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外道? 悪党? だからなに?  作者: nama
第六章

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「次にこちらであった事の報告を致します」


 ホスエから旅の成果を聞き終わった。

 次はゾルド達が居なかった間の事を報告する番だ。


「まずは閣下が重要視されているソシアの事を。ビスマルク殿、お願い致します」

「うむ、まずは預かっていたこれをどうぞ」


 ビスマルクが装飾の施された封筒を取り出し、ゾルドに手渡した。


「閣下にお会いしたいという内容しか書いとらんはず。中は読まずとも結構。どうせくだらん事しか書いとらん!」


 ゾルドが封筒の裏を見ると、ソシア皇帝パーヴェルからの手紙だった。


「いやいや、一応一国の皇帝だぞ。読まずに済ませるなんてできないだろう。ちょっと待ってくれ」


 まずは中身を読んでみる。

”どうせくだらない内容だ”と読まずにいて、重要な事が書かれているのを見落とすわけにはいかない。

 それに皇帝からの手紙だ。

 人生で始めて皇帝から手紙を送られたゾルドも、ちょっとくらいは純粋な興味がある。

 ペーパーナイフを持っていた者から受け取り、封蝋を開けて中の手紙を読み始める


(とき)というのは残酷な定めだ。流れを早める事もできず、神との邂逅を阻む障壁と化す。闇に堕ちし我が魂の渇望を――』


 ゾルドはそっと手紙をテーブルに伏せた。


「お前の言う通りだ。くだらない手紙なんて後で良い。他人の意見を聞くのも重要だ。ソシアの話を聞かせてくれ」

「うむ、任せて頂こう」


 解読が難解な文章を読むよりは、ビスマルクの話を聞いた方が良いと判断した。

 彼は暑苦しい事以外、普通の人間だ。

 この手紙を読むよりは、内容には期待できる。


「ではまず、ソシア上層部に関してお話ししましょう」


 ビスマルクはソシア政府に関して話した。

 それはゾルドにとって、よく知っている政体だった。


「なるほど。ソシアには皇帝がいて、評議会が実務を仕切っていると」


 日本と同じ立憲君主制が思い浮かんだ。

 同時に、疑問も浮かぶ。


「けど、それじゃあ頼りにならないんじゃないか? パーヴェルが俺に協力すると言っても、議会が反対すれば味方にならないだろ?」


 日本だけではない。

 ゾルドの知っている限りでは、イギリスでも国家運営は議会が全権を委ねられている。

 権限の無いパーヴェルが”魔神ゾルドに味方する”と言って、誰が命令を聞くというのか。

 まだ政治体制を聞いただけなのに、ソシアへの期待が絶望に変わる。


「それは違います。議会や憲法があっても皇帝の権限は制限されておらぬ。我らがプローインも同様だった。皇帝は絶対権力者として、皇帝が決めた事は実行される。それに、万が一を考えて議会の主流派もすでに説得済み。魔神陣営として参戦する事は既定路線として進められておる」


 ビスマルクの説明でゾルドは安心する。

 権限を持たない中二病患者の、自分勝手な行動に振り回されたわけではないとわかったからだ。


「さすがだな。報告では聞いていたが、本当に周囲の者も説得していたとは」

「造作もない事だ。議会なんぞ、キーマンとなる者を数名説得するだけで思うように動かせる」


 フリード同様の筋肉お化けな見た目でうっかり忘れてしまいがちだが、ビスマルクは一国の宰相だ。

 政治に関しては、この上なく頼りになる。


(良い装備を持たせたら、ホスエくらい頼りになりそうだ)


 いつも思うが、文官というよりも武官にしか見えない。

 だが、筋肉があるからといって戦いが強いとは限らないとも知っている。

 圧倒的な筋力を持つはずの自分が、テオドールどころかラウルにも剣術では勝てなかった。

 単純な力と戦闘能力は比例しない。

 その事がわかっていても、強そうな見た目の威圧感は頼りになりそうだった。


「よくやってくれた。肝心のパーヴェルはどうなんだ? 頼れそうか?」


 ビスマルクはゾルドの問いに表情を変えない。

 馬鹿にするでもなく、ただの無表情だった。


「幼稚。その一言に尽きる」


 ビスマルクの心にあるのは諦め。

 国益を考えての行動であれば、悪手であっても一定の評価はする。

 だが、パーヴェルがゾルドに力を貸そうとしたのは”魔神に力を貸す方が恰好良いから”というもの。


”悪い意味で、子供心を忘れずに大人になってしまった可哀想な男”


