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(ようやく終わったと思えば……、ニーズヘッグめ。やってくれるな!)
各種族の挨拶が終わった。
そう思って一安心だと思っていた俊夫に、ニーズヘッグは追撃を行った。
歓迎の宴として、大広間にて食事会が開かれたのだ。
それだけなら良かった。
当然のように、俊夫の横には顔を泣き腫らしたレジーナが座っている。
このニーズヘッグの計らいは、余計なお世話だった。
先ほどのやり取りで傷心のレジーナを、公式の場で魔神の隣に座れるという栄誉で和らげようと考えたのだろう。
たかがダークエルフの女に、ニーズヘッグがここまで配慮するには理由がある。
レジーナを慰めると同時に、俊夫の情の深さを皆に知らしめるようという計算もあったのだ。
全て”俊夫がレジーナを愛している”という勘違いから生まれた誤解がもたらしたものである。
ニーズヘッグは粋な計らいをしたと満足していたが、今のレジーナから少し距離を置きたいと思っていた俊夫にとって、ありがた迷惑でしかなかった。
(なんだよ、自分の奴隷は自分で管理しろって言いたいのか? 我らが王とか言ってたんだから、こいつを落ち着かせておくくらいの気を回しておけよ。飯もマズイし、どうしようもねぇな)
横に落ち込んでいる女がいるからというだけではない。
食事も俊夫を不愉快にさせるレベルの内容だった。
肉は焼き過ぎて固い。
しかも、塩コショウが振られておらず、ソースもかかっていない。
スープは煮過ぎているのか、野菜がクタクタになっている。
それでいてスープに野菜の旨味があるかといえば、まったくない。
トドメに小便臭いパイ包み料理。
パイを切り分けようとした時、中から異臭が漂ってきた。
その全てが食欲を無くすための、強制ダイエット料理なのではないかと疑ってしまうレベルだった。
全体的に味が薄すぎるというのも、食べるのが厳しい原因だ。
テーブルの上にある物の中で、ワインだけがまともに口にできる物だった。
(人間用の料理店っていうのは、嘘じゃなかったんだなぁ……)
ウナギのゼリー寄せは、生臭くて食べられないと思った。
しかし、味自体はそこまで悪い物ではなかった。
フィッシュアンドチップスは、かなり油っぽいとは思ったが、今思えば普通に食べられるだけでもありがたい。
食が進まない俊夫を見て、少し落ち着いてきたレジーナは声をかける。
「ゾルド様。ブリタニアの料理は、自分好みに味付けをするんですよ」
そう言って、テーブルの上にある塩を自分の前にある料理に振りかける。
(そうか、今までマズイと思っていたのは、味が無かったからだ)
レジーナの言葉に納得し、俊夫も塩を振りかけてスープを飲む。
(うん、塩味がきいて味がする。……ってそうじゃねぇだろ!)
この国の食文化はどうなっているのか?
素材の旨味が、まったく残っていない。
どう考えればこんな料理を、魔神に出そうと思ったのか。
俊夫の脳裏に数々の疑問が浮かぶが、すぐに消えていく。
その理由は、目の前の光景にある。
(こいつらに、食文化など無いんだ。自分好みに味付けすれば食べられるとか、そんなレベルじゃねぇ!)
