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外道? 悪党? だからなに?  作者: nama
第五章

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「壮観だな」

「あぁ、これが俺の――俺達の金だ」


 思わずヨハンの本音がこぼれてしまう。

 それだけ、5兆エーロの現金は圧巻だった。

 倉庫に山積みになった袋一つ一つに現金が詰まっている。


「ヤッホー、ぐぇっ」


 ゾルドは思わず飛び込んだが、感じたのは硬貨の固さのみ。

 残念ながら、幸せは感じ取れなかった。


「何をやっているんだ……」


 ヨハンは呆れ顔だ。

 いや、ヨハンだけではない。

 一緒に来ていたホスエ達も呆れている。


 これから、王城に向かう予定だ。

 ヨハンが言うには、これだけの金を稼いだから叙勲されるとの事。

 アルヴェスとは違い、ベネルクスの出身者でベネルクス発祥の商会が大活躍した。

 そのため、国王陛下から呼び出しがあったそうだ。


(まぁ、そんなわけねぇよな)


 現金も無事に届いた。

 わざわざ、このタイミングで呼び出すという事は、ヨハンが動き出したのだろう。


 なので、これだけの大金を放置するわけにはいかない。

 見張りとして、テオドールとラウルを置いていく。

 もし、ゾルドの居ないところでヨハン達が金を運び出そうとしたら、殺してでも止めろと伝えている。

 ホスエは王城までゾルドの護衛として付いて行くので、この二人だけでどこまでやれるのか試すには良い機会だ。

 何も起こらなければ、それに越したことはないが。


「それでは、行きましょうか」

「そうだな、行こうか」


(お前が、笑っていられるのはここまでだ)


 二人は笑顔で笑い合う。

 奇しくも、二人はまったく同じ事を考えていた。



 ----------



 ヨハンの言う事は、やはり嘘だった。

 城に着いた後、案内されたのは謁見の間ではなく応接室。

 もしかすると、そこで待って王族の用意が出来たら呼び出されるという段取りかもしれない。

 だが、執事やメイドからは、そんな話は聞かされていない。

 本当に叙勲ならば、段取りの説明があっても良いはずだ。


 しばらくヨハンと世間話をしながら待っていると、ドアがノックされた。

 王子一行のご到着だ。

 アルベールに似た男がいるので、おそらく彼がフィリップだろう。

 護衛を含め、十人以上の者達が部屋に入って来た。

 ゾルドとヨハンは席から立ち、王子を出迎える。


「待たせたな」

「まったくです。フィリップ殿下の御顔を拝見できるのを、今か今かと待っておりました」

「言うではないか」


 ハハハと二人の笑い声が部屋に響き渡る。

 ゾルドは、ヨハンのこの媚び方に引いていた。

 さすがに王族に媚びるなと言うつもりはない。

 だが、媚び方というものがある。


(こんな馬鹿みたいな媚び方をする方も、受け入れる方もどうかしてる)


 お付きの方を見ると、動揺している様子がない。

 いつも、フィリップに会う者はこんな感じなのだろう。

 その時、フィリップの背後にいたアルベールと目が合った。

 アルベールは申し訳なさそうな顔をすると、ゾルドから目を逸らす。


(これから何が起こるか知っている顔だな。申し訳なさそうな顔をするだけマシか……)


 フィリップよりは”恥”を知っているだけ、まだ良かった。

 しかし、ゾルドには良くない事だ。

 申し訳なさそうな顔をするという事は、ゾルドを助けられないと諦めたからだ。

 自分の心を楽にしたいから、心の中で謝っているだけに過ぎないと受け取った。


(申し訳ないと思うのなら、命を張ってでも庇って見せろよな)


 自分にはできない事なのに、他人には要求する。

 人には大なり小なり自分に甘いところはあるが、ゾルドは人に厳しい。


 そして、一行の最後尾に一人気になる者がいた。

 ピョコンと人の影から突き出たピンクのウサ耳。

 アルヴェスだ。

 毛はほとんど抜け落ち、かなりやつれている。

 なぜフィリップの一行にいるのかわからなかったが、ゾルドは先にフィリップへの挨拶を済ませようとした。


「お初にお目にかかります。私は――」

「それでは、話に入ろうか」


 フィリップはゾルドと挨拶をするまでもないと思っているのだろう。

 この態度でゾルドは確信した。

 解任だけでなく、その先も考えているのだと。

 アルヴェス商会を食い物にしただけとはいえ、解任だけならば今後の事を考えて表面上は友好的にしておく。

 後々、解任した相手が這い上がってきた時のためにだ。

 それをしないという事は、この場で全てを終わらせるつもりなのだろう。


 フィリップとアルベールが席に座るのを確認し、ゾルド達も座れと仕草で合図された時。

 ゾルドの顔を見た、フィリップの護衛が声を上げた。


「殿下、この者は幻術による変装をしているようです! 危険ですので、お下がりください」


 どうやら王太子だけあって、幻術を見抜く力量のある護衛が混じっていたようだ。

 さすがにこれはゾルドにとって予定外の出来事だった。


(そういえば、幻術に気付くとかなんとかエリザベスが言っていたな……)


