表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
外道? 悪党? だからなに?  作者: nama
第五章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

95/162

92

「ハメられた。まんまとレジーナの望み通りの展開にさせられたな」

「あら、何言ってるのよ。ハメ(・・)たのはあなたでしょ」


 口に出してから、下品な事を言ってしまったとレジーナは顔を赤くする。

 ゾルドはそれをひとしきり笑った後、真剣な顔でレジーナを見つめた。


「なぁ、レジーナ。お前の望みはなんだ? 妻か? それとも、俺が他の女に見向きもしない事か?」


 レジーナもゾルドを見つめ返す。

 いつになく真剣なゾルドに、レジーナもよく考えてから返事をする。


「肩書きだけなら、妻という立場に意味はないわ。他の女を見ないで、私だけを見て……」


 後半は震える声になっていた。

 レジーナとしても思い切った言葉だ。

 否定されたらどうしようと思うと、やはり言うのでは無かったと後悔するくらいに。


 ゾルドもレジーナの気持ちを理解していた。

 子供の件は、その理由の一つに過ぎないという事も……。


 ゾルドはレジーナの事を悪く思ってはいない。

 むしろ、料理以外には好印象を持っている。

 深い関係になるのなら、スレた女よりかはレジーナのような女の方が良いとは思う。

 それに借りもある。


 ついに、ゾルドにも決断の時が来ていた。


「お前がそう望むのなら、そうしてもいい。ただ、良い女が居ると目が行くくらいは勘弁してくれ」

「ダメよ」


 レジーナは即座に否定した。

 彼女にはどうしても譲れない一点があったからだ。


「私が望むからじゃないの。あなたが私をどう思っているのか。そこをハッキリして欲しいの」


 自分に付いて来てくれた。

 命の危険があった時に助けてくれた。

 だから、レジーナが望むのなら恩返しとして気持ちにこたえる。

 

 そんな理由は異性として好きになるきっかけにはなっても、結婚の理由にはならない。

 レジーナは、そんな理由付きの答えなど求めてはいなかった。


”ゾルドが自分を愛してくれているのかどうか”


 それだけが知りたかった。

 しかし、それはゾルドにとって厳しい決断を迫るものだった。


 今までゾルドは自分の気持ちを表に出さず、言葉を濁して生きて来た。

 先ほどの言葉もそうだ。

”レジーナが望むのなら、そうしてもいい”と自分の気持ちが含まれていなかった。

 それがレジーナは不満だったのだ。

 ゾルドは少しためらった後、口を開いた。


「お前にはこれからも傍に居て欲しいと思う。……結婚してくれ。浮気は……、(できるだけ)しないようにする」


 ゾルドは思い切って言葉を濁さず、ハッキリとレジーナに気持ちを伝えた。

 今もまだ”レジーナが望むのならば”という気持ちはある。

 しかし、この機会に言わなくては、今後言う事は無いだろうとも思っていた。


 それに、レジーナはゾルドが今までそれなりに深い関係になった女達とは違った。

 日本にいた頃は、ゾルドが金を持っているからという理由で付き合おうとする女もいた。

 ゾルド自身が犯罪に手を染めてようが、金さえあればいいという女だ。


 だが、レジーナは違う。

 致命的な勘違いをしているが、ゾルドを見てくれている。

 ゾルドもレジーナが言うように、自分を見て欲しいという気持ちがよくわかるのだ。


”自分が魔神だから、レジーナも付いてくるのでは?”


