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外道? 悪党? だからなに?  作者: nama
第六章

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 ゾルドが屋敷に戻ると、裏庭の方が騒がしかった。

 馬を任せている厩務員もいないので、料理人達だけではなく、他の者も集まっているようだ。


「まったく、門番すらいないってどういう事だ」


 ゾルドは誰も出迎えに来ない事に不機嫌になっていた。

 旅から帰って来た時はゴツイ男が門前に居たのに、今は誰もいない。

 皆が裏庭に集まって、ヒュドラの素材を剥いでいるのではないかという考えが浮かぶ。


「アダムス兄さんがユーグ達の件を解決したからじゃない? 何をしてくるのかわからないから、警戒してたんであって、問題が解決したら門番が必要無くなったとか」

「あー、そういえばそんな事言ってたような」


 ホスエに言われて”今は非常時だ”という言葉を思い出した。

 もしかしたら、差し止め命令を無視して差し押さえをしようとしたりしていたのかもしれない。

 それを防ぐために門番を置き、不審者を追い払っていたのだろう。

 犯人がユーグ達の組織で、ヘンリクスがアダムス・ヒルターを狙っただけだったので、その件に関しては解決済み。

 だから、誰も居なかったのだ。


「とはいえ、人も増えて来たし、交代で門番をやらせた方が良いだろうな。出迎えがあるのと無いとじゃ大違いだ」

「それじゃ、明日にでもその話を皆でしようよ」


 ゾルドはホスエの言葉にうなずく。

 誰も出迎えないよりは、出迎えが居る方が良い。

 万が一、客が訪ねて来た時に待たせてしまう事になる。

 せっかくポリスボックスのような物も設置しているので、交代で一人くらいは立たせておこうと思った。


「とりあえず、裏庭に行ってみよう。放置しっ放しも肉が痛むしな」

「どうなってるのか気になるもんね」



 ----------



「どうなってるんだ、これは……」


 裏庭のヒュドラの首の横には、急遽作られたであろう鉄板を載せた台や調理台が作られている。

 その周囲では、料理人が肉の下ごしらえをしたり、軍人組が何かを運んでいた。


「あなた、お帰りなさい。お土産は喜んでもらえた?」


 状況についていけずに立ち止まっていたゾルドに、レジーナが声をかける。

 ゾルドがそちらを振り向くと、レジーナがテレサやミランダと一緒に椅子に座っていた。

 テーブルの上には飲み物や食器が用意されている。


「あぁ、喜んでもらえたよ。やっぱりビビってたけどな。ところで、これはなんだ?」


 城での出来事の説明はそこそこに、ゾルドは今の状況を確認しようとした。


「これはね、料理長が”新鮮な肉が入ったんだからバーベキューをやりましょう。肉も食べたいだけ、その場で確保できますから”って始めたのよ。私も鉄板を載せる台を魔法で作ったんだから」

「あっ、あの鉄板テオ達の鍛錬用に用意してたやつだ」


 ホスエがいくつかあるバーベキュー台を見て、思わず声を上げる。

 二メートル四方もある鉄板を、どう鍛錬に扱うのか気なるところだ。

 だが”ゾルド兄さんもやってみる?”と話を振られるが嫌でゾルドはスルーした。

 わけのわからない鍛錬などやりたくない。


「終ったら、ちゃんと洗浄の魔法で綺麗にしておくわ」

「いえ、別に使ってくれてもいいんですよ。まさか、バーベキュー台に使われているとは思わなかったから驚いただけです」


 どんな鍛錬かわからないが、トレーニング器具が調理道具になってるなんて事、ゾルドだって考えもしなかった。


(いや、お袋のダンベルみたいなものか。……うーん、違うかな)


