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外道? 悪党? だからなに?  作者: nama
第七章

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 ――サンクトペテルブルク。


 この街は大陸東部の魔物を狩る拠点として作られた。

 陸路では物資の運搬に限度がある。

 物資の大量輸送が可能な船を使用するため、バルト海に面したこの地が選ばれた。

 西はバルト海。東はラドガ湖。

 そして北はフェアリーランドであり、魔物を含めて他者の侵入を拒んでくれる。

 交通の要衝でもあり防衛にも向いている事から、古くよりソシアの首都として繁栄していた。


 この街に二つの集団が向かっていた。


 一つはソシア軍の集団。

 フェアリーランド国境付近までの行軍演習を行い、郊外の兵舎へと向かっていた。


 そして、もう一つはソシアに拠点を移したアダムス・ヒルターの集団だ。

 すでに彼の部下がソシア政府と交渉に入っており、ソシアでの動向が注目されている。

 親衛隊が少数とはいえ、護衛に付いている事からソシア政府の期待も大きい事が見て取れる。

 彼の希望により、サンクトペテルブルク周辺の観光から帰って来たところだろうと思われた。


 ヒルター一行はホテルへと向かって行った。




「あー、ようやく鬱陶しいのが居なくなった」


 ゾルドは馬車の中でホスエ達に愚痴る。

 護衛という立場を考えれば、ホスエ達は馬車の外にいるべきなのだが、ソシアから親衛隊という皇帝直属の一部隊が案内役として付けられている。

 彼らを信頼しているという証として、護衛は完全に任せる事にしていた。


「放っておくと、レスが見えなくなるくらい群がりやがる。小型の魔物に襲われてるみたいにすら見えたぞ」


 ゾルドは蜘蛛や蜂といった虫系が大量発生するパニック映画を想像していた。

 あまり愛着が無いとはいえ、自分の子供が精霊にむさぼり食われているような絵面は気持ち悪かった。

 馬車が狭いため、今は精霊達には馬車の屋根に乗ったり、周囲を飛んでもらっている。

 お陰で精神的なグロを見ずに済んでいる。


「僕達にはわからなかったけど、そんなに一杯いたんだね」

「夏の水場付近にいる蚊の集団みたいなもんだ。それが密室で大量に飛び交っているのはたまったもんじゃない。精霊は味方にしたいが、一緒に暮らしたくはないな。レジーナは喜んでいるが、精霊が見えるというも良い事ばかりじゃない」


 文化や慣習の違いもあるのだろうが、ゾルドにはエルフ達が精霊となぜ仲良くするのかが理解できなかった。


「諦めるしかないっすよ、おやっさん。どうせ、ホテルに帰れば部屋の中にいるんでしょ?」

「そうなんだよなー。他にも問題は山積みで、これから忙しくなるし……。まったく、嫌になるな」


 ゾルドは天を仰ぐ。

 もちろん、神に祈りはしない。

 この世界の神が人を助ける余裕がない事は、今の自分がよくわかっているからだ。



 ----------



 宮殿に比較的近い場所にある高級ホテル。

 その最上階と一階下の二フロアを貸し切りにしていた。

 最上階はゾルド一家とホスエ一家が使い、一階下を他の者達が使う事になっていた。

 金持ちというのは見栄を張らねばならない。

 ポルトの冒険者時代のように、安宿で泊まるわけにはいかないのだ。


 今回はソシアに拠点を移して商売を行うという名目がある。

 一商人が宮殿に訪れるのに、怪しまれないためのカモフラージュとして必要だった。


”よそ者でも、あれくらいの金持ちなら宮殿を訪ねてもおかしくない”


 そう思わせるために”もったいない”と思いつつも、ホテルをフロアごと無駄に貸し切りにしていた。

 ゾルド達は再会の挨拶もそこそこに、ゲルハルト達から今の状況を聞く事にする。

 今の状況と言っても、彼らは移動で時間が掛かっている。

 ゾルドに到着の報告をして、ゾルド達が飛竜で飛んでくるまでの数日話した程度だったが、それでも現在の状況を話し合う事が必要だった。

 パーヴェル達との会談前に、最低限の事くらいは知っておかねばならない。


「道中での出産というアクシデントもございましたが、ご無事で何より。レス様のご出産、おめでとうございます」


 ゲルハルトの言葉に、他の者達も追従して出産を祝う。


「ありがとう。だが、戦争に勝たないと俺だけじゃなく、レスやお前達も殺されるだろう。まずは状況を教えてくれ」


 ゾルドからすれば、出産は数多く経験している。

 聞き飽きた祝いの言葉を言われるよりも、話を進めたかった。


「ハッ。では、私から説明させていただきます」


 ゲルハルトが立ち上がると、どこからともなく地図を取り出した部下がテーブル上に広げる。


「まずはソシアを取り巻く状況から」


 ゲルハルトはまずワルシャワとウィーン、ミラノを指差した。


「ミラノ公国はすでに降伏。先日の戦いでオストブルクもガリアに抵抗できるだけの戦力を失い、和平条約を結んだようです。同盟国という名の、実質的な属国ですね。同様の条約をポール・ランドとも結ばれる見込みです。両国が得ていたプローインの領土はガリアに割譲されるそうです」


