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外道? 悪党? だからなに?  作者: nama
第六章

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 昼食会は友好的な雰囲気で始まった。

 上座の中央に座っているのはゾルド。

 その左右にレジーナとジャックが座っている。

 ゾルドが中央という事から、ニーズヘッグや魔神四天王の面々がゾルドを魔神として受け入れたという事が見て取れる。


 ゾルドの隣に座れなかったホスエだったが、それも致し方無しと受け入れていた。

 レジーナはゾルドの妻、そしてジャックはゾルドの息子。

 家族で座っているところに割って入るほど、ホスエは空気の読めない男ではない。

 何よりも、家族で食事をする事の良さを彼は知っている。

 血の繋がらないマルコやミランダと一緒に食事をするだけでも心が温まる事も知っている。

 実の子のジャックとの団欒を邪魔するつもりはない。


「美味しい!」


 ジャックが喜んで食べているのはヒュドラの肉だ。

 ゾルドが”ジャックのために持って来たんだ”と言っただけでも、その喜びようは一目瞭然だった。

 その言葉に偽りはない。


”ブリタニアのメシは不味いから、美味いもの食わせりゃガキは喜ぶだろう” 


 というジャックを舐めきった考えだったからだ。

 だが、この浅はかな考えが功を奏した。

 ソシアへの移住の話をしたところに、ちょうどヒュドラやワイバーンの肉を食べさせる事ができる。

 実物を食べさせる事で、ソシアへの移住を考えさせることができるし、あらかじめ肉を用意していた準備周到さをアピールする事ができた。


 偶然の産物とはいえ、ゾルドはこの状況を上手く利用していた。

 肉の味を確認してもらうために、塩コショウだけで調理した物と、屋敷の料理人に作らせたソースをかけた物を用意していた。

 ジャックはソースをかけられた方を美味しそうに食べている。

 それだけでも、ひとまずは成功と言えるだろう。


「久し振りに食べるが、こんな味だったかな。千年前より美味く思える。千年間で肉質が変わったのかな」


 ニーズヘッグも食が進んでいるようだ。

 その姿を見て、ゾルドは疑問を投げかけた。


「なぁ、一応は竜とかに分類されるんじゃないのか? 食わせておいてなんだが、共喰いとかそういうのを気にしないのか?」


 ゾルドに話しかけられても、ニーズヘッグの手は止まらない。


「奴等は知能を持たない獣に過ぎん。知能の無い者はただの食料だ。竜種というよりも、ただの大きな蛇や空飛ぶトカゲでしかない。奴等を食う事に抵抗はない」


 魔族と魔物。

 その差は大きいようで、魔物を食べる事に抵抗は無いようだ。


「私はワイバーンの固い肉の方が好みだな」


 ウィンストンが肉の感想を言う。

 阿修羅像のように三つの顔があるので、それぞれの顔に順番でナイフで切り分けた肉を運んでいる。

 ケルベロスらしいので、犬形態で生肉を食べさせてやった方が良かったのかもしれない。


 他の四天王のマシスンとエリザベスは大人しく食べており、唯一ヴァンパイアのカーミラだけが、生き血混じりのワインをつまらなさそうに飲んでいた。

 昼食が魔物の肉の試食会となっているので、手持ち無沙汰のようだ。


「ジャック、ソースが付いてるぞ」

「えっ? あっ……」


 魔族の王として教育を受けていても、まだまだ日が浅い。

 口の横にソースを付けていたので、ゾルドは優しくナプキンで拭いてやる。

 ジャックはみっともない姿を見せてしまったという恥ずかしさと、ゾルドに口を拭いてもらった事で興奮し、顔を真っ赤にしている。


 もちろん、これは演技だ。

 実権はニーズヘッグが握っているようだが、ジャックの事を軽んじる事はできない。

 ゾルドと違って魔法を使えるし、何よりもやる気がある。

 落ち度のない者を王の座から引き下ろすほど、ニーズヘッグも考え無しでは無かった。


 ゾルドはそこを狙った。

 失言でもして、ゾルドがまた失望されるような事があっても、ジャックの強い意向があれば嫌々ながらも手助けをしてくれるかもしれない。

 十二歳程度の子供に頼るのは情けないと思っている。

 だが、ゾルドは自分のプライドを切り売りする場面を心得ている。

 日本に戻るためには、異世界で愛着のない自分の子供を利用するくらいどうという事もない。


「ゾルド様……」


 カーミラが渋い表情でゾルドに話しかけた。


「なんだ?」


 ゾルドは普段通りの態度で返事をした。

 しかし、ジャックに優しい顔をしていただけに、その態度の差から冷たい態度にすら思える。