 ゾルドは母親の事を思い出した。

 ゾルドの母は、健康と若さを保つためにとダンベルを買ったはいいが、飽きて漬物石として使ってしまっていた。

 直接的に使うか、間接的に使うかの違いはあるが、トレーニング器具が調理道具のような物に変わったようなものだろう。

 当時”飽きるの早っ”と驚いていた記憶がある。


「じゃあ、あいつらが運んでるのはなんだ?」


 ゾルドは軍人組の、使用人達とは違う体つき良い男達を指差した。


「炭よ。あと、野菜を運んだり、みんなの椅子やテーブルを用意したりしてよく働いてくれているわ」


 使用人もそれなりの数がいるが、突然決まったバーベキュー用に野菜を切ったりするなど、厨房の手伝いをしている。

 人手が足りなくなったので、荷物運びなどの雑用を軍人組が引き受けていたのだ。

 こういった雑用でもキビキビと動く姿は見ていて気分が良い。


「ねぇ、あなた。隣に座って」


 レジーナが自分の隣の席を勧める。


(まったく、俺も罪作りな男だ)


 きっとレジーナはゾルドが恋しいのだろう。

 そう思い、レジーナの勧めるがままに隣に座った。

 どうせ立っていてもやる事がない。

 雑用は屋敷の主人がするべき事ではないからだ。

 ホスエもテレサの隣に座ろうとして、一人足りない事に気付いた。


「あれ、マルコは?」

「ヒュドラの首を見てたわ。”このヒュドラはお父さんが倒したのかな”って気になってたみたいよ」


 テレサがホスエにマルコの事を教えた。

 マルコのお土産は”ホスエが倒したヒュドラだ”とは教えていたが、夕食のヒュドラは誰が倒した者か教えていなかった。

”もしかして、お父さんが?”と気になったマルコは、始めて見る大きな魔物を間近で見学している。


 もちろん、首を切り落とすなんて真似ができるのはホスエだけだ。

 ゾルド達はヒュドラを痛めつけるだけで、首を一刀両断になんて最後までできなかった。

 むしろ、剣の長さ以上の太さがある首を切り落とせるホスエが異常なのだ。


「それじゃあ、教えてあげようかな」


 鱗だけではない。

 生首を一本丸ごとホスエの手柄が目の前にあるのだ。

 きっと尊敬を眼差しを向けてくれるに違いない。

 そう期待したホスエは、少しソワソワとしていた。


「ミランダ。あなたもお父さんのお話を聞いてきたら?」

「うん」


 テレサの言う通り、ミランダは席から立った。

 女の子とはいえ、まだ子供。

 未知の物には興味がある。

 魔物は怖いが、ホスエと一緒なら大丈夫だと、子供ながらに感じ取っていた。

 そんなミランダに対して、ホスエの挙動がやや怪しくなる。


(ホスエ……。そこは素直に手を差し出せ)


”娘と手を繋いで歩き、自分の倒した魔物の話をしたい”


 ホスエと付き合いの長いゾルドでなくとも、一目でその心情が読み取れるだろう。

 落ち着きのないホスエの手を、ミランダが手に取った。

 ミランダがニッコリ笑うと、ホスエはデレっとした表情になる。


(子供に気を使われてどうするよ……)


 マルコを探しに行った二人の背中を見ながら、ゾルドはそんな事を考えていた。

 だが、ホスエも突然二人の子持ちになった新米パパ。

 口に出してからかったりはしない。

 まだまだこれから先があるのだから。


「ねぇ、あなた」


 レジーナがゾルドの腕に手を伸ばしてくるので、脇を少し開けて腕を絡めやすくしてやる。

 しかし、ゾルドの予想とは違う事が起きた。


「痛っ! 何を――」


 レジーナが腕に爪を立てている。

 抗議の声を上げようとしたが、レジーナの視線が冷たい。

 いや、レジーナだけではない。

 テレサもゾルドを見る目が冷たかった。


「旅は楽しかったようね」

「何の事だ?」


 凍り付くような冷たい声色。

 何かヤバイと感じ取ったゾルドは、しらばっくれる。

 だが、レジーナの爪がより深く食い込んだ。


「聞いたのよ、テオドールとラウルに。少しカマをかけただけで全部喋ってくれたわよ」


(おいぃぃぃ、何ベラベラ話してやがんだよ!)


