に気付いた。

 二日酔いから覚めると、見知らぬ部屋にいたのだ。

 驚きで空腹を感じる余裕なんてなかった。


「頂けると嬉しいですね。最近はロクに食べていなかったので」

「客人に軽く食べられる物を。それと私には紅茶でも貰おうか」


 主人の言う通りに、メイドは厨房へと向かっていった。

 今のやり取りを見る限り、どうやら温厚な人物のようで、ゲルハルトは安心する。

 どこかの大物に喧嘩を売って連れ去られたわけではなさそうだ。


「おそらく助けて頂いたのでしょうが、酔っていて覚えておりません。申し訳ない。そして、ありがとうございます」


 謝罪と礼は早めに言っておいた方が良い。

”礼の一言も無しか”と怒らせる前に、ゲルハルトは先に言っておいた。

 落ちぶれていても、最低限の礼儀は守ろうと体に染みついてしまっている。

 主人は頷き、礼を受け取ったと仕草で示す。


「お気になさらずに。見知った顔を見かけたので、助けただけですよ」


 ――見知った顔。


 しかし、ゲルハルトにはエルフと知り合う機会などなかった。

 どこで知られたのかとゲルハルトは首を捻る。


「私はアダムス・ヒルター。ゲルハルトさんですよね? どうしてプローインの軍人だったあなたが、場末の酒場で酔いつぶれていたのか教えてくださいませんか?」

「アダムス・ヒルター……、あなたがあの……。恥ずかしい話です」


 酒場で飲んでいれば、噂くらいは耳に入る。


”ベルシュタイン商会を踏み台に巨万の富を築いた悪人”

”孤児院の設立に尽力した善人”


 両極端な噂ばかりだった。

 ゲルハルトにそんな男の覚えは無かった。

 しかし、誰かに愚痴りたかったのも事実だ。

 ゲルハルトは静かに語り始めた。


 プローインが滅んでから、オストブルクやポール・ランドに士官しないかと誘われた。

 しかし、主君と仰いだ人物を殺した相手に仕えるを良しとせず、士官を断ったところ命を狙われるようになった。

 野に放ち、また敵対されると危険だと思われたようだ。

 やむを得ず身分を隠し、ベネルクスに潜伏していたが、そんな日々に嫌気をさして飲んだくれていた。

 そして、金も尽きて途方に暮れ、飲んだくれていた事をアダムスに話した。


「全て魔神のせいだ! 陛下は本当に天神に受け渡そうとしていたのに!」


 ゲルハルトはみっともなく、話している最中に持って来られたサンドイッチの欠片を飛び散らせる。

 彼には恥ずかしい話だった。

 それでも話さずにいられなかったのは、この言葉を言いたいためだった。


 シュレジエンの戦いの後、手柄をフリードに認められていた。

 その後、書いた戦争に関する論文を評価され、まもなく貴族の称号と昇進を受けるはずだった。

 そこに、魔神の協力者としてプローインが攻撃を受ける事になってしまった。

”フォン”の称号で呼ばれる機会を失ってしまったのだ。


「本当に魔神と協力関係にあったのかもしれませんよ?」

「そんな事はない。あんな奴と協力関係なんてなかった。天神に引き渡すくらいしか役に立たない社会のクズだ」


 そして、ゲルハルトは衝撃的な発言をする。 


「私が進言したのだ。魔神を捕らえて引き渡そうと。天神に信仰を示す事で、周辺諸国への睨みを利かせられる。侵略戦争で得た領土をプローインの物だと、教会の権威で周辺諸国に認めさせる事ができる。神が居なくなった後のプローインの地位を確固たる物にするために、良い機会だったのだ。魔神に協力するなんてとんでもない。あいつは死んで当然のクズです」


 その言葉を聞き、アダムスの顔から表情が消える。


「いかがなされた?」


 様子の変わった事で、ゲルハルトは疑念を抱く。

 先ほどの言葉に不愉快にさせる内容があっただろうか?


