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外道? 悪党? だからなに?  作者: nama
第七章

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「うぉっ、寒っ」


 まだ秋に入ってそう時は経っていない。

 だが、厚着をしているにも関わらず、身を切る冷たさの風にテオドールは体を震わせる。


「なんなんでしょう、あれは」


 ラウルが丘の向こうの光景を見て唖然とする。

 丘を境に向こう側は一面雪が積もっている。

 そのくせ、丘のこちら側はまったく雪が積もっていない。

 フェアリーランドかどうかの境目が、ちょうど彼らのいる丘だった。


「あの雪こそ、フェアリーランドが人類を阻んできた防壁だ。敵意のある者は容赦なく氷漬けにされるらしいよ」


 ホスエが軽く説明した。


 雪は歩みを遅くする。

 精霊を捕まえようとして、生息地まで行くには時間がかかる。

 到着するまでの間に、体温を奪われ凍死させられる。

 途中で帰ろうとする者も、さらに気温を下げられて凍死させられた。

 例え雪を溶かしても、ぬかるみが足を絡めとる。


 エルフくらいの魔力量があれば助かるのだろうが、エルフは精霊を捕まえる事を良しとしない。

 人間や獣人、ドワーフといった者達では、魔道具を揃えていても精霊の生息地までたどり着く事はできなかった。


「皆さん、スープが出来上がりました。これで体を温めてください」


 調理を行なっていたソシア兵が大声で叫ぶ。


「これはありがたい。貰いに行こう」


 ホスエ達はスープを受け取りに向かう。

 彼らはゾルドの出迎えに、フェアリーランドの国境付近まで出迎えに来ていた。

 出迎えにはテオドール達だけではなく、口が堅く信頼のできるソシア帝国親衛隊も同行していた。

 ゾルドだけではなく、魔族の援軍も大勢到着する。

 人化できる魔族なので、ソシア兵の装備を運搬するために人手が必要だったからだ。


 ソシア人といえば、酒で体を温める事が有名だ。

 しかし、魔神ゾルドを出迎えるという重大な任務中だ。

 堂々と飲むほど、分別のつかない者達ばかりではない。

 だが、寒さに強いソシア人といえども人間。

 雪の積もる、すぐ近くで何も無しでいられるほど強くはない。

 今回は、酒の代わりにスープで体を温めようと用意されていた。


「おやっさん、今日来てくれると良いんすけどね。何日もここで野宿はキツイっすわ」


 体に毛が生えている獣人といえども、厚着した服の隙間から入ってくる冷気には勝てそうにない。

 パリのスラムも寒さが身にしみたが、フェアリーランドの国境付近は命の危険を感じるくらい厳しい寒さだった。

 ついつい、テオドールも弱音を吐いてしまう。


「移動だけだし問題無いと思うよ」


 ホスエは楽観的な意見を言った。

 船旅は時間が掛かったが、飛竜での移動なら二日程度。

 問題が起きるとしても、揺れによる酔いくらいのものだろう。

 ホスエの意見は、そこまで楽観的な予想でも無かった。


「テオの兄貴。ここは寒いけど、キエフの東側で野宿するよりかずっとマシですよ」

「それもそうだな」


 ラウルの言葉に、テオドールが相槌を打つ。

 そして、二人とも身震いする。

 それが寒さによるものか、ヒュドラのような大物がのさばる地域で、眠る事すら死と隣り合わせだったことを思い出したせいかは、本人達にもわからなかった。



 ----------



「到着したよー」

「ん……、おう。わかった」


 ゾルドは精霊の声で目を覚ます。

 慣れぬ子守りに、気付かぬ内に精神的に参っていたのだろう。

 どうやら、レスが寝付いた時に一緒に寝てしまったようだ。

 目を覚ましたばかりのレジーナも、大きくあくびをしている。


「ちょっと待って」


 レジーナは手鏡を取り出し、自分の髪をチェックする。

 ここは自宅ではないのだ。

 出迎えの者達にみっともない姿を見せる事はできない。

 レジーナが低く見られるという事は、ゾルドも低く見られてしまう。

 身だしなみには気を付けなければならない。


「あっ、ここをちょっと濡らして。そうそう。それで今度は暖かい風をここに――」


 レジーナが精霊達を使って寝ぐせを直している。

 寝ぐせのあった部分を水の精霊に濡らしてもらい、ドライヤー代わりに火と風の精霊に温風を送ってもらう。

 ゾルドも、まさか精霊を寝ぐせ直しにこき使うとは予想外だ。

”複数の精霊を使う割りに、なんてしょぼい使用方法だ”と内心、呆れていた。。


「――オッケー、大丈夫よ。あなたも……、大丈夫ね」


 素早く寝ぐせを直したレジーナは、ゾルドの寝ぐせもチェックする。


「別に良いのに」

「良くないわよ。人前に出るんだから、身だしなみはちゃんとしないとダメ」


 レジーナはゾルドを注意するが、ゾルドは聞き流していた。


(無駄だと思うなぁ……)