 確かに、変装をしたまま王城に入るのは今回で二回目だ。

 前回は第二王子のアルベールだったから、幻術を見抜ける者と出会わなかっただけだったのだろう。


 さっそく”切り札の出番か”と身構えたゾルドだが、フィリップは動じなかった。

 よほどの大物なのか、それとも愚鈍か。


「すぐに済む。それに商人が変装したくらいで慌てるな。俺の護衛ともあろう者がみっともない」

「しかし……。いえ、かしこまりました」


 後者のようだった。

 こんな馬鹿なら今までにも、身の危険を感じる時もあっただろうに……。

 なぜ変装しているのかにまで考えが及ばない。

 人の意見を聞こうともしない。

 今までもこの調子で聞こうともしなかったのだろう。

 だから、護衛も早々と説得を諦めてしまったようだ。


 この状況で、最初に口を開いたのはヨハンだった。


「本日はアダムス・ヒルターの解任について詳しくお話をするつもりでしたが、その必要は無くなったようですね」


 ヨハンは、先ほどゾルドの変装を見破った護衛の方を見る。

 王族の前で変装をしているような、後ろ暗い背景がありそうな者を解任するのに、小難しい理由など必要ないという事だ。


「金はどうなる?」

「顔を変えているんだ。名前も偽名だろう? その時点でお前はアダムス・ヒルターではない。全ての契約は無効だ」


 ヨハンは痛いところを突いてきた。

 偽の身分を使っているのは事実だ。

 ここを突かれると、ゾルドとしても反論し辛い。

 フィリップも、ここで畳みかけるように告げる。


「それと、アルヴェス商会が潰れるきっかけになった責任を取ってもらうぞ。この馬鹿が欲をかいたのせいで、こっちは大損だ」


 わずかな間に矛盾する事を言っているのに気づいていない。

 アルヴェス商会を潰したのはアルヴェスの無能が原因だ。

 だが、責任をアルヴェスだけではなく、ゾルドにも負わせようとしている。

 よほど気に入らなかったのだろう。


 それに加えて、アルベールがベルシュタイン商会に手を貸していたのも気に入らないと思っていた。

 王太子である自分ではなく、第二王子のアルベールが手を貸した商会が大成功を収めたのだ。

 フィリップが面白いと思うわけがない。

 今回の呼び出しは、副会長のゾルドを解任する事でヨハンに恩を売り、世間にベルシュタイン商会がフィリップの保護下になったと知らしめる目的があった。


「責任とはどのような形になるのでしょうか?」


 フィリップはゾルドを見下すような視線を向ける。


「アルヴェスは私の有力な後援者だった。そのアルヴェス商会を崩壊させるという事は、王太子である私への攻撃と受け取れる。まぁ、死罪が妥当だな」


 その言葉を合図に、フィリップの護衛がゾルドの背後に立つ。

 ゾルドを死刑にする事で、フィリップはベルシュタイン商会という新たな後援者を得る事ができ、ヨハンは5兆エーロの山分けをせずに済む。

 次代の王になる王太子だからこそできる無法だ。


「苦しんで死ね!」


 見苦しく叫ぶのはアルヴェスだ。

 ヨハンはフィリップに取り入っているので、恨み言を言えない。

 だから、せめてものゾルドには、もがき苦しんで死んでほしいと思っている。

 アルヴェスを呼んだのは、今まで後援者として支援してきた功績を評して、自分を奈落へ突き落した男の最期を見せてやるつもりなのだ。


 だが、ゾルドは落ち着いている。

 これくらいなら想定の範囲内だ。

 十分に対応可能のはず。

 久々に使うジョーカーに、心が沸き立つ思いをしていた。


「死ぬのは誰だろうなぁ」


 他人事のように呟くゾルドに視線が集まる。

 まるで”自分は大丈夫だ”と言わんばかりの態度。

 それに、言葉から王族に対する敬意というものが消え失せている。

 ゾルドが内ポケットから何か取り出そうとしたところで、護衛の一人がゾルドの手を押さえた。


「凶器は出させん!」


 その言葉に、ゾルドはため息で答える。


「だったら、お前が取れよ。そんでもって、俺の変装を見抜いた奴に渡せ」


 抵抗する事なく、力を抜いたゾルドの言葉に従い、護衛は内ポケットから小さな袋を取り出した。

 そして、それを変装に気付いた護衛に渡す。


「まずは中身を確認しろ。だが、中身を声には出すな、見られるな。窓際のカーテンにでも隠れて確認すると良い」


 護衛は袋を軽く握り、中身を感触で感じとった。

 そこで感じたのは違和感。

 指輪らしき物が入っている。

 指輪ならわざわざ袋に入れずとも、指に付けておけば良い。

 そんなに大事な物なのかと、カーテンに隠れて他の者から見えないように中を確認した。


「うぉっ、これは……。本物ですか?」