(そうか、この方はオストブルク出身だったりするのかもしれん)


 プローインに領土を削り取られた国の出身ならば不愉快になるだろう。

 自らの失言に気付いた。


「残念だ。そこまで嫌われていたとはな」

「嫌う? 私が嫌っているのは魔神だけ……で、す」


 ゲルハルトの言葉の途中、エルフのアダムス・ヒルターは消えた。

 現れたのは魔神ゾルド。

 服装こそ違うが、その顔を忘れた事は無かった男だ。

 突然の出来事に、ゲルハルトは口を金魚のようにパクパクさせる。


「俺はな。お前の事を評価してたんだぞ。俺は目の前の敵を倒すことしか頭に無かった。そんな俺に、お前は”次へ行け”と言った。状況を判断する能力はある。今の話だと、戦場以外にも色々と考える頭があるようだ。そんなお前にそこまでコケにされるとはな」


 悪口を言っていたら、言っている相手がその本人だった。

 しかも、諸悪の根源である魔神ゾルド。

 ゲルハルトは死を覚悟した。

 そして、半ばやけくそにもなっていた。


「だからどうした? 俺を助けたのはいたぶって殺すためか?」


 炒めたソーセージに齧りつく。

 最期の食事になるかもしれない。

 だったら、遠慮なんてしてやるものかと食べる手を止めない。


「違う。俺にはブレーンが必要だ。だから、お前の力を借りれないかと思ったんだ」

「断る。断固拒否だ。例えこの後、殺されようともな」


 茹でたジャガイモをフォークで潰しながら答える。

 ジャガイモは添えられたソースを付けて食べた。

 久々に人間らしい食事をした気がする。


「殺しはしない。もちろん、拷問もな」


 ゾルドのその言葉に、ゲルハルトの手が止まる。


「なんだと?」

「確かに侮辱された事は不愉快だ。だが、言っただろう? お前を認めていると。自分に従わないからといって殺したりはしない。優秀な人材は世界の宝だ。むざむざ一時の感情で殺しはしないさ」


 ゾルドの真意はなんなのか?

 ゲルハルトは真剣に考える。

 紅茶を一口のみ、雑念を与える口内の味を流し落とした。


「そういって希望を与えてから、絶望に落として殺すつもりか?」


 ゾルドは呆れた表情で首を振る。


「そんな事はしない。お前は優秀な人間なのだと思う。でなければ、軍で出世もできないだろうしな。お前には俺の参謀になって欲しいと思う。だが、それが無理なら自由にする。金を渡そう、推薦状も書こう。そして、戦場で会おう。正面切って戦い、打ち破る。それが俺にできるお前への最大限の敬意だ」


 意外な申し出に、思考が追い付かない。

 ゲルハルトの脳はパンク状態だ。

 なぜ魔神がそこまで自分を評価しているのかが理解できない。


「自由にすれば、お前が魔神ゾルドだと言いふらすぞ」


 なんとかその言葉を絞り出すのが精一杯だった。

 ゲルハルトも、なぜそんな事を言ったのかわからなかった。

 こんなことをいえば”そういえばそうだな”と殺されるかもしれない。


「構わない。これでも名士でね。ベネルクス王家や教会にも顔が利くんだ。元プローインの軍人で、浮浪者同然の者の言葉を信じる者がいるかな」


 絶対的な自信が感じられた。

 元プローインの軍人というのはなんとかなっても、金の無い者が金持ちを証拠も無しに告発すれば金目的だと取られかねない。

 聞く耳を持つ者は、酒場で飲んだくれている酔客くらいだろう。


「とりあえず、服の修繕まで三日ほど掛かるらしい。届けられるまで、自由に過ごせ。ただし、ここいる俺以外の者達に危害を加えるような事はするなよ。子供だっているんだ」

「当然だ」


 さすがにそんな事は言われるまでもない。

 彼にも誇りがある。

 女子供に手を出すような外道ではなかった。


「それと、念のために誓約書を書いておいてくれ」


 ゾルドが差し出したのは、ゾルドの正体を喋らないという誓約書だ。


「なんだ? 誰かに話されてもいいんじゃなかったのか?」

「構わないさ。だが、子供達は俺が魔神だと知らない。使用人もな。あぁ、俺の子供じゃないぞ。弟みたいに思っている奴の子供だ。身近に魔神が居ると知って、教育に悪影響を与えたくない」