 今回の旅はゾルドが娼館で遊んでも、レジーナに報告するように誰も頼まれていなかった。

 だから、安心して遊びに行っていたのだ。

 少しカマをかけられたくらいで話されてはたまらない。

”記憶にございません”だとか”何かを申し上げる立場にない”と平然として受け流してくれてもいいだろうに。

 文句を言ってやろうと周囲を見回すが、二人の姿が見つからない。

 きっと雑用の手伝いとか言って、この場から逃げ出したのだろう。


 レジーナはブリタニア島から帰って来てから嫉妬を隠さなくなった。

 これはゾルドがレジーナに”お前が俺の一番だ”とハッキリと伝えているせいだ。

”お前だけを愛する”と言ってくれたとレジーナは受け取っている。

 にも関わらず、ゾルドは旅先で女遊びを楽しんでいた。

 その事を聞いたレジーナの心は、嫉妬の炎が燃え上がっていた。


「待て、それはお前のためなんだ」

「私の?」


 ほんの少しだけ、レジーナの手が緩む。

 だが、それは一瞬の事。

 すぐにまた爪を食い込ませる。


「嘘よ! なんで浮気をする事が私のためになるっていうのよ!」

「お前が妊娠しているからだ」


 今度こそレジーナの手が緩む。

 そして、ゾルドの続きの言葉を待った。


「妊娠中の行為は流産するって聞いた事がある。だから、我慢できなくなって、お前を押し倒したりしないようにするためだ。子供を欲しがっていた、お前のためにな」

「あっ……」


 レジーナはゾルドから手を離す。

 ブリタニア島から帰って来た時、ゾルドに自分が一番大切な女である証拠が欲しいと言った。

 その事を忘れずにいてくれたのだ。

 娼館に行った事は腹立たしいが、自分の事を思ってくれての行動ならば我慢できなくもない。

 レジーナは爪を立てていた場所を優しく撫でた。


「ごめんなさい。最近感情が抑えられなくて……」


 悲し気な表情を浮かべるレジーナに、ゾルドは優しい言葉をかける。


「良いんだ。妊娠中はそんなものだって話しは聞いた事がある。気にするな」


 ゾルドは、そっとレジーナの腹を撫でる。

 確かに大きいが、何度見ても女の腹の中に子供がいるとは思えない。

 だが、女の腹の中で育ち、外に出て来るのだ。

 生命の営みとは本当に不思議な物だと、ゾルドは考えていた。

 そこへ、横から追撃を食らう。


「でも、ジョシュアまで連れて行く必要ないですよね?」


 ゾルドの手にピクリとした反応を感じた。

 お腹の中の子供が動いたのか、それとも……。


「レジーナ、落ち着け。なっ。お腹の子に良くないぞ」


 テレサの言葉で、レジーナは般若のような表情を浮かべている。


「子供に良くないのは、どこの父親かしらね。ジョシュアまで巻き込むなんて」


 ゾルドは知らなかったが、レジーナとテレサは留守番をしている間に仲良くなっていた。

 種族や年齢が違えど、身近にいる女の悩みを話す相手という事で、話をする機会が増え、妊娠中の過ごし方や子供の育て方などを話している内に、二人の距離が縮まっていったのだ。

 だから、レジーナはジョシュアにまで女遊びを教えたゾルドに怒りを覚えた。


「けど、それはほら……。テレサのために良いかなーと思ってさ。ジョシュアはテレサが初めてだったみたいだし、経験を積んだほうが良いかと思ってな」


 自分が遊びに行きたかっただけだが、ホスエには”テレサは娼婦で経験豊富だから、気持ちよくさせてやらないとガッカリされるぞ。練習しよう”と、そそのかして連れて行っていた。

 その適当な言い訳を口にしたが、テレサは納得いかなかった。


「そんなわけないじゃないですか! 無垢なジョシュアを自分の色に染めていくのが楽しみだったのに!」

「お、おう……」


(マジか、この女……)