 それがビスマルクの評価だ。


「……大丈夫なのか? ”やっぱり気が変わった”とか言わないだろうな」


 ゾルドが心配したのは裏切り。

 やる気にさせておいて”やっぱやーめた”と、はしごを外されるような真似はされたくない。

 幼稚な人物なら、感情による行動を警戒しなくてはならないはずだ。

 その辺りの事を、どの程度フォローしているのかが気になった。


「無論、誓約書を書かせた。それでもなんらかの理由で、こちらが裏切りと判断するような事態になった場合は、皇太子のアレクサンドルを皇帝に担ぎ上げる事になっている。その点は、評議会議員にも既に根回しをして終わっておる。ソシア皇帝といえども、一度ソシアを天魔戦争に参加させると決めた以上、既に一人の感情で物事を覆す事は不可能だ」


 はしごを外されたのはパーヴェルの方だった。

 ビスマルクによって、ソシアが魔神陣営に付く事は既定路線となっている。

 動き出した馬車から途中で飛び降りたら、地面に叩きつけられて命を失ってしまう。

 ビスマルクは見た目通りに頼もしい男だ。


「なるほど、それなら安心だ」


 ゾルドの言葉で、自分の実力の一端を見せつける事ができたビスマルクが、ガハハと豪快に笑う。

 その姿を見て、ゾルドの脳裏に一つの考えが浮かんだ。


(待てよ。この見た目が相手を油断させるためだとしたら……。フリードもあの筋肉量で魔法使いだと言っていた。脳筋だと油断させておいて、物事を自分の望む方向へ持っていく。そのための筋肉だとしたら……)


 ゾルドは唾を飲み込む。

 自分も騙されていた事に気付いたからだ。

”本当にこのジジイ大丈夫か?”と心配していたが、予想以上の成果を挙げている。

 気が付けば、皇帝や評議会を味方にするだけではなく、裏切られた時の対策まで済ませていた。

 相手も脳筋だと思って、警戒が甘かったのかもしれない。


(熱血宰相の肩書きは伊達ではないか。教科書に載るわけだ)


 ゾルドは肩書きを勘違いしたまま、一人納得していた。

 ただ、ビスマルクが有能な事だけは合っている。


「一度会ってみるのも良い。今頃はワルシャワを通り過ぎているはずだ。サンクトペテルブルクまで行かずとも、会えるだろう」

「ワルシャワを? どういう事だ?」


 ゾルドに会いたいというのならば、わざわざ陸路を使わなくてもいい。

 船でロッテルダムにお忍びで来れば良いだけの事。

 その事を疑問に思った。


「奴はこう言った。『ゾルド様が目を掛けていた者を蹴落とし、ガリア皇帝を僭称するシャルルを許せん』とな。ちょうどオストブルクから参戦要請が来ていたらしく、これ幸いにと軍を率いてガリアと戦うために向かっている途中だ」


 ビスマルクの言葉に、ゾルドは頭を抱えた。

 そして、テーブルに伏せてある手紙を見つめる。


「もしかして、戦争をやってみたいだけなんじゃ……」

「その可能性は高いな」

「ただの馬鹿じゃねぇか」


 ゾルドの考えていた予定が狂ってしまった。

 本来なら西のガリア、北のブリタニアと合わせて、東のソシアを含めて三方向からローマに侵攻する予定だった。

 しかし、西のガリアはナポレオンが失脚。

 東のソシアは勝手に行動し、北のブリタニアは本当に動いてくれるかわからない。


(まったく嫌になる……。いや、まだマシな方か)


 ゾルドの視線はビスマルクやホスエに向けられる。

 少なくとも、身近にいる者は頼りにできる男達。

 まったくいないという状況よりはマシだ。

 既存の組織が頼りにならずとも、時間を掛けて自分達で組織を作り上げる事ができるだろう。


「まぁ、ソシアが戦争に勝つことを期待しよう。他の国はどうだ? どこか味方になりそうなところはありそうか?」


 ソシアの事は諦めた。

 なるようになるとしか思えない。

 他の国に期待しようと思ったが、その事に関してビスマルクは渋い表情をする。


「残念ながら、半年ではソシアの裏工作だけで手一杯だった。他の国にまでは手が回らん。プローイン程とは言わんが、外交官の数がな……。申し訳ない」


 ビスマルクが謝るが、ゾルドは責めるつもりはない。


「ハァ、まったく。ここでも人手不足か。作戦を立てるのには十分なんだろうが、交渉となるとまた別の人材が必要だな。昔の部下を引き抜くのは無理なのか?」

「文官は”自分達が居なくなって困るのは国民だ”と理解している。ほぼ全てがオストブルクやガリアの傘下に加わった。今暇にしているのは、声をかけられない程度の者しかおらん」