――人間を頭から丸かじりにしている者。
――手足からチビリチビリと噛み砕いて、楽しみながら食べる者。
――丸呑みにして、反芻している者。
魔族に繊細な味わいなど不要。
腹を満たせれば良いという考え方なのだろう。
人間の精神を持つ俊夫とは、相容れることのできない食生活を送っていた。
そこで、ふと疑問が思い浮かぶ。
「レジーナ、お前は大陸での食事をどう思った?」
「えっと、それは……」
レジーナは言い辛そうにしている。
泣いて動揺していたという事もあるが、さらに落ち着きが無くなってしまった。
「正直に言ってくれ」
俊夫にそう言われては、答えないわけにはいかない。
周囲に気を使って、小声で答える。
「美味しかったです。それもすっごく」
「やはりそうか」
レジーナも俊夫と同じ物を美味しそうに食べていた。
もし、ダークエルフが人間と味覚が違うのならば、同じ物を食べていられなかっただろう。
つまりレジーナも、この料理にはウンザリしているはず。
俊夫はそう思ったが、予想に反してレジーナは平気で食べている。
(そういえば、こいつ。ドーバーの店でも懐かしい味だって食べてたな……)
今回の事は生活環境の違いというものを、強く認識させられる出来事だった。
これからの食生活に絶望している俊夫に、話しかけてくる者がいた。
「ゾルド様。一献いかがですか」
俊夫がそちらを向くと、ワインのボトルを持った美女が立っていた。
彼女は食が進んでいない俊夫を見て、酒を勧めに来たのだ。
「貰おう」
俊夫としても、美女に酒を勧められて断る理由は無い。
それに酒に酔ったからという理由で、料理を残せるチャンスだとも思っていた。
残さず食べるのは、正直なところ辛かった。
ワインを注いで貰っていると、前かがみになったその女の胸元に目が行ってしまう。
胸元の開いたイブニングドレスは、男の視線を集める効果がある。
俊夫もその例に違わず、胸を見てしまう。
その視線を、女はしっかりと認識していた。
「ねぇ、ゾルド様。レジーナさんばかり可愛がってもらってズルイです。私もゾルド様とゆっくりお話しする時間が欲しいなぁ」
甘えるような声で、俊夫と二人になる機会をねだる。
先ほどのレジーナとのやり取りを見て、ストイックな性格ではないと見て取ったのだ。
だが、その動きを見咎める者が当然いる。
「ちょっと、抜け駆けなんてズルイ」
「そうよ。私もゾルド様と二人になりたいのに」
他の女達も俊夫の寵愛を求めて、テーブル周りに集まってきた。
結婚している者はさすがにいないが、一人身の者は少しでも覚えて貰おうと名乗りを上げる。
見るからに幼い少女までもが、それに参加していた。
”魔神の隣にダークエルフの女が座っている”
その事実が競争心を煽った。
レジーナよりも、魔神の隣には自分がふさわしいと皆が思ったのだ。
そこへ、カーミラが割って入った。
「ゾルド様の前で騒がしいですよ。少し落ち着きなさい」
その言葉に、女達は静かになる。
自分達の行いを恥じたからというだけではない。
ニーズヘッグが宰相となった今、四天王筆頭はカーミラだ。
その言葉を無視する事はできない。
「立場を考えれば、最初は私に決まってるでしょ」
だが、それも内容次第だ。
「結局それが言いたいだけじゃない!」
「ご寵愛を頂くのは立場なんて関係ないわ」
「ババアのクセに」
「おらぁ、最後誰が言ったぁ!」
カーミラの乱入で、場は余計に騒がしくなった。
”さすがにこれはマズイ”と思ったニーズヘッグが止めに入ろうとするが、俊夫の方が先に動いた。
俊夫は立ち上がると、最初に声をかけてきた女の腕を取る。
「今晩は君に頼もうかな」
「ほっ、本当ですか!」
「嘘は言わないさ。最初に声をかけてくれたからね」
そう言って優しく微笑む俊夫に、女はウットリとした目をする。
ここで黙っていられないのはカーミラだ。
「ゾルド様、私は……」
「残念ながら、魔神といえども体は一つだ。だが、明日以降に優先して相手をしよう」
明日以降に相手をする。
その言葉に不満があったが、優先してくれるというから四天王の立場を尊重してくれているとは理解していた。
カーミラは渋々承知する。
「他のみんなもそうだ。その時の気分にもよるが、順番に相手をしてやろう」
その言葉に黄色い歓声が沸き上がる。
俊夫はそれを満足そうな顔で見回した。
(こいつらが魔神としての俺にしか興味がないのなら、俺はこいつらの体にしか興味がない。持ちつ持たれつで楽しくやればいいさ)
家族や友人の事を思い出すのは辛かった。
俊夫は自分の欲望を満たす事で、辛い現実から逃げ出そうとしていたのだ。
ニーズヘッグや他の四天王達も、少しくらいは息抜きに良いだろうと思い、この時は俊夫の行動を大目に見ていた。