 ゲルハルトがガリアからポール・ランドの領域をペンでなぞる。

 ガリア帝国の領土を視覚的にわかりやすくするためだ。

 お陰で、ゾルドにもわかりやすいものとなっていた。

 こうして見てみると、かなり広い領域となっている。


(フランスからポーランド。南北は北イタリアからデンマークを含むヨーロッパの中心地域全部ってところか)


 ゾルドは理解しやすいように、自分の世界での国名で考えた。

 国土の広さで考えればソシアも負けてはいない。

 だが、ガリアがこの世界で圧倒的な国力を持つ超大国となっている。

 非常に厄介な相手だ。

 次に、ゲルハルトはマドリードとローマを指差す。


「ヒスパンは内戦で戦う力も無く、ガリアと戦うつもりはないでしょう。表面的には対等な関係に見せつつ、裏では臣従するような姿勢を見せる気配があるそうです。ロマリア教国は言うまでもなく国家間の争いに口を挟む事はしないと思われます。ガリアからもロマリアには仕掛けないはずです」

「そうなると、次はこっちの方か?」


 ゾルドはバルカン半島を指差した。

 ブリタニア島は魔族が、フェアリーランドには精霊がいるので北にはいけない。

 ガリアが攻撃を仕掛けるとしたら、もう東側しかない。


「確かにルー・マニアやグレースは、今のガリアからすれば弱い相手です。ですが、ルー・マニアは外交による臣従が期待できます。それにオストブルクが同盟国となった今、グレースはガリアの味方にはならないでしょう。また、ガリアもグレースを攻めないと思います」

「なんでだ?」

「オストブルクは獣人のマシャールが主力となっており、ヒューマン至上主義のグレースが肩を並べて戦うとは思われません。そして、グレースの兵はヒューマンでありながら、一人一人が精強無比で知られており、攻め込んだ場合に大きな被害が予想されます。戦った場合の被害を考えると、お互い不干渉を貫くと思われます」


 ゾルドはチラリとビスマルクを盗み見る。

 身長2メートル近い、筋肉の化け物。

 それが一般兵として、大量に押し寄せる光景を想像してしまった。


(グレース、ヤベェな)


 大体三百人くらいの人数で、百万人を追い払いそうなイメージがゾルドの中で出来つつある。

 グレースには関わらないでおこうと、ゾルドは決め込んだ。


「そうなると……」

「はい。オストブルク側で参戦し、ガリアと敵対した国。そして、資源なども豊富なソシアが次に狙われると考えるのが自然と言えるでしょう」


 ガリアからすれば、北と南は無理。

 西は攻める必要がなく、東もソシア以外は攻める旨味が少ない。

 ソシアを攻め落としてしまえば、多少の小国を残したとしても世界を支配したようなもの。

 世界の統一というのは、誰にでも魅力的な言葉だ。

 しかも、それを手にする目前だとすれば、歩みを止める必要も感じないだろう。


「天秤はガリア側に傾いていて、ソシアは味方もおらず絶望的か」


 ゾルドは眩暈をしそうな気分だった。

 これならば、エリザベスにでも頼んでガリアの皇帝であるシャルルを篭絡してもらった方が早かったのではないかと後悔する。

”どうせ空港を作った奴だから、そいつの名前が付いているんだろう”とシャルルを舐めた報いだ。

 野心と才覚を持ち合わせた男ほど、乱世において厄介な者はいない。


「いえ、我らがいます。……そう断言できれば良いんですが」


 ゲルハルトが意気消沈する。

 それだけ絶望的なのだろう。


「まもなく冬になるので、冬の間は攻めてこないでしょう。ソシアの冬は非常に厳しいですので。ですが、雪解けの季節には攻めて来るはずです。それまでにソシアが軍を立て直しても、正規兵で二十万。民兵を徴兵してようやく三十万といったところでしょう」