「なるほど」


”じゃあ、お前はどうなんだよ”とゾルドは思ったが、扱いにくい難そうなので当然かと思う。

 ゲルハルトが連れて来なければ、ネームバリューがあったとしても、ゾルドも声を掛けなかったはずだ。

 人材が集まったと思えば、まだ不足している事に気付く。

 組織作りの大変さをゾルドは身に染みて感じていた。


「……それじゃあ、魔族とも接触する余裕は無かったのか?」

「ブリタニアには、私が接触しました」


 答えたのはラインハルトだ。


「お前がか?」

「はい。一度、魔族の国を見てみたかったので」


 怖いもの見たさか、それとも情報を得るために自分で行きたかったからか。

 そのどちらかだろう。

 知りたいからといって、人類の敵である魔族の懐に飛び込むのは良い度胸をしている。


「魔族は凄いですね。何人か部下にいれば情報収集が捗りそうです。問題があるとすれば、やはり魔族は怖いという事ですね」


 ラインハルトの顔が少し青ざめている。

 ゾルドの部下だからといって――いや、ゾルドの部下だからこそ厳しい対応をされたのかもしれない。 

 ゾルドはブリタニアで周囲にあまり良い印象を残していない。

 だから、そのしわ寄せがラインハルトに行ったのだと思った。


「なら、魔族との交渉役が必要だな」


 ゾルドはレジーナを見るが、今はどうしても腹部に目が行ってしまう。

 妊娠中は無理に動かせないだろうし、出産後は子供の世話をしたがるだろう。

 別の誰かを選ばなければいけない。

 ゾルドが軍人組を見渡す。

 肝が据わっているのは、軍人だろうと思ったからだ。


 しかし、誰もが視線を逸らした。

 軍人だからこそ、魔族の恐ろしさを熟知している。

 怯えながら、まともな交渉ができるとは思えなかった。


「発言よろしいでしょうか?」

「かまわん」


 軍人組の一人が手を上げる。

 発言したいという事なので、交渉役の立候補ではないようだ。


「こちらから交渉役を出さなくてもいけないというわけではないと思います。ブリタニア側から人間社会に溶け込めそうな者を送ってもらうのはどうでしょうか?」

「……なるほど、良い考えだと思う」


 言われて思い出した。

 レジーナも人類社会に溶け込み、ゾルドを探すという任務を任されていた。

 他にも同じような者がいるはずだ。

 そういう者を、使者のような一時的なものではなく、駐在大使のようなものとして送ってもらえばいい。


「お前はどう思う?」


 ゾルドはゲルハルトに意見を求めた。


「私も賛成です。会議にも参加させれば、魔族側の意見も反映できます。ただ、できれば怖くない人を送って頂きたいですね」


 言葉の最後に本音が見えるが、ゾルドも茶化したりしなかった。

 ゾルドだって、いくら優れていようが見た目のインパクトが強い者を送られたくはない。

 できれば、美少女。

 妥協して美女を送ってもらいたいくらいだ。


「では、ブリタニアには誰か人を送ってもらおう。ラインハルト、お前からの報告は何かあるか?」


 ちょうどソシアに関しては話が終わった。

 ラインハルトが発言したので、そのまま報告を聞こうとする。


「今はまだ情報網の拡大の最中です。ジョゼフさんを参考にして組織作りをしていますが、まだ元プローイン領とポール・ランドくらいまでしか広がってません」


 半年という期間を考えれば十分だろうが、肝心のローマ方面が手薄なのが残念だ。


「それも人手不足が原因か」

「はい」


 ラインハルトがうなずき、ゾルドは溜息を吐いた。

 今の組織は頭脳は良いが、肝心の手足が足りない。

 寄せ集めの辛いところだ。


 しかも、人がいれば良いというものでもない。

 仕事に合わせて最低限の働きをできる者が必要だ。

 魔神陣営の仕事なので、求人広告を出すわけにもいかない。

 そうなると、探すのにも人手が居る。


(卵が先か、鶏が先か……)


