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外道? 悪党? だからなに?  作者: nama
第六章

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 昼食後、再度会議をした。

 大筋の流れは決まっているが、他にも良い提案があれば採用するためだ。

 メインにならずとも、メインを補足する作戦として検討する。

 話し合いをすればするほど、新しい議題も見つかる。

 初日の会議では全てを検討するのが困難なほど、多くの意見が出された。



 ----------



 夕食後、ゾルド達はゾルドに用意された客室に集まっていた。

 城の中にある王の部屋はジャックが使っている。

 だが、客室とはいえ、かなりの広さがある。

 十人程度が集まって話をする分には十分だった。


「さすがに疲れた……」


 ゾルドは精神的な疲れを感じていた。

 自分が意見を言わずとも、他人の意見を聞いておく必要がある。

 時折”ゾルド様はどう思われますか?”と話を振られるからだ。

”よくわからないから聞いてなかった”というわけにもいかないので、理解しようと脳をフル稼働させていた。

 専門的な難しい話を聞かされていたせいで、めまいを感じるくらいだった。


「そうよね。とても難しい話だったわ」


 意見を求められなかったレジーナはレジーナで疲れていた。

 皆が真剣に話している時に、つまらなさそうにしているわけにはいかない。

 よくわからない話を延々と聞かされ続けるという、精神的拷問に苦しんでいた。


「明日はお前の実家に行くつもりだ。良い気分転換になるだろう」


 ――実家に行く。


 その言葉でレジーナが少し慌てる。


「明日行かなくても、何日かしてからでも良いんじゃない?」


 なぜ慌てるのかわからなかったが、ゾルドとしては譲れなかった。

 また明日も会議に参加する事を考えれば、レジーナの親に”娘さんをください”と言いに行く方がマシだ。

 少しだけこの城を離れて気分転換をしたかったのだ。


「いや、明日行こう。会議は俺が居なくても進む。むしろ、居ない方が良いくらいだ」

「どうして居ない方が良いの?」

「俺が居ると気を使って話せない事だってあるはずだしな」


 ソシアの旅の最中、指導の厳しいホスエに関して愚痴を言い合い、テオドール達と仲が良くなった。

 今回は最上位者として自分が愚痴の対象となり、人間と魔族の仲を深める損な役回りをするつもりだ。

 だが、さすがに本人を前に愚痴は言えないだろう。

 ゾルドは気を使って、レジーナの実家に向かうという名目で席を外す予定だ。

 もちろん、先ほど言ったように気分転換をしたいという気持ちもある。


「それに、俺が居ない状態で上手く話し合いをできるかどうかの実験にもなる。……まぁ、ビスマルクが居れば大丈夫だろうけど」


 政治家だからか、それともビスマルクだからかはわからない。

 どうやったのか、彼はニーズヘッグやウィンストンとお互い酒を注ぎ合う仲になっていた。


 夕食時、ニーズヘッグに酒を注がれている姿を見たときは――


(あぁ、やっぱりそっち側だったんだな)


 ――と思うほど、魔族側の方が馴染んで見えた。


 ある意味、ゾルドよりも魔族側に馴染んでいると言える。

 ゾルドはニーズヘッグに酒を注がれた事などないのだから。


「閣下。いくらなんでも、いきなりブリタニアに駐在する事を決められるのは困ります。嫌ではありませんが、心の準備というものが必要です」


 身内だけになった事で、アウグストがゾルドに不満をぶつける。

 相談も無しに、いきなり魔族の中に置いて行かれる事が決まったのだ。

 さすがに一言くらいは文句を言っておきたい。


「あぁ、すまんすまん。だが、貴重な人間と魔族の協力第一弾だ。歴史に名が残るぞ」


”歴史に名が残る”