 そう思う事もあった。

 だが、魔神なんて肩書きは、ゾルドの事を知っている者達の間ではすでに地に落ちている。

 ニーズヘッグに追い出された時から、それは周知の事実だ。

 それに、ホスエが”天神か魔神かなんて関係ない。ゾルドだから”と付いて来てくれている。

 そのお陰で、レジーナも付いてきてくれるのは、魔神だからではなく自分にだと確信させてくれた。

 だからこそ、ゾルドも決断を下した。


 ゾルドの言葉に、レジーナは頬を緩ませる。


「嬉しいわ。気持ちもだけど、それを口にしてくれた事が嬉しい」


 レジーナはゾルドの腕をギュッと抱き締める。

 彼女も答えを求めていたが、本当に今答えてくれるとは思っていなかった。

 ゾルドには適当にはぐらかされるかもしれないと思っていた。

 レジーナとしては、望外の答えが返って来たのだ。


「少しくらいなら、浮気をしてもいいわよ」


 彼女としてもほんの少しだけ譲歩しようという気持ちが出て来た。

 これにはゾルドも驚く。


「良いのか?」

「えぇ、その代わり相手の女に後悔してもらうから」

「そうか……」


 ゾルドにとってレジーナは、色々と都合の良い女だった。

 浮気をしても、レジーナが悲しむだけだと思っていた。


 それがゾルドの浮気相手を排除するつもりだという。

 まさか、そんな一面があったとは思いもしなかった。

 さすがにゾルドも”結婚しよう”と口にして、10秒もせずに後悔する事になるとは思わなかった。


「まぁ……、あれだ。結婚しようとは言ったが、結婚はまだだぞ。全てが終わった時にだ。変装したままじゃ嫌だろう? いつか、本当の姿で家族や友人を呼んで盛大に結婚式をやろう」


 ゾルドは逃げた。

 そもそも、レジーナが他の女が生んだ子供を見た事で情緒不安定になり、突然求めて来た事だ。

 恩義もあるし、それなりに愛着もある。

 だが、ゾルドにも心の準備が必要だった。

 その時間を稼ぐために、結婚を先延ばしにした。


「わかってる。幸い私はダークエルフで、あなた魔神。時間は十分にあるわ」


 普通の人間なら、闘いが終わるまでの5年、10年という時間は長い。

 しかし、寿命が長いダークエルフならば人間の1年程度の感覚だ。

 それくらいなら十分に待てる。


「ありがとう。これからもよろしく頼む」


 ゾルドはレジーナに軽くキスをして誤魔化した。


(俺もどうかしてる。レジーナの勢いに引きずられて、とんでもない事を口にしてしまった)


 強い感情は周囲の者にも影響を及ぼす。

 ゾルドもレジーナの強い感情に心を揺さぶられていた。

 だから、つい結婚しようなんて口にしてしまったのだ。

 普段通りなら、適当に宥めすかしていたはずだったのに。


「そういえば、手紙は何が書いているんだろうな」


 気を紛らわせるために、ゾルドは手紙を読み始める。


 ジャックからの手紙はひらがなとカタカナで書かれていた。

 まだ勉強を始めて日が浅い。

 それでも、一生懸命に書いたのだろうというのがわかる。

 内容は、ゾルドに会いたいという本音が書かれていた。

 どうやら、ゾルドが感情に訴えかける手紙を書いたのは成功だったようだ。


 ニーズヘッグ達に教育を受ける事はあっても、愛情を受ける事は無い。

 それにジャックはまだ子供だ。

 ゾルドのように、女に逃げる事もできない。

 ジャックは魔族の王として豊かな生活をする内に、精神的な豊かさも求めるようになっていた。

 ちょうどそんな時期にゾルドから手紙が来た。

 嬉しくなって、つたない文字で一生懸命手紙を書いたのだ。


 ゾルドはこの結果に満足する。

 たまに手紙を書いてやれば、ゾルドにとって都合の良い駒として使えるだろう。

 魔族の力は使いたい。

 そのために、ジャックには良い父親の演技をし続けなければならない。


(良い状況だが、面倒臭いな……)