 経験豊富な男が無垢な女を自分好みに育て上げるというのは、エロゲーなどでもよくある話だ。

 今回はその逆。

 経験豊富な女が無垢な男を自分好みに育て上げようとしていた。

 まさかのカミングアウトに、ゾルドはドン引きする。


 テレサも自分の言葉に対するゾルドの反応で失言だったと気付いてしまった。

 目をギュッと閉じて下を向いてしまう。

 猫耳がピクピク動いているので、激しい感情の動きがあるのだろう。


 ゾルドはあまりテレサと積極的に話をしていなかった。

 どうせなら、この機会に聞いておこうと一歩踏み込んだ質問をする。


「なぁ、テレサ。お前はホスエの事をどう思っている?」

「愛しています」


 ゾルドの質問に、テレサは顔を上げてキッパリと言い切った。

 だが、ゾルドの質問は、その質問だけで終わらなかった。


「そうか。では、子供達はどうだ? 愛しているのか?」

「あなた!」


 レジーナがゾルドを止めようとする。

 その質問は一歩どころか踏み込み過ぎだ。

 テレサはゾルドとしばらく見つめ合い、溜息を吐いた。


「……気付いてらしたんですね」

「えぇっ」


 テレサの答えにレジーナが驚く。

”魔神だけあって、心の中を見抜かれてしまった”とでも言いたいような表情のテレサ。

 全てを諦めてしまったかのような印象すら受ける。


「なんとなくだがな」


 何も気付いていないが、ゾルドはこの流れに乗った。

 もしかしたら、娼館に行った事をうやむやにできるかもしれない。

 そう思うと、とりあえずで返事をしてしまった。


 ……いや、実際は疑問に思った事がある。

 ホスエによってテレサが屋敷に連れて来られた時の事だ。

 テレサは子供達の存在を話さなかった。

 あわよくば、そのままホスエと二人っきりの新婚生活でも楽しみたかったのではないかと疑った事がある。

 ゾルドだって何も気付かなかったわけではなかったのだ。

 本人がその事を忘れていたので台無しだが。


「最初はジョシュアと二人で暮らしたいと思っていました。だって仕方ないじゃないですか。父親が誰かわからない子なんて、受け入れられる人なんていませんから。私だって幸せになりたかったんです」


 テレサの言葉にレジーナが思わずうなずいた。

 ジャックや、他のゾルドの子供達を見ても母性をくすぐられなかった。

 他人の子を自分の子として扱える者なんて、まずいない。

 ホスエに愛されるために、子供を重荷に思って捨てようとしてしまったとしても責められない。


「でも、ジョシュアは受け入れてくれた。だから、あの子達は二人の子供として大事にしようと思い直しました」


 ゾルドにはテレサの事を責めるつもりは無い。

 だが、テレサはそうは受け取らなかった。

 子供を見捨てて、自分だけ幸せになろうとした事を責められると思っている。

 今にも泣きそうな顔をして、ジッとテーブルの上を見つめていた。


「あぁ、そうしてくれ。けど、俺はお前の判断を責めようとしたわけじゃない」


 ゾルドにそう言われて、テレサは真剣な顔でゾルドの目を見つめる。

 そして、続く言葉を待った。


「必要の無い物を切り捨てようとする事は理解できる。だが、お前も俺にとって必要の無い物だという事は知っておいて欲しい」

「……はい」


 元々ゾルドとは何の関係も無い。

 こうして良い暮らしをさせてもらえているのも、全てホスエのお陰だ。

 しかし、わかっていたとしても、ここまでハッキリ言われると悲しくなる。

 テレサの両目から、大粒の涙がこぼれだした。


「一度は見捨てようとした子供でも、ジョシュアが自分の子として受け入れたら、良い母親としての姿を演じられるんだろう? だったら、ジョシュアとの間に子供ができても、マルコやミランダをぞんざいな扱いにするな。最後まで良い母親を演じきれ。あいつもきっとそれを望む。そして、あいつが望む以上はここに居ていいし、俺も義理の妹のように扱おう」


”お前はホスエに家族ゴッコを楽しませていればいい”と、テレサに言ったようなものだ。

 ゾルドにとって大切なのはテレサでも、その子供達でもない。

 ホスエなのだ。

 ホスエを満足させている間は、置いてやってもいい。


「あなた、言い過ぎよ!」


 レジーナが咎めるが、ゾルドは口に出した事を後悔などしていない。

 自分で話している内に”そういえば、なんでこいつはレジーナと一緒に俺を問い詰める資格があると勘違いしているんだ?”と腹が立ったからだ。

 テレサには一度自分の立場を思い知らせる必要があると思っている。


「わかりました……。私もジョシュアと仲良く暮らしたいので頑張ります」


 テレサにはどこにも行く場所が無い。

 ゾルドに屋敷を放り出されたら、今度は自分の意思で娼館で働く事になる。

 それだけは避けたかった。


 せっかく幼馴染のホスエと暮らせるようになったのに、それを手放すような事はしたくない。

 ホスエのお陰で人並みの幸せを手に入れる事ができたのだ。

 その生活を維持するために、ホスエが求める理想の妻や母親を演じる事くらい大した事ではない。


”娼館で女を買いに来る客のために笑顔を作る”