 レジーナがレスを抱き上げ、外に出ても寒くないように手のひらサイズのサラマンダーをレスの体の上に置く。


「じゃあ、行くぞ」


 ゾルドがドアを開ける。

 それと同時に風が発生し、レジーナが整えた髪をグチャグチャにする。


「えぇ、嘘っ」


 ゾルドの背後でレジーナが手ぐしで慌てて髪を整える気配を感じる。


(やっぱ、こうなるよなぁ)


 精霊のお陰で暖かかったコンテナ内と、雪の積もっているほど寒い外とでは温度差が非常に大きい。

 ゾルドがドアを開けたので、空気が入れ替わり、風となってレジーナの長い髪をかき乱したのだった。


 コンテナの前には、ホスエ達とソシア兵がいた。 

 まずはゾルドから挨拶をする事にした。


「なんか久しぶりだな。そっちも無事に着いたようで何よりだ」


 しかし、返事は無かった。

 ポカンと口を開けて、何かに驚いているようだ。


「どうした? ホスエ」


 今度は名指しにして声を掛ける。

 さすがに、これにはホスエも反応した。


「なんだか。ゾルド兄さんから、こう……。上手く言えないんだけど、凄い魔法のような気配を感じる。それも、獣人の僕にもわかるくらいに強く」


 ゾルドがテオドールとラウルに視線を移すと、彼らも首を縦に振った。

 ホスエと同意見という事だろう。


「そうか。そういえば、精霊は魔力の無いには見えないんだったっけ。今ここに、様々な精霊が数百……人? 匹?」


 どう数えるのが正しいのかわからなかったゾルドは、近くにいた精霊に視線で聞いた。


「”人”でよろしく!」

「わかった。色んな精霊が数百人ここにいる。フェアリーランドから付いて来たんだ」


 ゾルドの言葉に、その場に居た者達からどよめきが起こる。 


”フェアリーランドを通過してくるだけだと思っていたら、精霊を連れて来ていた”


 予想外の結果に、一同は驚きを隠せなかった。


「ゾルド兄さん、一体何やらかしたんですか!」


 ホスエは”ゾルドが何かをやらかして、抗議のために精霊が付いてきた”と判断した。

 全て日頃の行いのせいだ。


「なんでそう受け取るかなぁ……。少なくとも、ここにいる奴等は味方だぞ」

「味方! たった一日で精霊を味方に!?」


 ゾルドの言葉で、再度驚く。

 これは予想の斜め上を行く結果だ。

 一日といっても、移動時間を考えれば途中で一泊しただけ。

 実質、一晩で味方に付けた事になる。


「と言っても、ほぼ全てレスのお陰だけどな」


 聞きなれない名前に、ホスエ達は首を傾げる。

 ゾルドは”そういえば説明がまだだった”と気付いた。


「俺の子だ。フェアリーランドで産まれたんだよ。よくわからないが、精霊に非常に好かれている。こいつらもレスに付いてきたようなもんだ。だから、精霊が完全に味方になったわけじゃない」