「結構多いじゃないか」


 三十万という数を聞き、ゾルドは勝てるんじゃないのかと思った。

 以前にフリードを助けるために戦ったプローインとオストブルクの戦いは、五万か六万の戦いだった。

 さすがに大国だけあって兵士が多い。

 だが、ゲルハルトは首を横に振るだけだった。


「今のところ、想定されるガリア軍は五十万です。それもガリア軍のみ。オストブルクやポール・ランドの軍も動員された場合、さらに増える事になります」

「なんでそんなに多いんだ?」


 ゾルドが見て来た限りでは、ソシアも街の人口では負けていない。

 ならば、国が広く街の数も多いソシアだって同じくらい兵士を揃えられるはずだ。

 これだけ兵士数の差が出る事が不思議だった。

 ゾルドの疑問に、ビスマルクが答える。


「国力の差だ。兵士を集めるという事は、農民や職人を徴兵するという事。兵士を集めても、国家を運営に支障のない食料生産量や工業力があるかどうかの違いが大きい。ソシアは魔物が多い事から、どうしても基礎的な国力が劣ってしまう。資源も土地もあるのにもったいない事だ」

「なるほどな」


 食い物が無いのに農民を徴兵して作物が作れなくなったら、軍だけではなく国ごと共倒れになる。

 軍と一次産業に携わる者のバランスなども重要なのだ。

 その点において、ソシアは著しく劣っていた。

 これは政府が悪いのではなく、魔物によるものなので、一朝一夕には改善できない。

 

「それだけではなく、兵士の質も劣ります。平和な西側諸国と違い、ある程度の実力がある者は冒険者となり、魔物と戦う道を選びますから」


 ゲルハルトは、さらに辛い現実を突きつける。

 もしかしたら”嫌な事ばかり言いやがって”と憎まれるかもしれない。

 だが、ゾルドに夢を見させるのが彼の仕事ではない。

 実情を知らせるのは、非常に重要な役割なのだ。


「冒険者を徴兵できないのか?」


 ゾルドは”無理だろう”とわかっているが聞いた。

 大型の魔物を倒せるような者達を使えるのなら、ソシアも困ったりしないはずだ。


「無理です。これはソシアと冒険者ギルドの取り決めではなく、人類全体の取り決めで冒険者の徴兵はできなくなっています。特にソシアの冒険者は人類の防波堤として戦っていますので、干渉すればロマリア教国に参戦の口実を与えてしまいます」

「やっぱりダメか。……それで、ソシアはどの程度戦えるんだ?」


 ゾルドは肝心なところを聞く。

 ブリタニア諸族連合がガリアに攻め込んだ時に、ソシアが滅んでいたのでは意味が無い。

 ある程度はガリア軍を引き付けておいてもらわないと困るのだ。


「ポール・ランド国境に防衛線を張った場合は、一ヵ月保てば良い方でしょう」

「はぁ? 三十万もいて一ヵ月だけか?」

「三万で五万を相手にするのなら、作戦次第でどうにか勝てるでしょう。ですが、三十万と五十万の戦いは小手先の作戦では勝てません。数で圧し潰されてしまいます。これは戦術レベルではなく、戦略レベルでどうにかしなければなりません。その事はまだ話合っておりませんので、今後の作戦会議でどうにかしたいと思います」

「わかった。期待している」


 ゾルドは頭が痛くなってきた。

 ガリア軍を追い払ったら、そのままウィーンくらいまで行けるだろうと思っていたくらいだ。

 まさか国土防衛すらも怪しいレベルだとは思いもしなかった。

 そんな状態でも、なんとかしなければいけない。


「そうだ、俺からも伝えておく事がある。俺の子供は精霊に好かれている。魔神とダークエルフとのハーフだからか、精霊の王だと言われるくらいにだ。フェアリーランドの協力を得られるかもしれない。もちろん、ダメな可能性もあるから、過度の期待はしないようにな」

「実現すれば、それは大きいですね。上手くいく事を願っております」


 広範囲で気象を操る事のできるほどの魔力を持つ精霊が味方になれば心強い。

 洪水や土砂崩れにより敵兵を殺す事ができる。

 どこまで協力してくれるのかは疑問だが、味方になってくれるのならば歓迎だ。


「では、閣下。パーヴェル陛下や側近達について話しましょう。明日の会談に備えて、どう対応をするかを考えておいた方が良いでしょう」


 ビスマルクが交渉相手の情報を話し始める。

 元宰相らしく、ちゃんと相手の事を調べているようだ。

 自分が実際に会った相手の印象なども話してくれた。


(こういうところは、ちゃんとしているのになぁ……。やっぱ見た目で損してるよな)


 見た目や噂の先入観ではなく、相手と話してみる事が大切だと改めて思い知らされた。

 見た目と中身が違う相手が、すぐ目の前にいるのだから実感が湧く。


 パーヴェル達と話したビスマルクの話をよく聞き、皆に意見を求め、皆で対応を考える。

 それを繰り返す事である程度はパーヴェル達への対応も決まった。

 後は実際に会ってどこまで魔神陣営に引きずり込む事ができるのか。

 最後は結局のところ、全てゾルド次第だった。

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