 声だけで驚いているというのがよくわかる。

 部屋にいる者の視線は、カーテンに向けられていた。


「本物だ。確認方法はわかるか?」

「もちろんです。おぉっ」


 彼が確認しているのは、神教騎士団の指輪だ。

 魔力の練習をし始めて、最近ようやく自分で十字架のような影を浮かび上がらせる事ができるようになった。

 魔法は使えないが、ほんの少しだけでも魔力を流すという事ができるようになってきている。

 今回、自分で魔力を流さなかったのは、この後のためだ。

 ただ指輪を持っているだけでは、説得力が無い。

 説得力を持たせるには、段階という物が必要だった。


「本物だと確認できたか?」


 窓際から戻ってきた護衛に話しかけた。


「はい、私の知る限りでは」


 護衛がうなずくのを確認し、ゾルドは指でこっちに来いという仕草をする。


「よけいな有象無象が居ては重要な話が出来ん。国王陛下とアルベール殿下。そして、そこの馬鹿共で話をしたい。それと――」


 ゾルドは、他の者達に聞こえないように耳打ちした。

 追加で呼びたい相手の名を、コッソリと伝えている。

 その様子に、フィリップが口を挟んだ。


「貴様、私を馬鹿と言った挙句、勝手に話を進めるとは何事だ!」

「なんだ、自分の事をよくわかってるじゃないか」

「なにをっ! 殺せ! 今すぐ殺せ!」


 しかし、護衛の動きは鈍い。

 先ほど仲間が何かを確認していた。

 そして、それに驚いていた。


 もしも、他国の王族や有力者であった場合、後々国際問題になる。

 その際に、責任を取らされるのは実行犯だ。

 相手次第でフィリップは王太子の座を奪われるかもしれないが、護衛達は命が奪われる。

 場合によっては、一族も連座して責任を取らされるかもしれないのだ。


 相手の正体がわかるまで、決して軽はずみな行動はできない。

 馬鹿王子がコケにされていてもだ。

 むしろ、王族に対する不遜な態度を考えれば、よほどの大物かもしれないとビビってすらいた。


「なぁ、お前はなんて言う名前なんだ」

「ステファンと申します」


 ゾルドの変装を見舞った男は、神教騎士団の指輪を持ち、王族に横柄な態度を取る男の事を恐れていた。

 その恐れは他の者達とは違う。

 教会関係者を処刑しようとしていたのだ。

 それも、不当な言いがかりをつけて……。

 教会との争いになるかもしれないと考えると、プローインの事を思い出して怖くなってしまった。


「なぁ、ステファン。非常に重要な話なんだ。先程の面子で話し合いをした方が良いか悪いか、どう思う?」


 ステファンの顔に浮かんだのは困惑。

 いや”そんな面倒な事を俺に聞くな”と、吹き出しにでも書いて頭の上に浮かんでいそうな顔をしていた。


「……私には判断しかねます」


 フィリップに賛同するのは、この国とってよろしくない。

 だが、ゾルドに賛同すれば、この国に居づらくなりそうだ。

 彼が選んだのは、明言を避けるという選択だった。


「それじゃあ、判断できる奴のところへ持っていけ。もちろん、こいつじゃないぞ。その袋も持って行って良いが、大勢に知られないようにな」


 ゾルドが指差したのは、もちろんフィリップだ。

 こうして挑発的な態度を取るのも、信憑性を高めるための一環。

”こちらには強力な背後関係があるんだぞ”と示す事によって、交渉を有利にするめるためだ。

 自前の力ではないのが悲しいところだが、将来的には”魔神”の肩書きだけで、肩で風を切って歩くつもりだった。


「それでは、陛下にお伝えして参ります。みなさん、陛下のお言葉をお待ちください。軽はずみな行動は決して取らないように!」


 ステファンは、そう言い残して素早く部屋を出て行った。

 フィリップの居る部屋にいつまでも居て、愚かな命令を出されるのが嫌だったのだ。

 本当に神の存在する世界において、教会の地位は強い。

 とばっちりを受ける前に、ゾルドの言う事を聞いて印象を良くしておきたかった。

 こうなると、変装を見破った事すら後悔してくる。

 きっと、教会の任務で変装しているのだろうから……。


「お前は何者だ……」


 ゾルドの隣に座っているヨハンが呟く。

”王太子のフィリップ”という今考え得る最高の切り札を出したのに、それ以上の何かであっさりと切り返された。

”これならば、大人しく山分けしておいた方が良かったのではないか”と後悔するのも仕方がない。


「ただの変装好きさ」


 そう言って、ぬるくなった紅茶をすするゾルドを、ヨハンは絶望に満ちた目で見つめていた。

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