 その一言で、まだまだ愚痴をこぼしそうだったアウグスト達の口が閉じた。

 戦争に勝てば軍事関係の専門書ではなく、歴史書にすら名を残せる。

 戦争に負けても、人類の裏切者として歴史書に名を残す事になる。


 ゾルドの部下というだけでは、ゲルハルトやビスマルククラスの名前しか残らないだろう。

 だが、初めて魔族に派遣された参謀という肩書きならば、今のアウグスト達くらいの者でも記録に残るはずだ。

 世界史に名を残せるというのは、やはり魅力的だった。


「そういう事でしたら……。ですが、これからは前もって一言教えて頂きたい」

「わかった。これからはちゃんと相談する」


 報告、連絡、相談は基本的な事。

 それを怠ってしまった。

 さすがにゾルドも少しは反省している。

 その気まずさから、ゾルドは席を立った。


「ちょっとトイレに行ってくる」

「ハッ」


 いくらなんでもトイレにまでは誰も付いて来ない。

 少し一人になって気分転換をするにはちょうど良い。

 立ち上がり、部屋に備え付けられているトイレに行こうとした時に、ちょうど部屋のドアがノックされる。

 ドアの近くにいたゾルドが来客を出迎えようとした。


「閣下、我らが応対致します」

「いいよ、いいよ。近いから」

「そういうわけでは」


 近いからという問題ではない。

 ゾルドの連れて来た部下は、上司に来客の応対をさせるという風評が付いて回る事になる。

 来客時くらいは腰の重い上司でいて欲しい。

 周囲の者の願いは叶わず、ゾルドが自らドアを開ける。


「エリザベスよー」


 ゾルドはそっとドアを閉じた。

 オカメ面で背が低く寸胴な体型。

 本当にサキュバスなのか不安になるブサイクな女。

 そんなものが目の前に現れたのだ。

 見なかった事にしたい。

 しかし、ドアの向こうからは再度ノックの音が聞こえる。


「なんだ?」


 もう一度ドアを開き、ゾルドは訪ねて来た要件を聞く。

 ドアを閉じるという拒絶の意思を示したのに、帰る様子が無い。

 それならば、さっさと要件を聞いて帰らせるのが一番だ。


「ゾルド様冷たいですー」


 エリザベスは甘ったる声で抗議し、ゾルドの胸に指を当て”の”の字を書く。

 ゾルドはその指を払いのけた。

 美女化しているのならともかく、今のブサイクな状態で優しくする気にはなれない。


「要件はなんだ?」


 もう一度聞く。

 心の冷え切った声でだ。


「もう、怒ってるのはわかってますー。だから、お詫びに来たんですよー」


 そう言うと、エリザベスは両腕で胸を持ち上げる仕草をする。

”ウフーン、アハーン”などと言って誘っているが、欲情よりも憤怒の感情を堪えるのが大変だ。


「俺の女はレジーナだけだ。お前の体などいらん」


 もし、これが幻術を解いた本来の姿だったならば、別の答えが口から出ただろう。

 だが、今の姿はまったくゾルドの興味をそそるものではなく、女という性別にすら見る事ができないものだった。

 セクシーなポーズを次々に取るが、ポーズをとる度にゾルドの心は冷え込んでいく。


「お前に求める事は一つ。天神に勝つための協力だ。それ以外はどうでもいい」


 積極的な女を前にして、ゾルドの股間はピクリともしない。

 その様子を見て、エリザベスは諦めた。


「なるほど、確かに変わられたようですね」


 エリザベスの声が、落ち着いた声になる。

 先ほどまでが甘え上手な水商売の女の声とするなら、今は判決を下す裁判官のような厳正な雰囲気を纏った声だ。


「この私の誘惑にまったく反応されないとは。魅了の魔法も聞いていないようですし、そこはさすが魔神というべきでしょうね」


(あっ、そうか! 危ねぇー。精神異常耐性が無けりゃ、このブスにむしゃぶりついていたのか)


 魅了の魔法を使われてとはいえ、こんな女を抱きたくはない。

 自分のスキルチョイスに心の中でガッツポーズを取っていた。


「お前が自分にどれだけの自信を持っているのか知らないが、俺は自分の抱きたい女しか抱かない。お前とは違うんだよ」


 ゾルドはエリザベスを突き放す。

 彼女もゾルドを助けようとしなかった一人だ。

”ブサイクな姿のままで優しい言葉をかけてもらえると思うな”と考えていた。


「自信はあったんですけれどね……。現にお連れの皆さんは魅了の魔法を使わなくても効果はあるようですし」

「えっ」


 ゾルドが背後を振り向くと、男達はエリザベスを見て前屈みになっている。

 元気だが老人といって良いビスマルクまでもだ。

 まだ子供のラインハルトはエリザベスを見て良いのかどうか迷っているが、チラチラと見て興奮し、股間が動く初めての感覚に戸惑っている。


(あー、そういえば美醜の感覚が違うんだっけ)