「……そうか」


 ゾルドは”子供だと、事の重大さを知らずに誰かについ喋ってしまうかもしれない”と思ってマルコとミランダには正体を話していなかった。

 しかし、ゲルハルトはゾルドの言葉通りに受け取った。

 魔神の屋敷に住んでいるなんて知ったら、正常な子供なら発狂しかねない。

 それを防ぐ意味での誓約書ならば、書いても良いだろうと思った。


(だが、これは魔神のためじゃない)


 ゲルハルトは、そう自分に言い聞かせていた。

 魔神は憎い。

 だが、自分を高く評価してくれている。

 複雑な感情を落ち着かせる時間が欲しかった。


「何か必要な物があれば、獣人に話しかけろ。奴等は俺の事を知っている」

「わかった。三日だな」


 そう言い残して、ゲルハルトは部屋を出て行った。


”誰かに助けられたと思ったら、その相手が魔神だった”


 こんな事、心を整理する時間が無ければ受け止められない。

 ゲルハルトは外の空気を吸いに、庭にでも行ってみようかと思っていた。




「あの野郎、ぶっ殺す!」


 ゲルハルトが出ていくのを確認すると、ゾルドは頭を強くかきむしった。

 怒りのあまり発狂してしまいそうだ。

 何と言っても、目の前にいた男のせいでプローインが敵に回ってしまったのだ。

 恨んでも恨みきれない。


 それでも耐えたのは、ゲルハルトがその能力の一端を見せたからだ。

 ゾルドを売るという行為だけで、プローインに多大な利益をもたらせようとした。

 戦場で戦うだけではない。

 人を陥れる事にも抵抗を見せないというのは、大きな利点だ。


 ゾルドと協力して国を大きくするよりも、ゾルドを売り渡して国を大きくする方が良い。

 何よりもリスクが低い。

 神教騎士団の騎士だったホスエが裏切るという事がなければ、ゲルハルトの企みは成功していたはずだ。


”魔神に協力するリスクを負うくらいなら、売り渡してその功績を得る”


 納得はできないが、その考え方は理解できる。

 ゾルドがフリードの立場だったら、同じ道を選んだ。


 リスクの少なく、リターンの大きい選択。

 それがゾルドにはできない。

 ベルシュタイン商会で扱った金相場の操作がそうだ。

 アルヴェスが”金はあるからもういい”と動かなければ大損害を受けていた。

 ハイリスク・ハイリターンな方法だ。

 そんなやり方しか思いつかないのだ。


 今すぐ殺してやりたいが、ゲルハルトが部下になった場合、どんな提案をしてくるのかが気になる。

 だから殺さなかった。

 ゾルドが求めている人材そのものだからだ。


 服なんてゾルドが着て、魔神のローブを羽織れば10分もせずに直る。

 三日というのは、その間に今の演技で説得できるだろうという計算で言った事だ。


(無理なら、一週間は殺さずに苦しませて、殺してやる)


 殺さないと言ったのは味方にするための口先だけだ。

 味方にならなければ、よけいな提案をした罪は償ってもらう。


 しかし、ゾルドは気付いていなかった。


 この世界に来た当初や来る前ならば、すでに殺していた。

 大物ぶって寛容な人格者の演技をしていても、そんなものはかなぐり捨ててブチ切れていただろう。

 この世界での様々な命懸けの経験が、ゾルドに忍耐という物を覚えさせていた。

 彼もほんの少しだけ成長しているのだ。

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