 ゾルドの方も、天神を倒すまでは仲良くしておかねばならないと理解している。

 とはいえ、やはりニーズヘッグに追い出されそうになった時、助けてくれず突き放された事を忘れていない。

 その記憶が態度に出ていたのかもしれない。


「アルカードにも……。私が産んだゾルド様の子にも会って頂けますか?」


 彼女は自分が『気安く触るな。腑抜けの負け犬風情がっ!』と言った事を忘れてはいない。

 そう言わせてしまうほど、ゾルドの後宮での振る舞いは酷いものだった。

 そんなゾルドがどん底から這い上がり、自分達を見返す気概があるとは思いもしなかった。

 罵倒して見放した男と再会し、子供に会って欲しいというのは、なんとも言えない気まずさがある。


「……あぁ、時間ができた時にな」


 積極的に面会の時間は作らないが、偶然暇ができたら考えておく。

 カーミラは魔神四天王なので、考えもせずに却下するような酷い扱いはしない。

 だが、まだ二歳にもならず、利用価値が見いだせない幼児と会おうとは思えなかった。


「はい、よろしくお願いします!」


 カーミラも言ってみただけで、ゾルドに受けて貰えるとは思っていなかったのだ。

 少なくとも”カーミラが産んだ子だから”と母子まとめて恨んでいないとわかり、ホッと胸を撫で下ろす。

 自分が恨まれる事に関しては覚悟ができているが、子供はゾルドに何もしていない。

 自分の知らないところで起きた事で不利益を被る理由など無いのだ。

 そこまで考えた時、カーミラの頭に一つの答えが浮かんだ。


「あっ……、そうだったんですね」


 何かに気付いたカーミラに視線が集まる。

 皆に注目された事で、説明をしなくてはいけないような気持ちになった。


「酷い事を言った私が憎まれる事は覚悟できています。ですが、アルカードまで憎むのはやめて欲しいと思いました。……ゾルド様が言われた”今の人間は魔族を島に閉じ込めた者達ではない”というお言葉に通じると思います」


 カーミラも千年前から生きているヴァンパイアだ。

 人間達に恨みを持っている。

 ゾルドに”今の人間は当時の決定に関係していない”と言われても、心の中では納得していなかった。

 だが、自分の子供の事があって、その考えは変わる。


 アルカードはゾルドに酷い事を言っていない。

 それどころか、当時は生まれてすらいなかった。


”罪のない子供にまで恨まないで欲しい。できれば、父親のゾルドと良い関係を築いて欲しい”


 親の罪を子供にまで背負わせるのは間違いだ。

 そう思った時、ヒューマンやビーストマンを根絶やしにしたいと思っていた自分が間違っていた事に気付いた。

 みくびっていたゾルドが、そこまで深い事を考えていたとは思わなかった。

 今では、カーミラの中でゾルドの評価がうなぎ登りだ。


 不死の怪物だったカーミラは、子供が産まれた事によって変わった。

 子供が産まれる事の無いヴァンパイアが、魔神との交配により子供ができた。

 その時に今まで感じた事の無い感情が生まれる。


 ――母性だ。


 母親になった時、彼女の中で大きな変化があった。

 魔族らしく強者を尊ぶ価値観だったが、非常に脆弱な子供を愛おしく思えるようになる。

 弱者にも価値があると思えるようになったのだ。

 感情の変化があったからこそ、ゾルドの言った事の意味に気付く事ができた。


「あぁ、そうだ。恨みの応酬は終わる事が無い。恨みを忘れろと言われた方は納得いかないだろうが、どこかで断ち切る必要もある。俺もお前に言われた事を忘れよう」

「ありがとうございます」


 ゾルドの言葉にカーミラは頭を下げる。


「そういえば、魔族は強さを全ての基準にするらしいな。ヒューマンのゲルハルトとの会話は無価値だったか?」


 カーミラと話をしたので、そのついでにゲルハルトとの話をどうだったか聞く。

 もし、意味が無かったというようであれば連携は難しい。

 この機会に聞いておこうと考えた。


「いえ。どのような種族がいるのかわかっていない事を考えても、その作戦には関心させられるところがありました」


 カーミラの言葉に、ゾルドは満足そうにうなずく。


「ニーズヘッグとウィンストン。ビスマルクと話してお前達はどう思った?」

「人間にしては話の通じる者だと思いました」

「期待していなかった分、驚きました」


 ゾルドは一瞬”人間離れしたビスマルクだからか?”という考えが浮かんだが、それは忘れることにした。


「お前達には腕力や魔力を基準に考える事をやめてもらいたい。力というのなら”知力”も力だ。ヒューマンは種族として弱い分、それを補うために創意工夫をする。事実、千年前の戦いで魔族は負けた。侮ったりせず、協力していって欲しい」