 それに比べれば、ホスエとは一緒にいるだけで自然な笑顔を向ける事ができる。

 多少の演技など苦にならない。

 人の良いホスエ相手なら、最後まで騙し通せる自信もある。

 ストレートに言われて傷付きはしたが、ゾルドの言うように”幸せな家族ゴッコ”を断る理由は無かった。

 自分にも大きなメリットがあるからだ。

 テレサはその申し出を引き受ける。


「あれ、どうしたのテレサ?」


 話が終わった時、ちょうどホスエがテーブルに戻ってくる。

 右手にマルコ、左手にミランダと、両手で子供達を手を繋いでいる。

 嬉しさで顔が緩み切っている。

 しかし、涙を流すテレサの様子を見て表情が硬くなった。


「旅先で時々遊んでいた事をテオドールとラウルが話したようでな。二人に責められていたところだ」


”ホスエに家族ゴッコを楽しませろ”


 そんな事を言っていたなんて、ホスエ本人には言えない。

 ホスエはゾルドの命の恩人というだけではなく、かなり頼りになる戦力だ。

 本当の事を言って嫌な思いをさせる必要はない。

 テレサを庇う事で、間接的にホスエを守っていた。


「あっ。ごめんね、テレサ。テレサと離れて寂しかったから……」


 ホスエはホスエでゾルドを庇い、そそのかされて娼館に行ったとは言わなかった。

 子供達から手を放し、テレサの隣に座る。


「許して欲しいとは言わない。けど、もう悲しませるような事はしないと約束する。本当にごめん」


 ホスエ自身、テレサが見知らぬ男達に抱かれていたと知った時は気が狂いそうだった。

 自分も同じ思いをさせてしまったと、後悔していた。


「ううん、いいの。でも、その分幸せにしてね」

「もちろんだよ!」


 二人はしっかりと抱き締め合い、熱い口付けを交わす。

 それを見たレジーナが、ゾルドの腕に手を回した。


「さすがジョシュア。誠実な人ね」


 まるでゾルドへの当てつけのようにレジーナが呟いた。

 ゾルドは言い訳をしていたが”ごめん”の一言も無かった。

 素直に謝り、誠実な対応をするホスエとの対比で、より一層酷く思える。


「悪かったよ。これからは(バレないようにしか)しないから、許してくれよ」

「何か含むところがありそうだけれど……。まぁいいわ。これからは本当に頼むわね、お父さん」


 レジーナはゾルドが父親になる事を強調する。

 浮気をする事はレジーナだけではなく、生まれて来る子供に対しても裏切り行為だと言わんばかりに。


「あぁ、前向きに考えよう。さて、酒でも用意するかな」


 ゾルドはレジーナから逃げ出した。

 そのまま隣に座っているのは、どこか気まずさを感じていた。

 気分転換に、土産として大量に買っていた各地の地酒などを取り出し、空いているテーブルに並べていく。

 

 ゾルドは”結婚しよう”とプロボーズをしていないので、妻を持つという意識が無かった。

 それに、子供の父親になるという実感も無い。

 ゾルドは人生を楽しむために女を抱いていただけなのだ。


 ジャックだって勝手に生まれ育ち、他の子供達は母親が育てている。

 子供は多いが、子育てにはノータッチだ。

 父親としての自覚を持ちようが無い。


 まだ日本に帰って両親に会いたいと思っているように、自分が親になって家庭を支えるという自覚がゾルドには無かった。

 子供が産まれた時に自覚が持てるかどうか。

 それはゾルド本人も自信が無かった。

 人間から魔神になったという事すらイマイチ自覚しきれていない。

 家庭を持つという事の意味を理解するには、まだ少し時間が必要だった。

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