 ゾルドはニーズヘッグからの手紙を読む事にした。

 良い事が書いてありますようにと願いながら。


「ほう」


 ニーズヘッグからの手紙を読んでいると、思わず驚きの声が出てしまった。


「どうしたの?」


 ゾルドが手紙を読んで声を出すなんて珍しい。

 なんでそんな反応をしたのか、レジーナは気になったようだ。


「ソシアから接触があったそうだ。もし、ブリタニアが中立を守るのならば、魔神を是非とも迎え入れたいと」

「まぁ」


 ゾルドだけではない。

 これにはレジーナも驚いた。


 ソシアは人間の国。

 つまり、天神側陣営の国だ。

 そこから、魔神を迎えたいという申し出が自主的にあった。

 これは大きな前進だ。


「ニーズヘッグが”ソシアは魔物の被害に悩まされているから、魔神を味方に付ける事でなんとかしようとしているはずだ。お前にそれができるのか?”と書いてもいるな」

「できるの?」

「できると思うか?」


 レジーナは沈黙で答えた。

 ゾルドにそんな事ができるとは思っていない。

 そしてゾルド自身もできるとは思っていない。

 何ができて、何ができないかは自分が良く知っている。


「”必要であれば、魔物を従えられる魔族を派遣してもいい”とも書いているから、フォローはしてくれるようだな。だが、いつかは自分の力も見せないといけないな」


 ゾルドは”くだらぬ事を言うくらいなら、力を示せ”と言われた事を忘れてはいない。

 その力とは、金の力などではなく腕力や魔力の事だろう。


 今回、ニーズヘッグの態度が軟化したのは努力をしている事を認めてくれたからだ。

 しかし、それに甘えてしまえばまた見放される。

 努力をし続けて、魔神としてふさわしい結果を見せなければいけない。

 とても辛い事だ。


「頑張ってね、あなたならできるわ」

「あぁ、頑張るよ」


 こればかりは自分の努力でなんとかするしかない。

 支えてくれる人が居るだけマシだ。


「そういえば、ニーズヘッグが言っていたわ。”軍事や政治に詳しい者を送りたい。けれど、そういった者は自然と強い者になる。そちらに送れば人間相手に揉め事を起こす事になるから送れない”って」

「それはどういうことだ?」


 レジーナはゾルドがこの世界の知識が乏しい事を知っている。

 だから、できるだけわかりやすいように説明しようとした。


「そうねぇ……。魔族は強さが判断基準になるの。だから、頭が良いけど弱い人は目立たず出世もしないの。だから、頭が良くて強い人が上位者になるのだけれど、そういった人は人間や獣人を見下すわ。だって、彼らからすればゴミみたいな存在だもの。人間社会に溶け込んで活動するのには不向きって事ね」

「なるほどな」


 レジーナが選ばれたのは、魔族の中では比較的弱い部類のダークエルフだから。

 大陸にはエルフもいるので、ほぼ同等の相手もいる。

 傲慢にならず、人間を見下さずに社会に入り込む事ができる事を期待された。

 能力が高いからと、優秀で傲慢な者を送り込まれれば悪目立ちする事になる。


「意見が欲しい時は手紙で聞くしかないってことか。時間がかかり過ぎるから、やっぱり傍で意見を聞ける相手を探すしかないな」


 人材の紹介は無かったにしても、ソシアの事は大きな収穫だ。

 今すぐではなくても、なんらかの方法で連絡を取る必要があるだろう。


 しかし、ソシアは遠い。

 使者を送るにも時間がかかるし、秘密裏に行う必要もある。

 こういう場合はジョゼフにでも頼むのが良いかもしれない。


「これから忙しくなるな」


 もうじき孤児院も開設される。

 ラインハルトが味方になれば、彼の力が仲間集めにも役立つかもしれない。

 ソシアとの接触もしなければならないし、ジャック達とも連絡を続けなければならない。

 それにレジーナとテレサ母子といった家庭内の問題。

 最近はやる事が無かったが、これからはやらねばならない事が一気に増えた。


 ゾルドは、そっとレジーナを抱き寄せる。

 レジーナもゾルドに寄りかかった。


(こいつの事も考えてやらないとな……)


 今までゾルドは問題を後回しにしてもロクな事がなかった。

 いつまでも逃げ回る事はできない。

 だから、レジーナの事も真剣に考えておく必要がある。


「そういえば、子供が欲しいって言っても、混ざり物は嫌いじゃなかったか?」


 比較的穏健なレジーナも混血児は嫌っていた。

 魔神とはいえ、ゾルドはダークエルフではない。

 ゾルドとの子供は混血児になる。


「どうでもよくなっちゃった。今までハーフを生んだ人達もこんな気分だったのかしらね」


 しみじみと言うレジーナに、ゾルドはからかいの言葉も出て来ず、何も言えなくなってしまっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