 ゾルドから見て心の冷え込むようなブスなら、この世界では絶世の美女だ。

 何かフェロモンのようなものも放っているのかもしれない。

 そんな美女がセクシーポーズを取っていた事で、男連中の股間は破裂寸前になっていた。

 ゾルドは大きな溜息を吐くと、エリザベスに向き直る。


「この城にサキュバスは十人以上いるのか?」


 ゾルドが何を聞こうとしているのかを察したエリザベスは、ゾルドに笑みを浮かべる。


「もちろんです。すぐに呼び集めることもできます」

「そうか。それじゃあ、あいつらの部屋に呼んでおいてやってくれ。このままじゃ収まりがつかんだろ」


 ゾルドは気を使ってやった。

 今日の会合ではよくやってくれたと思う。

 ならば、少しくらいハメを外しても良い。


「ぼ、僕は結構です」


 ホスエが何とか声を絞り出す。

 彼はテレサとの約束がある。

 もう悲しませるような事はしないと決めた。

 強靭な意思で誘惑を跳ね返したのだ。


「わかった。用意だけはしておいてもらう。ベッドに連れ込むかどうかはお前次第だし、何があっても誰にも話さないさ」


 だが、ゾルドはそんなホスエの意思に配慮しているようでしていなかった。

 男ならば、興奮しているところに魅力的な女がいて我慢できるものではない。


「これじゃ話をするどころじゃないだろ。今日は解散、また明日な」


 ゾルドが手を叩き、解散を促す。

 ゲルハルト達軍人組が敬礼をして退出していくが、敬礼をする時に少し腰を引いているので、ゾルドは笑いを堪えるのに必死だった。


「ワシは二、三人用意しておいて欲しいのだが」

「えぇ、ご用意させていただきます」


 とんでもない事を要求するビスマルクだが、エリザベスは何事もないように返事をする。

 ビスマルクには”老いて益々盛ん”という言葉が似合う。


「僕はテレサを裏切らないからね」

「あぁ、わかってるって」


 ホスエはあくまでもテレサを裏切らないという意思を見せる。

 しかし、その決意をどこまで貫き通せるのだろうか。

 部屋を出ていくホスエの背中を、ゾルドは面白そうに見送った。


「ぼ、僕はまだ……」


 最後に残ったラインハルトが”自分はまだ子供だからお断りします”と言いたそうだった。

 だが、ゾルドにだって性に目覚めた微妙なお年頃の時期を覚えている。

 興味が無い振りをするが、興味津々だった思春期の頃を。


「そうか、残念だな」

「はい……」


 ラインハルトはゾルドが”残念だ”と言った事が残念そうだった。

”一言後押しがあれば、お願いしますと言えるのに”と思っていたからだ。

 その事に気付いているゾルドは助け舟を出してやる。


「人間と魔族との友好関係を築くきっかけの一つになるかと思ったのにな」

「えっ、あの、そのっ。そういう事でしたら、その……」


 助け船があっても、やはりまだお願いしますと言い辛い。

 興味があっても、やはり恥じらいを捨てられない。

 ラインハルトには、レジーナの前で堂々と女を抱くという話をするゾルドがとても大きく見えた。


 恥じらうラインハルトに、エリザベスが近寄って手を取った。

 そして、耳元で優しく甘い声でささやく。


「ねぇ、一人で寝るのって寂しいのよ。一緒に寝てくれない?」

「はい、よろしくお願いします!」


 ここまで御膳立てされたら返事は一つ。

 ラインハルトは威勢良く返事をした。


「そいつはまだまだ若い。サキュバスしか受け入れられない体にはするなよ」

「もちろんです。青い果実は熟すまで無理はしません」


 ラインハルトはエリザベスに手を引かれて部屋を出て行った。

 魔神四天王自ら相手をしてくれるのだ。

 最高の思い出になるだろう。

 ゾルドは皆を見送ると、レジーナの隣に座った。


「まったく、なんで俺だけ下半身にだらしないとかいう風潮になってんだよ。男はみんな一緒じゃねぇか」


 思わず愚痴をこぼす。

 良い女がいれば、我慢できなくなるのは誰でも同じ。

 自分だけが責められるのは納得がいかなかった。


「あなたは過去最高のサキュバスとも言われる、エリザベス様の誘惑を断ったのよ。一緒なんかじゃないわ。断ってくれて嬉しかった」


 レジーナがゾルドの頬にキスをする。

 この世界の人間からすれば、絶世の美女であるエリザベスの誘惑を断ったのだ。

 ゾルドが人間の好みとは違い、魔族寄りの美的感覚を持っている事は知っている。

 それでも、エリザベスの誘いを断ってくれてレジーナは喜んでいた。


「お前の親に挨拶行く前の晩に、他の女を抱いたりなんかしねぇよ。俺をなんだと思っているんだ」

「女にだらしない人」

「酷いじゃないか」


 レジーナの即答に、ゾルドは抗議の声を上げる。


「でも……、私には最高の人」


 ゾルドの腕にレジーナが抱き着く。

 それはそれで、気恥ずかしいので何かを言い返し辛い。

 しばしの沈黙が続く。

 お互いの体温を感じるだけの時間。

 その沈黙を破ったのは、レジーナだった。


「そういえば、ラインハルトはまだ子供だからエリザベス様に任せるのはまだ早いんじゃない?」


 レジーナは常識的な事を言う。

 魔族であっても、淫魔以外は若すぎる性交渉は推奨されない。

 ラインハルトの事を心配していた。

 だが、ゾルドも”思春期に思いを遂げさせてやる”というだけでエリザベスに任せたわけではない。


「初体験がマシスンに襲われてとかだと……。そう考えたら、さすがにちょっとな」

「……それもそうね」


 ゾルドはラインハルトを助けてやったのだ。

 ゾルドですら身の危険を感じるマシスンの視線。

 ラインハルトの尻も、その視線に狙われている。

 初めてが男に襲われて、というのでは可哀想過ぎる。

 それならば、多少早くとも女を経験させておいてやるという温情もやむなしと考えていた。


「さすがにインキュバスでも、マシスンみたいな性癖持ちは極一部の例外だよな」

「…………」

「否定してくれよ!」


 淫魔なので性的に倒錯していてもおかしくないとはいえ、貞操の危険を感じるような相手が多くては気が休まらない。

 今のゾルドにとって、まだ見た事すらない天神よりも、マシスン達の方が身近で恐ろしい存在だった。

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