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それから半年後。
俊夫は、まだ女色に耽っていた。
「ゾルド様、いい加減にしてください。いつになったら、天神との闘いに備えてくれるのですか」
いつまでも行動しようとしない俊夫に、ニーズヘッグはややきつい口調で詰問する。
(なんだよ、こいつは。どうせ状況は詰んでんだから、楽しむ方が良いだろうが)
俊夫はそれをうるさい小言程度にしか思わなかった。
ここから逆転するような良い案が浮かばない。
ならば無駄に苦悩するよりも、人生を楽しんでいる方が建設的だと思っていた。
「政治はお前に任せているだろう」
そう言い放つと、女の胸に顔を埋める。
相手はメスのミノタウルス。
4つのオッパイは新感覚で、それなりに気に入っていた。
当然、ニーズヘッグはその態度に憤りを覚える。
「確かに宰相に任じられました。ですが、己を鍛えるでもなく、ただ女を抱くだけというのはよろしくないと愚考致しますが、いかが思われますか?」
「正に愚考だな」
「なんですと!」
俊夫は胸から顔を話すと、真剣な面持ちでニーズヘッグに反論する。
「考えてみろ。俺の子供を多く生ませた方が戦力が整うじゃないか。これは戦うための準備だよ」
行為を邪魔されないように屁理屈を言ってみただけだ。
だが、意外と良いアイデアなのではないかと、心の中で自画自賛していた。
魔神の子は強そうだ。
先頭を切って戦わせれば、有利に戦えるかもしれない。
しかし、ニーズヘッグはその返答に満足していなかった。
それもそのはず、ようやく魔神が現れたというのに、まったく動きが無い。
これでは俊夫が居ない頃と変わらない。
いや、むしろ女の紹介という女衒のような真似までさせられている分、以前よりも悪化しているともいえる。
これでは俊夫が居ない方がマシではないのかとすら思い始めてきていた。
「ゾルド様、ブリタニア全土で行った魔神降臨パレードでは魔法を見せて頂けませんでした。そろそろお力を見せて頂きたいのですが……」
「そんなの事をして、誰か巻き込まれたら大変だろ。なんかこう……、そう。凄い魔力なんだからさ」
魔法を見せろと言われても、使えないのだから見せようがない。
あまりそこを突かれると、魔神としての力に疑問を持たれてしまう。
放っておいて欲しいのだが、ニーズヘッグは事あるごとに力を見せろと言い始めるようになっていた。
さすがにマズイかな、と思わないでもない。
だが、魔法の適性がないのなら、練習するだけ時間の無駄だと思ってしまっていた。
俊夫は、この話題を逸らす事に決めた。
「そういえば、この間ナーガが卵を産んでいただろ。種族によっては、そろそろ俺の子供が生まれ始める頃だ。教育は頼んだぞ」
その言葉に、ニーズヘッグは顔をしかめる。
「ご自分で教育されないのですか?」
「さっきも言ったじゃないか。子供を作るのに忙しいんだよ。もういいから下がれ」
「……はっ」
(せっかく辛い事を忘れて楽しめているというのに、なんで邪魔をするんだ)
ニーズヘッグの存在は不愉快でしかなかった。
”気付けば異世界に放り出されていた”
そんな辛い状況に置かれた自分に、なぜそんな嫌な事を言ってくるのか。
よくやってくれているというのはわかっている。
だが、顔を見せれば小言を言ってくるニーズヘッグを疎ましく思い始めてもいた。
一方、ニーズヘッグも同様の事を考えていた。
いつまでも戦おうとする気配の無い俊夫にイラ立ってきているのだ。
(本当にこの方に付いていっても良いのだろうか)
立ち去るニーズヘッグの心に、そんな考えが浮かび上がるのも仕方がない事だった。
「まったく、興が削がれた。また今度な」
「残念です、ゾルド様」
ミノタウルスの女にキスをして、俊夫は部屋を出ていく。
向かう先はレジーナの部屋だ。
女を抱く時はそれぞれの部屋に向かうが、2、3日に1度はレジーナの部屋に向かう。
これは主に寝るためだ。
女が大勢いるのに、一人で寝るのは寂しい。
けれど、見た目が人間っぽい魔族の女以外と寝るのは、なんとなく怖いと感じてしまう。
サキュバスを始めとした一部の魔族もそうだ。
積極的になり過ぎて寝かせてくれない。
だから、女を抱いて満足した後は、レジーナの部屋で寝るようになっていた。
レジーナはケビンと会った日から、またふさぎ込んでいる。
そんな暗い女を抱く気にはなれないし、向こうからせがまれる事もない。
抱き枕代わりに、ちょうど良かったのだ。
俊夫は、怠惰な生活をまだ続けるつもりでいた。
レビューを書いてくださって、ありがとうございます。
当作品を楽しんで頂いているようで、非常に嬉しく思っております。
読んでくださっている皆さま、稚作ではございますが今後ともよろしくお願い致します。




