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実家へ帰ろう

8月10日


仙台から東京へ帰ってきてしばらく経つけれど、『財団』の刺客が送られてくる気配はなく、かずちゃんのご両親の安全は間違いないと見ることにした。


それに、そろそろ行かないといけない時期だったしね。


「神林さ〜ん…な〜んでこんなに荷物が多いんですか〜?」

「アイテムボックスを使えないからね。普通にカバンで持っていくしかないのよ」

「だからって、こんなにいりますか?何日分の服を持っていくつもりなんですか?」


かずちゃんは、大量の衣服が入ったカバンを両手に持ち、私に文句を言ってくる。


アイテムボックスのおかげで、久しくカバンに荷物を詰めるということをしなかったせいで、こうやって運ぶのはかなり面倒だ。


途中までアイテムボックスに入れてもいいんじゃないかと、心の中の悪魔が囁いてくるが、どこで親戚に会うかわからない以上、用心するに越したことはないだろう。


「今のかずちゃんならそこまで重くもないでしょう?頑張って運んで」

「だからって、全部の荷物を私に持たせるのはおかしいと思います!イジメ!虐待!DV!」

「何言ってるの?カバンに詰まってる服はほとんどかずちゃんの物だよ?大人しく運んでね〜」

「ぐぬぬぬ……」


私はもとからそんなにたくさんを服を持っていないので、あんまり服は入れていない。


ただ、かずちゃんはそういうわけにもいかず、沢山服を持っているから、その分荷物が増えたのだ。


あの荷物の殆どは、かずちゃんのものだったりする。


「さてと、はい乗車券。早くリニアのホームに行くよ?」

「……両手が塞がっている状態で、どうやって受け取れって言うんですか」


両手を上げて荷物の存在をアピールしつつ、ジト目で文句を言ってくる。


「口で『はむ』ってやったら?いつも私が寝てる時に、指やちく―――」

「大丈夫です!普通に手で取ります!」


私が最後まで言い切るのを待つことなく、かずちゃんは慌てた様子で乗車券を受け取った。


不満そうな顔をするかずちゃんはとっても可愛らしく、思わず頭を撫でたくなってしまう。


けれど、そうやって調子に乗って頭を撫でると、怒ったかずちゃんが噛みついてくるから、やめておく。


前に仙台で喧嘩して以来、かずちゃんは普通に暴力を振るってくるようになったからね。


なにかしたら、噛みつかれるのはよくあること。


(まあ、そうやって怒るかずちゃんも可愛いから、私は全然いいけどね)


冷静になってから、自分が傷付けた私の体を見て、甲斐甲斐しく回復魔法で治してくれるかずちゃんはとっても可愛い。


あのシュンとしおらしくなったかずちゃんの顔を見ると、もっと虐めたくなるんだ。


「……その顔はアレですね?良からぬことを考えているときの顔です」

「バレた?」

「バレますよ。その顔をしてる時は、だいたい後でいじめてくるので」


なんだ、そこまでバレてるのか。


流石にいじめすぎたかなぁ…


「かずちゃんは、私にいじめられるのいや?」

「全然気にしてませんよ。私も神林さんの事を、ちょっといじめたくなる時があるので」

「いじめるって……すぐにしおらしくなって、甘えてくるじゃない」

「それは……その、私は人をいじめるには向かないので…」


……かずちゃんは、自分がイジメられていた経験があるから、その辛さをよく知ってる。


だから、他人に同じことはできないんだろう。


「よしよし。かずちゃんは偉いね〜」

「むぅ…私の頭を撫でるくらい手が空いてるなら、これを持ってくださいよ」


私が頭を撫でると、かずちゃんは頬を膨らませてかずちゃんの服が沢山入った重たい方のカバンを、差し出してきた。


「そっちなら持ってあげてもいいよ?私の荷物も入ってるし」


自分の荷物くらい、自分で持つことだね。


私の服が入ってる軽い方のカバンなら持ってあげてもいいよ。


「むぅ…やっぱりアイテムボックスに入れましょうよ」

「ダメよ。『私の言うことを聞く』それが、ついてくる条件だったでしょ?」

「は〜い…」


そう言うと、かずちゃんは渋々私の言うことを聞いてくれた。


そんな事をしているうちに、リニアが到着し、京都に向けて出発した。

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