 頭が痛くなる問題だ。

 そこでゾルドは閃いた。


「そうだ! どこかの国から、諜報員を引き抜こう!」


 これなら即戦力の人材を味方にでき、相手の諜報網に穴が開く。

 一石二鳥の考えだ。


「でもそれって、諜報員の素性が知れてるので、引き抜かなかった諜報員に始末されますよね」


 ゾルドの考えはラインハルトに即座に否定された。

 どこだって人材は必要だ。

 よそに持っていかれるくらいなら殺すだろう。


「なんだよ、良い考えだと思ったのに」

「現職の者を引き抜いても、僕らの組織のやり方に慣れさせるのには時間がかかります。焦らずに新人を育てて行きましょう」

「そうだな……」


 ラインハルトの言う事は理解できるが、十二歳の子供に諭されるのもどこか納得がいかない。

 複雑な感情を紛らわせるために、ゾルドは気分転換を求めた。


「他に何か重要な報告とかはあるか? 時間が掛かるとか、人手不足だっていうの以外で」


 しかし、返って来たのは沈黙。

 報告はしたいが”事態がそこまで進んでいないので時間が掛かる”や”人手が必要なので補充して欲しい”という内容だった。

 それ以外でと言われては、報告する方も困ってしまう。


「閣下、今はまだ組織が発展途上です。組織が安定するまでは、人員の補充や人材育成を中心にしていきたいと思います」


 ゾルドに聞かせておいた方が良い報告が無いのなら、このまま会議は終わりに向かう。

”ならば、まとめに入ろう”と思ったゲルハルトの言う事はもっともだ。

 ゾルドとしても否定するつもりはない。


「金はある。必要なだけ使え」

「はい、使っています。ですが、軍人時代とは比べ物にならないほどの額が自分の裁量で使えるので、本当に使って良いのか戸惑うくらいです」


 ゲルハルトは苦笑する。

 プローイン軍の年度予算よりも多くの額を任されている。

 しかも、兵士の給与などを考えなくて良いので、予算のほとんどを自由に使って良いのだ。

 額が大きすぎて、本当に使って良いのかゲルハルトは不安になってしまっていた。


「金は使うためにある。有利な状況を作るためにドンドン使え。出し惜しむなよ」

「かしこまりました」


 ゾルドは会議の参加者を見回す。


「今はまだ本格的に動き出せない。だが、動き出せるようになれば休む暇も無くなる。その分の報酬は与える。給料もそうだが、俺が天神に勝った時にも働きに応じて褒美を与える事を約束する。常に何かを考えろ。それがお前達に求める事だ」

「ハッ」


 ゾルドは今のところ目立つ仕事の無い参謀組が腐らないようにフォローを入れる。

 彼等が役に立つのは、もう少し先だ。

 頭脳があっても、実際に動く手足が無ければ先に進めない。

 手足があっても、考える頭脳が無ければ意味が無い。

 今は頭脳が揃っているだけでも未来に希望を持てる。


「俺は組織の作り方がよくわからん。ゲルハルト、組織作りに関しては全て任せる。ビスマルク達ともよく話して物事を進めてくれ」

「了解です」


 ゲルハルトは個人的な感情では、ゾルドに思うところがある。

 しかし、ここまでフリーハンドで仕事を任される事を、素直に名誉な事だとも思っていた。

 人に仕事を任せるという事は、その相手を信頼するという事。

 一人の人間として信用はされてないかもしれないが、仕事を任せられると信頼されていると受け取っていた。


(さて、面倒な事は押し付けたし、俺はどうしようかな)


 残念な事に、ゲルハルトはゾルドの性格を理解していなかった。

 ゾルドは他人に仕事を押し付け、空いた時間をどう快適に過ごすかという事を考えていた。


「閣下にはブリタニアとの交渉をお願いできますでしょうか? 恥ずかしながら、我らでは如何ともし難く……」


 普通の人間に魔族との交渉は無理だ。

 本能的に恐れを抱いてしまう。

 それを魔神であるゾルドに任せようと、ゲルハルトは考えた。


 幸か不幸か。

 ゲルハルトは己の好プレーにより、他人に仕事を押し付けておいて、自分は怠けるゾルドの姿を見ずに済んだ。


「わかった。それは俺がやってみよう」


 ゾルドは良い返事を返したをしたが、内心では嫌がっていた。

 仕事を任された事にではない。

 ブリタニアに行く事が嫌なのだ。


(誰か大使みたいな奴を送ってもらうだけだ。それくらいなら、きっと上手くいく)


 そう考えて頑張ろうとしていたが、どうしても追い出された時の事が脳裏に浮かぶ。

 金を稼いだ事で少しは見直してもらったようだが、ほんの少しだ。

 またニーズヘッグを怒らせ、侮蔑の視線を向けられるのではないかと思うと、どうしても不安な気持ちになってしまった。

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