「なるほど、そういう事だったんだ。おめでとう、ゾルド兄さん。レジーナ姉さん」


 ホスエに続きテオドール達も祝いの言葉を述べる。

 そして、見知らぬ男も祝いの言葉を述べた。


「ゾルド様。ソシアを代表し、お祝いを申し上げます」


 騎士らしき男がゾルドの前にかしずき、深く首を垂れる。


「ありがとう。変装用の鎧は用意しておいてくれたか?」

「もちろんです。いつでも着替えられるように、あちらのテントに用意しております」

「レックス。あそこのテントに着替えがあるそうだ。全員ソシア兵になりすますように皆に伝えろ」


 ゾルドはここまで運んで来てくれたレックスに命令する。

 今回の遠征軍は人に化ける事のできる者達ばかり。

 わざわざソシア兵に化けるのも、サンクトペテルブルクへ誰にも怪しまれずに入るためだ。

 ガリアを追い返すまでは、魔族がソシアに手を貸したとバレるのはマズイ。

 神教騎士団の介入をできるだけ遅らせるため、魔族の存在を秘匿する必要があった。

 そのための変装だ。


 ソシア兵がレックス達にビビりながらテントへ案内する。

 ゾルドは彼らを見送ると、ホスエに話しかけた。


「ゲルハルトやビスマルクは打ち合わせでもやってるのか?」


”自分を迎えに来ていない”という理由で咎めようというわけではない。

 ソシアと”どの程度話が進んでいるのか”という純粋な疑問だった。


「ゲルハルトさんはソシア軍と現状の把握。ビスマルクさんは攻め込まれて、経済が混乱した時に備えた対応策を一緒に考えてるみたいだったよ。ただ、ラインハルトはソシアの情報を取り扱う人と反りが合わないみたいだった」


 基本的に、それぞれの力を得意な分野で発揮し、ソシア帝国の手助けをしているようだ。

 それに関しては、ゾルドも予想通りだったので、特に言う事も無い。


「あー。やっぱ”ガキ相手に仕事の話はできない”とか、そういう感じの奴はどこにでもいるよな」


 問題はラインハルトだ。

 情報の断片から”アダムス・ヒルターがゾルドだ”と見破った男だ。

 能力に関しては、ゾルドも心配はしていない。

 だが、若すぎる。

 その若さから相手に侮られてしまうのは、仕方ない事とはいえ残念に思っていた。


「詳しくはわからないけど、もしかしたらそうなのかもしれないね」

「わかった。パーヴェルに会った後、フォローできそうならしておこう」


 ゾルドは戦争において情報が重要だという事を理解していた。


”どの程度の兵士を連れて、どこから攻めて来るのか”


 それがわかるだけでも、戦争において優位に立てる。

 その事を、ゾルドはシミュレーションゲームで学んでいた。

 情報を取り扱う者の不仲で、肝心な情報が上がって来ないなんていう事態は避ける方が良いだろう。


「他にも聞いておいた方が良い事はあるか?」

「……あるよ」


 ホスエが珍しく言い辛そうにしている。

 ゾルドは何かやらかしたかと身構えた。


「ビスマルクさんがパーヴェル陛下に”お主の言っている事はいつもよくわからん! 普通に話せ!”って言っちゃって……。陛下が凄く落ち込んでいた、って事くらいかな」

「確かに相性は悪そうだけど……。言っちゃったかー」


 見た目は体育会系の武闘派であるビスマルクと中二病患者らしきパーヴェル。

 二人は水と油とも言える。


「あいつも宰相だったんだから、もうちょっとオブラートに包んで言えよ」


 パーヴェルにもフォローしなくてはならないのかと思うと、ゾルドもウンザリする。

 手紙を読んだ限りでは、ゾルドだって面倒臭くて相手をしたくない。


「まぁまぁ。それよりも、お父さんになってどうだったの?」


 ホスエの関心はレスに移っていた。

 自分だって、いつかはテレサとの間に子供を作りたい。

 マルコやミランダも可愛いが、赤ん坊の頃は知らない。

 ゾルドからどんな感じなのかを聞いてみたいという気持ちが抑えられなかった。


「どうだって聞かれてもな。よく泣いてうるさいなってくらいか。あんまり父親になったっていう実感が無いな」


 子供が産まれる事をゾルドが切望していたわけではない。

 自分の子供だと言われても”あぁ、そうなのか”くらいにしか思わなかった。

 父親としての自覚も、実感もゾルドには無かった。


「おかしいな。僕はマルコとミランダを見た時から父親になった気になったのに」

「それは早すぎだろ」

「自分でもそう思うよ」


 二人は笑い合った。

 そして、ゾルドがホスエと話している間、レスを見ようとテオドール達がレジーナに近づいていた。


「姐さんの近くあったけぇ」

「ちょうど良いくらいの暖かさで安らぎますね」


 レスにはサラマンダーが乗っかっているが、周囲にも多くのサラマンダーがいる。

 周囲にいるサラマンダーも、レスが凍えないように気温を操っていた。

 そのお陰で、レスを抱くレジーナ周辺は心地良い暖かさとなっている。


「精霊達が暖めてくれているの。これくらいの事なら魔力を使わずにできるみたいだから、ソシアの冬も楽に過ごせそうね」


 まるで暖房器具扱いだが、精霊達はドヤ顔をしているので満足なのだろう。

 やはり、見知った顔がいると会話が弾む。

 レックス達が着替え終わるまでの間、彼らの雑談は続いた。

 やがて、ゾルド達もアダムス・ヒルター一家に変装し、サンクトペテルブルクへと出発していった。

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