「かしこまりました」


 協力関係を築くにはお互いの価値を認めさせるのが一番だ。

 お互いの得意分野を生かし、苦手分野を補う関係になれれば良い。


「魔族の軍は作戦を考えられる者よりも、単純に強い者が指揮官になるとレジーナから聞いた事がある。何人か参謀を置いていくから、演習かなんかでその力を試してみてくれ」

「えぇっ」


 声を上げたのはアウグストやマックスといった軍人組だ。

 自分達の影が薄いと思ったら、こんな重要なところで話題に持ち出されてしまった。

 突然の事なので驚いてしまう。


「なんだ、自信がないのか?」

「いえ、自信はあります。……期間はどの程度になりますか?」


 どうやら彼らが気になっているのは、魔族の中に置いて行かれるという事のようだ。

 悪い扱いはされないだろうが、やはり魔族の中で過ごすというのは恐怖心があるのだろう。


「さぁな。交代要員も送るが、年単位は覚悟しておいてくれ」

「了解です」


 魔族が話の通じる相手だとわかった今でも、やはりその中に置いて行かれるというのは気が進まない。

 だが、自分の力を見せる良い機会でもあるので断りはしない。

 それに補佐だけではなく”魔族の一部隊を率いて戦う可能性”だってあるのだ。

 軍人として、そんな楽しそうな事を断れるはずがない。


「ところで、情報収集に長けている種族はいるのか? 何人かラインハルトの部下に連れて帰りたいんだ」

「それならば、マシスンとエリザベス達淫魔族が適任でしょう。人間相手から生気を得られますし、魅了の効果で情報を集めやすいはずです」


 比較的人間に近い容姿。

 人間を魔法で魅了できる。

 そして、生気を補充しやすくなる。

 良い事尽くめだ。


「それじゃあ、人間社会で暮らしていけそうな穏健な性格の奴を用意しておいてくれ」

「私が行かせて頂きます!」


 マシスンがビクビクと震えながら言った。

 彼は恐れているのではない。

 絶頂しているのだ。


「いや、四天王ほどの者を小間使いに使うわけにはいかない。お前はここで戦争の用意をしておいてくれ」

「そうですか……。残念です」


 ゾルドはマシスンの能力を疑っているわけではない。

 ウィンストンと二人でゾルドをガッチリ掴んで逃がさないように捕らえるだけの腕力もある。

 だが、その性癖は信用していない。


 以前からマシスンはゾルドの近くに来ると股間を勃たせて、時折ズボンの股間部分を湿らせていた。

 こちらに来てから、まだ若いラインハルトの尻を凝視して、ビクビクと絶頂で体を震わせている姿を確認している。

 そこまで自分の欲望に忠実に生きるような男に重要な仕事を任せたくないし、自分の貞操のためにも身近には置いておきたくない人材筆頭だった。


「あぁ、身近にいる子供に手を出したりする奴はダメだぞ。最低限の自制心のある奴を頼む」


 屋敷にはマルコやミランダもいる。

 さすがに二人に手出しをされるとホスエがブチ切れるだろう。

 インキュバスやサキュバスという淫魔であっても、身内に手出しをしない程度の節度を持っていて欲しい。


「そうだよね、パパ。子供を叩いたりするのって悪い事だよね」

「……あぁ、そうだな」


 ジャックが幼い頃の事を思い出して暗い顔をする。

 母親の思い出が自分をなじるか叩く姿しかなかったからだ。

 だが、今はそんな話をしていない。

”子供に(性的に)手を出すな”という事を話していたのだ。


 とはいえ、耳年増なラインハルトとは違い、そっち方面の知識の無さそうなジャック相手に訂正するのは気が引ける。

 エリザベスあたりが教えても良さそうだが、そういった動きを見せない。

 さすがのゾルドも、無邪気な子供に性的な事を教えようとは思わない。


 昼食会は始まった時とは違い、なんとも言えない気まずい雰囲気のまま終わりを迎えた。

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